毒素シンポジウム
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第54回毒素シンポジウム一般演題

O-1 ブドウ球菌エンテロトキシンA の嘔吐誘導機序

○胡 東良1),重茂克彦2),品川邦汎2),中根明夫1) (1)弘前大・医・感染生体防御、2)岩手大・農・獣医)

【目的】
ブドウ球菌エンテロトキシンA(SEA)は黄色ブドウ球菌が産生する菌体外タンパク毒素であり,スーパー抗原活性を示す一方,食中毒の重要な原因毒素である.しかし,SEA による食中毒のメカニズムはまだ明らかにされていない.我々はスンクス嘔吐モデルを用い,SEA の催吐シグナル伝達経路とその制御機構について検討した.

【材料と方法】
我々はこれまで,SEA はスンクスに対する特異的な催吐活性を示すことを報告した.今回,セロトニン(5-HT)receptor antagonist,5-HT 合成阻害剤,周囲迷走神経阻害剤(5,7-DHT)及び神経切断によるSEA の催吐活性に対する影響を調べた.SEA 刺激による腸管細胞の5-HTの産生はHPLC により測定した.また,カンナビノイド(CB)receptor がSEA による嘔吐への関与を検討した.さらに,5-HT の産生とCB1 receptor の発現について免疫組織染色により調べた.

【結果と考察】
スンクスはSEA に対し濃度依存的に嘔吐反応を示した.5-HT3receptor antagonist と5-HT 合成阻害剤の前投与はSEA によるスンクスの嘔吐を抑制した.SEA による腸管,脳,脳幹の神経伝達物の変化をHPLC により測定した結果,SEA 刺激により小腸の5-HT の産生または放出を促進した.5,7-DHT 投与と迷走神経切断もSEA による嘔吐を抑制した.また,CB1 receptor agonist はSEA による嘔吐を抑制し,この抑制効果がCB1 antagonist により解除された.免疫組織染色により小腸粘膜と腸筋層間神経叢には5-HT の産生とCB1 receptor の発現を確認した.さらに,CB1 agonist はSEA による小腸の5-HT の産生を抑制した.これらの結果により,小腸の5-HT の産生と放出,迷走神経求心性ニューロンの5-HT3 receptor はSEA による嘔吐反応に重要であり,またCB1 receptorは5-HT の産生と放出を抑制することによりSEA による嘔吐反応を制御することが示唆された.

O-2 新型ブドウ球菌エンテロトキシン群嘔吐活性の霊長類モデルによる解析

○重茂克彦1)、近藤祐子1)、今西健一2)、胡 東良3)、斎藤直之4)、加藤秀人2)、中根明夫3)、内山竹彦2)、品川邦汎1) (1)岩手大・農・獣医、2)東京女子医大・医・微生物免疫、3)弘前大・医・細菌、4)(社)予防衛生協会)

【目的】
ブドウ球菌エンテロトキシン(SEs)は、嘔吐を主徴とするブドウ球菌食中毒の原因毒素である。また、SEsは嘔吐活性と共にスーパー抗原活性を有してお り、急性全身症状を呈する毒素性ショック症候群(TSS)発症にも関与する。SEsは抗原特異性によりSEA〜SEEが知られていたが、近年多くの新型 SEs、またはエンテロトキシン様毒素(SEls)が報告された。現在、新型毒素としてSEG〜SElVの14種類が報告されているが、これらの新型毒素 の多くは未だ嘔吐活性の解析がなされていない。本研究では、SElK、SElM、SElN、SElO、SElPおよびSElRの嘔吐活性を霊長類モデルを 用いて検討した。

【材料及び方法】
実験を用いたSE(l)sは、大腸菌発現系を用いてGST融合タンパクとして発現後、アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。カニクイザル (2〜3kg)への投与実験では、各SE(l)s 10〜100μg/kgを経鼻カテーテルを用いて胃内に投与した。また、SEAおよびSEBを陽性対照として用いた。投与後5時間連続的に観察して嘔吐ま での潜伏時間、嘔吐回数を記録し、さらに投与後24時間まで飼育ケージ下の吐物の有無を観察した。

