毒素シンポジウム
トップページ

第53回毒素シンポジウム若手奨励演題

Y-1 エラブウミヘビ由来PLA2における分子多様化の解析

河原井 裕、○林 由訓、田宮 徹 (上智大・理工・化学・生物化学)

【研究目的】
哺乳類由来sPLA2はスーパーファミリーを形成し、様々な組織に分布している。それぞれ多様な生理現象に関与している。さらにPLA2は蛇毒の主要な成分であることも知られている。しかし、これまでに同一種のヘビからI型とII型といった型の異なる PLA2 は確認されていない。同じ脊椎動物である爬虫類と哺乳類で生体恒常性維持のメカニズムに大差はないと考えられることから、爬虫類でも生理機能を持った多種のPLA2 の存在が考えられる。また、同一種のヘビで型の異なるPLA2の一次構造を比較できれば、PLA2 の進化に伴う分子の多様化を考察できると考えられる。エラブウミヘビからは、IA型PLA2、IB型PLA2遺伝子が単離されている。そこで本研究では、哺乳類で生体恒常性維持に関わる血液中で機能しているIIA型 PLA2を対象とし、PLA2活性阻害剤による阻害様式や血小板凝集観察と共に、エラブウミヘビ遺伝子のクローニングによる新奇PLA2アイソフォームの検索をとうして、エラブウミヘビ由来PLA2 の分子多様化機構を明らかにすることを目的とした。

【結果と考察】
既知のI 型及びII 型 PLA2 アイソフォームに対する各阻害剤のPLA2活性阻害効果を調べた結果、quercetinは、I 型PLA2 に比べ、II 型 PLA2 を優位に阻害していた。次に、エラブウミヘビ血清粗精製画分 (飽和硫安濃度 40〜50%画分) を用いて同様に実験を行った結果、quercetin の方が chlorpromazineより低濃度で PLA2 活性を阻害した。以上より、エラブウミヘビ血液由来 PLA2は II 型 PLA2と予想された。thrombinを活性因子として、エラブウミヘビ血液由来PLA2の血小板凝集能を、quercetin 及び chlorpromazineの存在下で調べた。両阻害剤とも濃度依存的傾向は見られなかったが、凝集は阻害していた。 以上の事から、エラブウミヘビ血液由来PLA2の機能の1つとして、哺乳類同様、血液凝固作用が考えられた。エラブウミヘビ血球由来cDNA poolを作製し、IIA型 PLA2を対象としたPLA2アイソフォームの検索を行った。nested PCRによりPLA2遺伝子を単離し、塩基配列を決定した。推定アミノ酸配列を基に脊椎動物由来PLA2 (I、II型)との系統樹を作成した結果、IIA型PLA2に 属することがわかった。さらに、Danseの定義(1)により、分類した。Signal peptide配列末端、成熟タンパク質49番目のアミノ酸の違いにより、単離したクローンはIIA型に属することがわかった。以上の事から、爬虫類にお いても同一種中に型の異なるPLA2が発現していることが明らかになった。

(1)Danse, J.M. (1997) Molecular biology of snake venom phospholipase A2. In Kini, R.M. (ed.), Venom phospholipase A2 enzymes. John Wiley & Sons Ltd, NY, USA, pp. 29-72

Y-2 エンドトキシンによる抗がん剤誘発細胞死の抑制メカニズム

○Ferdaus Hassan (愛知医大・医・微生物・免疫学)