【結果及び考察】
サルへの嘔吐実験では、陽性対照であるSEA 10および100μg/kg投与では4/5頭、SEBの100μg/kg投与では4/4頭が嘔吐を示した。これらの嘔吐を示したサルを用いて被検毒素の嘔 吐実験をおこなった。100μg/kg投与でSElK、SElM、SElNは1/4頭、SElPは2/3頭、SElRは2/4頭が嘔吐を示した。潜伏期は 1〜5時間であった。SEAおよびSEBはほとんどのサルに嘔吐を引き起こしたのに対し、新型SEsでは嘔吐を示す個体数が少なく、個体による反応性に大 きな差があると考えられた。また、SElO投与では嘔吐を示した個体は認められなかった。SElK、SElM、SElN、SElP、SElRはいずれも霊 長類モデルで嘔吐活性陽性であったことから、International Nomenclature Committee for Staphylococcalsuperantigensの命名規約に基づき、それぞれSEK, SEM, SEN, SEP, SERと命名されるべきである。

O-3 Pasteurella multocida toxin (PMT)の細胞内機能領域の構造解析

神谷重樹、北所健悟、福井理、三宅眞実、○堀口安彦 (大阪大学微生物病研究所・分子細菌学分野)

【目的】
Pasteurella multocida toxin (PMT)は、RhoやPLCβ、MAPキナーゼなど様々なシグナルカスケードを活性化することによりその毒性を発揮する。これらの活性化機構は、Gqあ るいは G12/G13のヘテロ三量体のGTPaseに依存すると考えられているが、PMT毒性の分子機構は未だ不明である。そこでPMTの結晶構造解析を行い、 構造と機能の相関について検討した。

【方法】
PMTのC末領域の組換えタンパク(569?1285残基、以下C-PMT)を作製し、標的細胞内に導入しPMT活性を確認した。C-PMTを結 晶化し、X線構造解析の手法により結晶構造を決定し、立体構造相同性検索を行った。また変異型C-PMTについて組換えタンパクを作製し、結晶構造を決定 した。同時に変異型PMTについてPMT活性を確認した。

【結果と考察】
C-PMTはN末からC1, C2, C3 の3ドメインを有し、33個のヘリックスと16個のβ構造からなることが分かった。さらに、@C1はhelicalな構造を持ち、立体構造相同性検索と細 胞内局在解析の結果より、PMTの膜局在に関与すること、AC2は2つのa/bバレルを持つ大きなドメインであるが、その機能は不明であること、BC3は a/b hydrolase構造を有し、変異型C-PMT (C1159S, C1165S)の結晶構造の解析により、酸化還元状態に依存して形成されるHis ? Asp ? Cys からなるcatalytic triadを有することが分かった。立体構造比較により、この触媒残基はパパイン型システインプロテアーゼと一致することが分かった。またPMT毒性は triadを形成するアミノ酸の置換により完全に消失した。これらの結果よりPMTはシステインプロテアーゼ様catalytic triadを持つ酵素毒素であると考えられる。

O-4 Helicobacter pylori CagAによる上皮細胞極性破壊

東秀明1、Iraj Saadat1、小布施力史2、梅田真由美1,紙谷尚子1、齊藤康弘1、呂懐盛1、大西なおみ1、東健3、鈴木厚4、大野茂男4、畠山昌則1 (1北大・遺制研・分子腫瘍,2北大・先端生命研・先端生命分子科学,3神戸大・医・消化器内科,4横浜市立大・医・分子細胞生物)