アドリアマイシン(doxorubicin、DXB)は、アントラサイクリンの誘導体で広く抗がん剤として用いられる。その細胞毒性は、さまざまなメカニ ズムが想定されているが、その詳細はまだ不明である。さらに、アポトーシスに関連するさまざまな分子が、このDXB誘導アポトーシスを制御している。
エンドトキシン(LPS)は、マクロファージを活性化させ、さまざまな炎症性メディエーターを誘発し、全身性炎症性反応症候群を導く。今回、LPSがDXB誘導アポトーシスにおよぼす作用を検討した。
DXB(10mM)はRAW264.7細胞に明らかな細胞死を誘導したが、 LPSで前処理された細胞では、細胞死が抑制された。LPS濃度が10ng/mlより1000ng/mlのほうがその抑制効果は強かった。DXB処理の1 時間前から1時間後にLPSを処理すれば、抑制効果は認められたが、6時間以降では細胞死を抑制することはできなかった。以後の実験は、 LPS100ng/mlで30分前に前処理し、DXB10mMで処置された。DXBで誘導された細胞死は、DNA断片化、caspase 3の活性化などから、アポトーシスによると考えられた。LPSは、LPS不応答性のC3H/HeJマウスの腹腔細胞をDXB誘導細胞死から守ることはでき なかったが、BALB/cマウスの腹腔細胞は細胞死が抑制された。LPS前処理をしても、コメット法により測定されたDXBによるDNA傷害を有意に抑制 しなかった。p53の抑制剤であるpifithrinで、DXB誘導アポトーシスが抑制されたことから、DXBによる細胞傷害にp53の関与が推定され た。DXB処理RAW264.7細胞は、p53が免疫組織染色で陽性に染まったが、LPS前処置された細胞では染まらなかった。また、p53の核内移行 は、DXB処置細胞では検出されたが、LPS前処置細胞では認められなかった。各種シグナル阻害剤を処理しても、LPSによる抑制効果を阻害できなかっ た。
今回、LPSが、抗がん剤アドリアマイシンで処理されたRAW264.7マクロファージ細胞のアポトーシスを抑制することを見出した。アドリアマイシン は、直接DNAを傷害し、p53の発現を導き、アポトーシスを誘導すると考えられ、LPSはそのp53の安定化、核内移行を阻害することによりアポトーシ スを抑制することが示唆された。
各種抗がん剤は、さまざまな機序で細胞傷害を引き起こす。今回、LPSは、アドリアマイシンなど直接DNA傷害を起こすような抗がん剤の細胞傷害のみを抑制した。抗がん剤の副作用軽減にLPSを利用できる可能性が示唆された。

Y-3 Plesiomonas shigelloidesの感染初期段階におけるGroELの付着促進機構

津川 仁、大川 喜男 (東北薬科大・感染生体防御学)

【序論】
Plesiomonas shigelloidesは腸管病原性細菌であり、食中毒指定細菌である。これまでに、我々は、本菌が Caco-2細胞へ細胞骨格依存的な侵入を果たした後、アポトーシスを誘導することを報告した。このことより、本菌にとって宿主細胞との相互作用(付着、 侵入)は病原性発現にとって、重要なファクターとなっていると判断した。そこで、今日種々の病原性細菌においてGroELがバクテリアの付着に重要な役割 を果たしていることが報告されていることより、我々は、P. shigelloidesの産生するGroELに注目した。GroELはシャ ペロンタンパク質ファミリーに属しており、heat shock proteinとしても知られているが、主たる機能は、産生タンパク質のリフォールディングである。しかしながら、本研究において、本菌のGroELは細 胞外に分泌され、菌体外膜表層に会合していることが明らかとなり、更に、GroELによる宿主細胞への刺激は、P. shigelloidesの付着を促進させることが明らかとなった。このGroELによるP. shigelloidesの付着促進効果について検討を行ったので報告する。

【結果並びに考察】
RT-PCR並びにウェスタンブロットより、菌体外膜表層に会合するGroELは、感染初期段階(付着時)においてその発現量が上昇することから、P. shigelloidesの付着時になんらかの役割を担うことが考えられた。そこで、精製GroELで37℃1h前処理したCaco-2細胞へP. shigelloidesを感染させると、GroELの用量依存的にP. shigelloidesの付着が促進された。このことから、GroELはなんらかの細胞応答を誘導し、P. shigelloidesが 付着を成立させやすい環境を提供していると考えられた。そこで、我々は、GroELによって発現が誘導されるCaco-2細胞側の因子として、RT- PCR並びにフローサイトメトリーを用いて、Caco-2細胞表層のIntercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1)を同定した。次に、GroEL刺激によってCaco-2細胞表層のICAM-1を誘導した後、Anti-human ICAM-1 antibodyにて処理し、P. shigelloidesを感染させると、GroELによって促進される本菌の付着が抑えられた。以上の結果より、P. shigelloidesの菌体表層に会合するGroELは、宿主細胞とのコンタクト時に発現が上昇し、宿主細胞を刺激する。GroELによって刺激された宿主細胞は細胞表層にICAM-1を過剰発現し、P. shigelloidesはこれをレセプターとして認識することで付着を容易に成立させると考えられた。

Y-4 ハブ毒筋壊死因子Lys49ホスホリパーゼA2の毒性発現機構の解明

瀬戸 美苗1、小川 智久1、村本 光二1、大野 素徳2 (1 東北大院・生命科学、2 崇城大・生物生命)