ヘリコバクター・ピロリ菌感染と胃炎、消化性潰瘍、胃癌など上部消化管病変との関連は、疫学的調査および動物実験により明らかにされてきた。特に、 cagA陽性ピロリ菌感染はcagA陰性ピロリ菌に比べ強い胃粘膜病変を惹起し、胃癌発症に深く関わる。 CagA蛋白質は感染成立後ピロリ菌から胃上皮細胞に直接注入され細胞膜直下に移行するとともに、CagA分子内に複数存在するGlu-Pro-Ile- Tyr-Ala(EPIYA)モチーフ内のチロシン残基がリン酸化を受ける。我々はこれまでに、細脳内に侵入したCagAがチロシンリン酸化依存的に増殖 シグナル伝達分子SHP-2チロシンホスファターゼを活性化し、細胞内シグナル伝達機構を説制御することを明らかにした。一方、CagAはリン酸化非依存 的に上皮細胞間で形成されるタイトジャンクションを破壊することにより、細胞極性に関わる制御機構を破綻させることが明らかとなっている。そこで本研究 は、CagAが細胞極性破壊を引き起こす分子機構の解明を目指した。 CagAと相互作用を示す細胞内タンパク質を質量分析によるプロテオーム解析したと ころ、新規CagA結合分子として細胞極性制御因子PARlbセリンスレオニンキナーゼを見出した。CagAとの相互作用に関わるPARlb分子上の責任 領域を同定したところ、キナーゼドメイン構造の一部が必要であり、また、その相互作用によりPARlbのリン酸化活性が強く抑制されることが明らかとなっ た。ところで、上皮細胞においてPAR1キナーゼは、タイトジャンクションを境界として基底側細胞膜に限定的に局在し、タイトジャンクションの形成、維持 に深く関与する。PAR1の細胞内局在は、タイトジャンクションに存在するaPKC/PAR3/PAR6複合体によるPARlbのリン酸化により制御され ていると考えられている。そこでCagAがaPKCによるPARlbリン酸化修飾に及ぼす影響を検討したところ、CagA存在下においてaPKC依存的な PAR1のリン酸化が阻害され、その結果PARlbの局在異常を誘導することが明らかとなった。これらのことから、細脳内に侵入したCagAは細胞内 PARlbの不活化ならびに局在異常を引き起こし、細胞極性を崩壊させていることが示唆された。また、CagAとPAR1の分子開梱互作用は、チロシンリ ン酸化依存的なCagA/SHP2複合体形成を促進し、C卯A依存的な細胞の異常増殖の誘起にも深く関与していることが明らかとなった。以上のことより、 胃粘膜上皮におけるcagA陽性ピロリ菌の感染は、CagA/PAR1相互作用を介して胃粘膜組織構造の破綻をもたらし、さらには増殖シグナルの逸脱を引 き起こすことで、胃癌を含む上部消化管疾患の発症に寄与していることが強く推察された。

O-5 STECの産生するSubtilase cytotoxin (SubAB)のBip分解活性

○盛永直子1)・八尋錦之助1),2)・松浦玄1)・野田公俊1) (1)千葉大学・大学院医学研究院・病原分子制御学、2) PCCMB, NHLBI, NIH)

SubABは少量(ng/ml)で細胞障害活性を持つABサブユニットタイプの毒素としてPatonらのグループによって発見された。私たちはこの毒素の Bサブユニットが、より高濃度(mg/mlオーダー)でVero細胞に空胞を生じること、これにはA サブユニットは関与しないこと、さらにその受容体はa2b1 integrinであることを見付けてきた。又この毒素は蛋白合成阻害を起こし、この活性と細胞障害とが良く相関することを報告してきた。A サブユニットはアミノ酸の一次構造より、subtilase-like serine proteaseであると報告され、272番目のセリンはserine proteaseの活性中心である触媒3つ組残基 (Ser, His , Asp)の一つであると考えられている。しかし、subtilaseが分解するアゾカゼイン,オブアルブミン及び2、3の人工ペプチドを分解するか調べた が、これらはSubABの基質にはならないことから、この毒素は他のsubtilaseに比べ基質特異性が非常に高いと推察された。この毒素に対する基質 蛋白を検索する目的で、この毒素が蛋白合成阻害を起こすというデーターw) 刋タw)を基に、Vero細胞よりmicrosomeを取り出し、SubABと保温後2次元電気泳動を行って、蛋白の変動を調べた。その結果、未処理の細 胞に検出される約70 kDaのスポットがSubAB処理細胞では減少又は消失していた。また、SubAB処理細胞では未処理には検出されない約31と45kDaのスポットが検 出された。これらの変化は272番目のセリンをアラニンに置換したSubAB(S272A)では認められなかった。そこでこれらの蛋白をTOF-MAS解 析を行ったところ、70 kDaはBipであり、31kDaはそのC末、45kDaはN末部分であることが判明した。次にVero細胞に,種々の濃度の毒素を添加し 一定時間保温後細胞を可溶化してWestern解析にてBipの分解を調べた所、SubABは濃度・時間依存的にBipを分解することを認めた。又同様に SubABはrecombinant Bipも分解することが分かり、SubABの標的蛋白はBipであることが判明したので報告する。