【背景と目的】
ホスホリパーゼA2[PLA2;EC 3.1.1.4]、はクサリヘビ科ヘビ毒中では主要な毒成分であり、溶血、神経毒性、浮腫形成、抗凝固作用や筋壊死など多様な毒性を示すアイソザイムとして存在する。特にカルシウム結合部位である49位アスパラギン酸がリジンへと置換したLys49 PLA2は、強い筋壊死作用を示す。Lys49 PLA2は C末端部の疎水性、塩基性に富んだ残基が筋壊死を引き起こす構造因子と考えられているが、これを直接示した実験は現在のところない。また、毒性の発現とホ スホリパーゼ活性との関わりも明らかではない。そこで本研究では、C末端部の三つのリジン残基、およびホスホリパーゼ活性に重要な48位のヒスチジン残基 をそれぞれアラニンに置換した変異体を作成し、毒性発現に関与する残基を特定することを目的とした。

【方法と結果】
1.組み替えLys49 PLA2発現系の改良
大腸菌を宿主としたLys49 PLA2発現系については、昨年の本シンポジウムで報告した。今回さらに封入体化を避けるために、マアナゴ体表粘液由来ガレクチンCongerin2との融合タンパク質とシャペロンとを共発現させた。その結果、Lys49 PLA2融合タンパク質の可溶性は大幅に改善され、収量も増加した。
2.変異体の作成
部位特異的変異導入によって、C末端部に存在する114位、118位、119位のリジン残基をそれぞれアラニンへ置換した変異体(K114A、 K118A、K119A)、および三置換体(K114A/K118A/K119A)を作成した。これらをCongerin2との融合タンパク質として発現 させ、アフィニティークロマトグラフィー精製した後、トロンビン消化によりタグを選択的に切り離し、精製した。
3.細胞毒性試験
ヒト腎臓由来SW839細胞に対する細胞毒性を測定し、Lys49 PLA2のC末端塩基性残基の役割を調べた。結果、K118A変異体でLys49 PLA2と比較して毒性の低下が見られ、C末端塩基性残基が毒性発現に関わっていることが示唆された。現在、他の変異体についても試験を行なっており、あわせて報告する。

Y-5 Vibrio vulnificus hemolysinの活性発現に重要なアミノ酸残基

○妹尾 充敏1、篠田 純男2、三好 伸一3 (1岡山大院・自然科学、2岡山理科大・理、3岡山大院・医歯薬)

Vibrio vulnificusは低度好塩性のグラム陰性桿菌で、ヒトにおいて重篤な敗血症を引き起こす。この菌の主要な病原因子とし てヘモリジン(VVH)が知られている。この毒素の高次構造は解析されていないがV. choleraeの溶血毒素(HlyA)との比較により、N末側の小孔形成ドメインとC末側のレクチン様ドメインから構成されると考えられている。まず、 各々のドメインをin vitro合成法を用いて別々に調製し、それらを混合して溶血活性を測定した。しかし、活性は認められず別々の状態では機能しないタンパク質であることが 明らかとなった。
 次に、VVHが活性を示すにはどのアミノ酸残基が重要であるか調べるため、C末側の欠損変異体を作成した。その結果、C末側から2残基が失われたもの (ΔC2)は全く活性を示さず、1残基が失われたもの(ΔC1)では、活性が80%減少した。よって、C末側の2つのアミノ酸残基が活性発現に重要な役割 を果たしていることが示唆された。
 この2つのアミノ酸残基の重要性を探るべく、様々なアミノ酸に置換した変異VVHを調製し活性を比較した。N450(C2)の置換では活性に大きな影響 は現れなかったが、N451(C1)の置換では、ロイシンが最も活性が高く、極性アミノ酸では活性が失われた。さらに、アミノ酸を1つ付加したVVHを調 製し活性を測定した。その結果、疎水性アミノ酸を付加すると活性が上昇すること、極性アミノ酸を付加すると活性が著しく低下することが明らかとなった。
 本研究により、VVHが活性を示すには、C末端側の2つのアミノ酸残基が重要であることが明らかとなった。また、これら2つのアミノ酸残基は、欠損すると活性を失い、電荷や極性を変えると活性が増減したことから、VVHの高次構造の維持に関わっていると考えられる。

Y-6 生息環境により変化するアエロモナスの毒素産生

○橋 栄造、Rasel Khan、岡本 敬の介 (岡山大院・医歯薬学総合研究科・薬学系)

【目的】
アエロモナスは池や河川などの淡水中に常在しているが、海水中ではその菌数は減少する。本菌はしばしば下痢原因菌として分離されている。本菌の菌 体外毒素としてヘモリジン(ALH)、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼが知られている。そこで下痢患者由来Aeromonas sobria 288株を種々の食塩濃度の培地で培養したところ、培養上清への毒素産生が食塩濃度により影響を受ける事を見い出したので報告するとともにその原因の解析 を行った。

【方法】
各毒素遺伝子(ALH、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ)をクローニングしたプラスミドをそれぞれA. sobria 104株、Vibrio parahaemolyticus SIH499株に形質転換し、0.5%、1%、3%の食塩培地で12時間培養し、培養上清および菌体の溶血活性、またはプロテアーゼ活性を測定した。ま た、各毒素タンパク質をウェスタンブロット分析で検出した。

【結果および考察】
ALHはアエロモナス、腸炎ビブリオのいずれの食塩濃度でも上清中に産生され、溶血活性を発揮した。セリンプロテアーゼはアエロモナス では0.5%食塩中で速やかに上清に産生され、活性を示すのに対し、3%食塩培地では培養上清、菌体ともに活性が現れなかった。ウェスタンブロットでの解 析の結果、3%食塩培地ではセリンプロテアーゼタンパク質は菌体中に存在しているか、活性型構造の構築に必要なシャペロンタンパク質との複合体で存在する ことが分かった。3%食塩存在下でセリンプロテアーゼは活性型に移行できなかったと考えられる。一方、腸炎ビブリオではセリンプロテアーゼは3%食塩中で も培養上清に産生され、活性を示す事から、腸炎ビブリオ中ではセリンプロテアーゼは活性型に移行できると思われた。すなわち、アエロモナスではセリンプロ テアーゼの成熟化過程が食塩により影響を受けるが、腸炎ビブリオでは受けないと推測される。また、メタロプロテアーゼはアエロモナスで0.5%食塩では上 清中に大量に産生されるのに対し、3%食塩中では上清および菌体中ともにウェスタンブロットでも検出されなかった。この結果より、セリンプロテアーゼ、メ タロプロテアーゼはいずれも食塩により培養上清への産生が阻害されるが、その阻害様式は異なる事が推測される。機構については現在検討中である。

Y-7 セレウス菌スフィンゴミエリナーゼの構造と機能

○小田 真隆1、高橋 雅也1、吾郷 日出夫2、津下 英明3、越智 定幸4、勝沼 信彦3、宮野 雅司2、櫻井 純1 (1徳島文理大・薬・微生物、2理化学研究所・播磨研究所・構造生物物理、3徳島文理大・健康科・健康科学研究所、4藤田保健衛生大・医・微生物)

【目的】
セレウス菌が産生するスフィンゴミエリナーゼ(Bc-SMase)は、スフィンゴミエリン(SM)を基質として認識し、セラミドとホスフォリルコリンに分解する二価金属依存性の中性スフィンゴミエリナーゼで、溶血活性を有している。そこで、今回、Bc-SMaseと二価金属イオンとの共結晶を作成し、三次元構造解析を行い、Bc-SMaseの酵素活性と金属イオンの関係について解析した。

【方法】
@Bc-SMaseの結晶化:酢酸カルシウム、塩化マグネシウム、そして、塩化コバルトを各々含んだ母液を用い、10℃で結晶化を行い、酵素と金属イオンの結晶複合体を得た。ABc-SMase活性の測定法:二価金属イオン存在下におけるBc-SMaseの酵素活性は、[14C-methyl]SMを用いて測定した。

【結果&考察】
Bc-SMaseとCo2+、Mg2+、そして、Ca2+との各々の共結晶を作成し、それらの3次元結晶構造を解析した。本酵素の構造内における二価金属イオンの配位数を解析した結果、Co2+は、セントラルクレフトに2個、そして、Mg2+、Ca2+の場合は、1個の金属イオンの配位が明らかとなった。さらに、いずれの2価金属イオンの場合もセントラルクレフトから離れた部位に一個の二価金属イオンが配位していることも判明した。
さらに、各々の共結晶のフーリエ解析から、Co2+、及び、Mg2+とCa2+では、その金属イオンの配位が全く異なっていることが判明した。そこで、金属イオンの配位状態と酵素活性の関係について解析するため、14C-SMの本酵素による分解に対する種々の金属イオンの影響について解析した。その結果、Co2+、及び、Mg2+添加条件下のBc-SMaseの酵素活性は、Ca2+添加条件下より約10倍高いことが判明した。従って、Bc-SMaseの酵素活性に対する金属イオンの影響は、セントラルクレフトにおける金属イオンの配位状態やイオン半径が密接に関係していると推察される。