O-6 志賀毒素に対する鶏卵黄抗体の毒素中和活性の解析

○Neri Paola1)、 杉山 剛志1)、梅田 浩二2)、清水 健3)、辻 孝雄4)、児玉 義勝2)、森 裕志1) (1)岐阜薬大・微生物、2)ゲン・コーポレーション、3)千葉大院・病原分子制御学、4)藤田保衛大・医・微生物)

志賀毒素(Stx)は,腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の重症化の主因とされている。そこで,EHEC感染症の治療への応用を目的として,ニワトリを Stx-1またはStx-2で免疫し,それぞれ卵黄からIgY抗体(抗Stx-1 IgYおよび抗Stx-2 IgY)を得た。第53回本シンポジウムにおいて,これらの抗体はin vitroにおける検討でそれぞれ対応するStxの中和活性を示すが交差中和活性は示さないこと,中和活性を示す抗体は主としてB subunitに対する抗体であること,また,in vivoにおける検討として,これらの抗体のマウス腹腔内注射はStxの腹腔内注射による致死を抑制することを報告した。本研究では,これらの抗体のin vivoにおける有効性を更に詳細に検討した。まず,Stxを腹腔内注射し,抗Stx-1 IgYおよび抗Stx-2 IgYを静脈内注射した場合の有効性について検討した。その結果,これらの抗体はStxの腹腔内注射10分前または同時に投与した場合は致死を抑制した が,10分以後に注射しても抑制しなかった。これらの成績から,腹腔内注射したStxは急速に血中に移行し,血中への移行後に抗体を投与してもStxによ る死亡は抑制できないと考えられた。また,これらの抗体はin vitroにおける成績と同様に交差抑制活性は示さなかった。つぎに,EHECを腸管内感染し,ついでマイトマイシンC(MMC)を腹腔内注射することに よるマウスの致死モデルについて検討した。このモデルは腸管内に感染したEHECからのStx-2産生がMMCによって誘導されて死亡するモデルであり, この死亡は抗Stx-2IgYを経口投与することによって抑制された。また,IgYをマウスに経口投与した場合,3時間後をピークとして糞便中にIgYが 検出された。これらの成績から,この抗体は経口投与によっても有効であり,腸管内のStxの血中への移行を阻止できることが示唆された。以上の成績は、こ れらのIgY抗体がEHEC感染症の治療に応用できる可能性を示唆する。

O-7 集合体形成に伴うコレラ菌溶血毒の構造変化と膜侵入

○生貝 初1)、中山 浩伸1)、大石祐司2)、島村 忠勝3) (1)鈴鹿高専・生物応用化学、2)佐賀大・理工・機能物質化学、3)昭和大・医・細菌)