Y-8 小児下痢症患者から分離したCytolethal distending toxin (CDT) 産生性大腸菌の分離と性状解析「若手」

○日根野谷 淳1、朝倉 昌博1、嶋 謙介1、福島 美智子1、西村 和彦1、名木田 章2、二宮 恵子3、奥田 真珠美4、勢戸 和子5、塚本 定三5、T. Ramamurthy6、山崎 伸二1 (1大阪府大院・生命環境・感染症制御学、2水島総合病院・小児科、3日産厚生会病院・小児科、4和歌山労災病院・小児科、5大阪府公衛研・細菌課、6インド国立コレラ腸管感染症研究所)

Cytolethal distending toxin(CDT)は、CdtA、CdtB、CdtCの3つのサブユニットからなるホロ毒素を形成し、ある種の細胞に対して伸張、細胞周期のG2/M期阻害を引き起こし、最終的に細胞を致死させる。発展途上国で分離されるCDT産生性大腸菌は、EPEC (enteropathogenic E. coli)の血清型に属し、EPECに特異的な病原因子を保有することから、EPECの亜型であると考えられている。本研究では我が国におけるCDT産生性大腸菌の 細菌学的性状を明らかにすることを目的として、小児下痢症患者の糞便からCDT産生性大腸菌の分離を試み、その性状を解析した。
 小児下痢症患者の糞便をTSB培地にて増菌培養後、3種類のCDT、即ちcdt -TB(T)、cdt -UB(U)、cdt -VB(V)を検出できる共通プライマ−を用いたPCRを行った。増幅断片を制限酵素消化し、その切断断片の多型を調べるPCR-RFLP (PCR-restriction fragment length polymorphism) によってCdtの型別を行った。増幅断片が得られた検体からcdt遺伝子陽性の菌を分離し、生化学的性状解析及び16S rRNA遺伝子の解析により大腸菌であることを確認した。血清凝集反応により血清型も調べた。さらに、DNAプローブあるいはPCR法にて下痢原性大腸菌で報告されている病原因子の保有状況を調べた。
 調べた406検体中37検体でcdt遺伝子が陽性となった。PCR-RFLPによりT:22検体、U:3検体、V:9検体、さらに、型別 できなかった増幅断片の塩基配列を解析することによりW:3検体、既存のタイプに型別できないものが1検体あった。分離できた34株を同定したところ、1 株を除いて大腸菌であった。最も多い血清型は、O2:HNM(11株)であり、次いでO2:H+(2株)であった。O142の1株を除いて発展途上国で報 告されているEPECの血清型に属する株はなかった。病原因子の保有状況から、典型的なEPECに属するものはなかった。ヨーロッパ諸国から報告されてい る分離株の多くもO2に属することから、発展途上国と先進国とでは分離されるCDT産生性大腸菌の性状が異なる事がわかった。毒素の生物活性についても報 告する予定である。

Y-9 筋壊死性ホスホリパーゼA2ホモログはKDR結合タンパク質である

○藤澤 大輔、松永 幸子、山崎 泰男、森田 隆司 (明治薬大・生体分子学)

【研究目的】
血管内皮増殖因子(VEGF165)はKDR(VEGFR-2)を介して血管新生や血管透過性亢進作用など多彩な生理作用を発現する。我々は2種のクサリヘビ科ヘビ毒(Vipera ammodytes ammodytes, Daboia russelli russelli)から4種のVEGFレセプターの内、KDRにのみ特異的に結合するVEGFを見出し、7番目のVEGFサブタイプとしてVEGF-Fと命名している1)。さらに最近、我々はアメリカヌママムシ(Agkistrodon piscivorus piscivorus)毒中にKDRの細胞外ドメインに10-8 M の親和性で結合するタンパク質を発見し、KDR-bpと命名した2)。一次構造解析の結果、KDR-bpは不活性なPLA2ホモログLys49PLA2と同一分子であった2)。Lys49PLA2は強力な筋壊死活性を示すことが明らかにされているが、その分子メカニズムは全く不明である。今回、KDR結合活性と筋壊死活性の相関性を調べることを目的に5種のヘビ毒から多様な生物活性を示すPLA2およびそのホモログ分子を精製し、そのKDR結合活性の解析を行った。

【方法と結果】
各種クロマトグラフィーを用いて、5種のヘビ毒より9種のPLA2およびそのホモログ分子を精製した。各分子の同定はシーケンス解析およびMALDI-TOF質量分析で行った。KDRとの結合性はBiacoreを用いて解析した。その結果、筋壊死活性を示すことが報告されている全てのPLA2およびそのホモログ分子にKDR結合能がみられることが明らかになった。一方、神経毒活性や抗血小板作用など筋壊死活性以外の生物活性を示すPLA2ホモログはKDR結合活性を示さなかった。

【考察】
今回の結果から、KDR結合能は筋壊死活性を示すPLA2およびそのホモログ分子の共通の性質であると考えた。今回、KDR結合性を示したアメリカヌママムシ毒由来のApp-D49PLA2は、PLA2活性をもつ筋壊死トキシンとして報告されている。これらを考慮すると、PLA2活性とKDR結合能は独立した性質であると考えられた。さらに、KDR結合性PLA2ホモログと非結合性PLA2の配列を比較した結果、a-helix1領域、b-wing領域、C末端領域にKDR結合性PLA2ホモログに共通した配列があることから、これらの領域が結合に関与しているのではないかと推測した。

【文献】
1) Yamazaki Y., Takani K., Atoda H., and Morita T. (2003) JBC 278, 51985-51988.
2) Yamazaki Y., Matsunaga Y., Nakano Y., and Morita T. (2005) JBC 280, 29989-29992.

Y-10 放線菌の産生する新規細胞毒素の構造及び機能解析

岡澤 淳一、○村松 伸次、大川 喜男 (東北薬科大・感染生体防御学)

【序論】
放線菌は土壌を中心に生息するグラム陽性細菌であり, その産生物は医療や農業をはじめとする様々な分野で利用されてきた. また, Streptomyces hiroshimensisの培養上清には各種ホスホリパーゼ (PL) 活性, 溶血活性, マウス致死活性, アルカリホスファターゼ活性などが報告されているが十分な研究はなされていない. 本研究で我々は新たに, Streptomyces hiroshimensisが細胞傷害性を示す高分子タンパク質毒素(細胞毒素)を産生することを見出した. そこで, 本菌の産生する細胞毒素の構造と機能を明らかにするため, 培養上清より細胞毒素の精製を行った. 続いて, 細胞毒素をコードしている遺伝子並びにアミノ酸配列の決定を目的に遺伝子クローニングを行い, さらに細胞毒素をコードする遺伝子を大腸菌において組換えタンパク質として発現し, その機能について検討したので報告する.

【方法・結果及び考察】
本菌細胞毒素はU-937 細胞に対する傷害性を指標に, 培養 5 日目の培養上清をPhenyl Sepharose HP カラムで粗分画し, 活性画分を濃縮後 MonoQ で分画し, 電気泳動溶出を行うことで単離・精製した. SDS-PAGEを行った結果, 約14 kDa の単一なバンドが得られた. このタンパク質のN末端並びに内部アミノ酸配列を解析した結果, それぞれ 20残基, 12残基のアミノ酸配列が明らかとなった. 続いて, 本細胞毒素をコードする遺伝子のクローニングを行った. Streptomyces hiroshimensisのゲノムDNAを制限酵素 Sal I で処理し, サザンハイブリダイゼーションを行った. PCRにより本細胞毒素をコードするDNA配列を明らかにし, 推定されるアミノ酸配列を決定した. その結果, 本細胞毒素は全く新規な一次構造をもったタンパク質であることが明らかとなった. さらに解明されたアミノ酸シークエンスを元に疎水性をGenetyx を用いてKyte and Doolittle 法によりプロットし, 細胞傷害性を担う領域を推定した. 次に本細胞毒素の組換え体を作製し, 各種動物細胞に対する傷害性を検討した結果, 細胞選択的傷害作用を有していることが示された. この選択性の詳細については検討中であるが, 傷害性を示した細胞の表層に本細胞毒素との親和性が高い受容体が存在している可能性が考えられる. 本研究により解明された放線菌細胞毒素はこれまでに知られているアミノ酸配列とは異なる新規な構造を有しており, この細胞毒素の傷害作用機序を解明することは意義あるものと考える.

Y-11 犬の口腔内から分離したPasteurella canisが保有するcdt遺伝子の解析

○福島美智子1、日根野谷 淳1、朝倉昌博1、西村和彦1、長谷川貴史2、本田善久3、小松澤 均4、菅井基行4、山崎伸二1 (1大阪立大・院・生命環境科学、感染症制御学、2高度医療学、3みゅう動物病院、4広島大・院・医歯薬)

Actinobacillus actinomycetemcomitans (以下A.a菌と略す。)は、人において若年 性歯周炎、急速進行性歯周炎、成人性歯周炎の原因菌と言われている。1998年、この細菌が産生する新たな毒素(cytolethal distending toxin; CDT)の遺伝子がクローニングされ、その後、歯周組織を構成する線維芽細胞の増殖を停止させ,歯周組織の破壊と修復阻害を引き起こすことにより、歯周病 の慢性炎症に関連する病原因子として働くことが示唆された。犬・猫の歯周病は口腔内疾患のなかでもその発生率が最も高く、とくに3歳以上の犬・猫の80% 以上は歯周病を生じているといわれている。歯周病は、歯垢中の細菌によって生ずる疾患であり、歯垢や歯石の付着率が高くなるほど歯周病の発生率も高くな る。犬・猫では、Porphyromonas gingivalis などの黒色集落嫌気性桿菌群が主であり、A.a菌の検出報告は詳細には調べられていない。しかし、人とペットがより密接になってきた現在、人で歯周病菌の原因菌の一つであるA.a菌が犬・猫で検出される可能性は十分にあると考えられる。動物病院に来院した犬・猫の犬歯・前臼歯歯周ポケットより歯垢を採取し、A.a菌かつcdt遺伝子の保有状況を調べる過程において、A.a由来のcdtB遺伝子を増幅できるPCRプライマーで陽性となる菌株が見つかった。しかしながら、この菌株はA.aに特異的なomp遺伝子を検出できるPCRで陰性となったことから、MicroseqR500 16 rDNA Bacterial Identification Kit を用いて、菌種の同定を試みた。その結果、その多くがPasteurella属細菌(主にPasteurella canis)であることが分かった。
以上のことから、本研究では、P. caniscdt遺伝子の構造を明らかにし、P. canis由来のcdtB遺伝子を特異的に検出できるPCRプライマーを設計し、犬や猫の愛玩動物の口腔内にどの程度の割合で本菌が存在するかについて報告する。またP. canisのCdtの生物活性についても報告する予定である。

Y-12 Vibrio mimicus の病原因子の探索

○小林 晃子1、篠田 純男2、三好 伸一1 (1 岡山大院・医歯薬学総合、2 岡山理科大・理)

Vibrio mimicusは急性胃腸炎の起因菌であり、食中毒の原因でもある。そして、病原因子として、2 種類のヘモリジン(V. mimicus hemolysin:VMH、thermostable direct hemolysin:Vm-rTDH)が報告されている。これまでに我々は、VMHの遺伝子(vmhA)およびVm-rTDHの遺伝子(tdh)の両方を保有する菌株CS-20株よりvmhAの破壊株(TKT1、TKT2、TKT3)を作製し、その下痢原活性を野生株と比較した。その結果、破壊株3 株のうちTKT2では野生株の約50 %、TKT3では野生株とほぼ同等の下痢原活性が認められた。しかし、いずれの破壊株においてもvmhAは 破壊されており、また、tdhの発現にも相違はみられなかった。そのため、in vivoにおける破壊株の下痢原活性の相違には、他の病原因子が関与していることが示唆された。この病原性に関わる因子を見つけるために、野生株と破壊株 が産生するタンパク質について網羅的な比較解析を行った。まず、ウサギ回腸ループ試験に類似した条件で培養した後の培養上清に含まれるタンパク質を、二次 元電気泳動で分離した。野生株と破壊株の培養上清の二次元電気泳動像を比較したところ、異なるスポットが12個検出された。この12個についてLC-MS 解析を行ったが、病原因子と考えられるタンパク質は認められなかった。したがって、今後は膜たんぱく質などについて、病原性に関わる因子の存否を調べる必 要があると考えられる。