2005年にOlsonとGouauxによってNH3末端にpro領域が結合したコレラ菌溶血毒(VCH)のX線結晶構造解析が行われ、黄色ブドウ球菌が 産生するα毒素とロイコシジンの立体構造にVCHが酷似していることが明らかにされた(J. Mol. Biol., 350, 997, 2005)。さらに、これらの毒素が膜中で形成する集合体のサブユニット数が7つであることや膜貫通構造とホモロジーがあることから、集合体の立体構造も 似ていることが予想されている。今回、我々はVCH単量体が膜上で集合体を形成する際、VCH分子の構造に変化が起きることを見出したので報告する。 VCH単量体はコレステロール結合活性を有するが、集合体はこの活性を失うので、VCHは集合体化によってコレステロール結合領域の構造変化が起きること が推測された(Microbiol. Immunol., 50, 751, 2006)。円二色性分散計(J-720M、日本分光)を用いてpro領域を遊離させた活性型のmature VCH単量体(65kDa)とリポソーム膜から分離したVCH集合体の円二色性を測定し、2次構造の含量を計算したところ、集合体化によってVCHのβ構 造が23%増加していることが分かった。次に、コレラ菌からVCHを精製する際に水溶液中でspontaneousに形成されたVCH集合体 (WH−VCH IgG、分子量は膜形成型集合体と同一)をウサギに免疫して作製した抗WH−VCH IgG抗体は、mature VCH単量体と膜形成型集合体を認識するが、17kDaのpro領域がNH3末端に結合した12kDaのtruncated VCH(rp29−VCH)を認識しないことが分かった。そこで、rp29−VCHをウサギに免疫して抗rp29−VCH IgG抗体を作製し、matureVCH単量体とVCH集合体に対する結合能について調べた。その結果、抗rp29−VCHIgG抗体はmature VCH単量体に結合するが、集合体に対して結合しないことが分かった。VCHのX線結晶構造解析によってrp29−VCHの17kDaのpro領域を除い た12kDaの領域は、VCH単量体の表面上に露出していることが明らかにされている。したがって、これらの結果は、VCH単量体が集合体を形成する際に NH3末端から12kDaの領域に構造変化が起き、タンパク表面から消失することを示唆している。また、この領域の一部にコレステロール結合領域が存在し ていることを示唆する実験結果が得られているので、VCHの膜結合や膜侵入に関連した構造変化である可能性が考えられる。

O-8 抗菌ペプチドhBD (human β-defensin)及びCAP18/LL-37 による好中球アポトーシスの制御

○長岡 功1)、石井(堤)裕子1)、奥田大樹1)、村上泰介1)、田村弘志2)、平田陸正3) (1)順天堂大学医学部 生化学・生体防御学、2)生化学工業、3)大高酵素研究所)

【目的】
好中球は感染防御や炎症反応において重要な働きをしているが、その寿命は短く、自発的にアポトーシスを起こす運命にある。生体内において好中球の アポトーシスは宿主あるいは微生物由来のさまざまな因子によって制御されており、例えば、Fas リガンド、活性酸素などは好中球のアポトーシスを誘導するが、LPS などの菌体成分、サイトカイン、増殖因子などは好中球のアポトーシスを抑制し、寿命を長くすることが知られている。近年、cathelicidin (CAP18/LL-37)やhBDs などの抗菌ペプチドが、殺菌作用の他に免疫担当細胞の機能調節に関わることが注目されている。そこで我々は、これらの抗菌ペプチドが好中球のアポトーシス に影響しうるかどうかについて検討した。

【結果】
ヒト末梢血好中球を用いて好中球のアポトーシスを形態変化とannexin V-FITC による蛍光染色から評価したところ、LL-37 とhBD-3 は好中球の自発的なアポトーシスを強く抑制することがわかった。また、LL-37 とhBD-3 の作用によって、ERK のリン酸化、抗アポトーシスタンパク質Bcl-XLの発現、さらにカスパーゼ-3 の活性低下が誘導されことがわかった。さらに、LL-37 とhBD-3による好中球アポトーシスの抑制は、ホルミルペプチド受容体FPRL1 (formyl-peptidereceptor-like 1)やヌクレオチド受容体P2X7 の阻害剤、およびケモカイン受容体CCR6 に対する中和抗体によってそれぞれブロックされることがわかった。

【結論】
cathelicidinやデフェンシンファミリーの抗菌ペプチドは殺菌作用によって生体を微生物感染から守るだけでなく、特異的な受容体を介し て好中球のアポトーシスを抑制し、食細胞としての機能を維持させることによって微生物感染に対する自然免疫において重要な働きをしている可能性が考えられ た。

O-9 トランスフォーミング成長因子-β1はMyD88を介するシグナル伝達を制御する

○内記良一1)、小出直樹1)、森 勇1)、吉田友昭1)、Moshe Arditi2)、横地高志1) (1)愛知医科大学 微生物免疫学講座、 2 )Cedars-Sinai Medical Center 小児感染症部門)

Toll様受容多体 (TLR)は 現在TLR1からTLR13まで分類されており、多様な病原性物由来の分子配列を認識し、自然免疫の中心的役割を果たすことが知られている。トランス フォーミング成長因子-β1(TGF-β1) は抗炎症性サイトカインの一種で、様々な細胞種から産生され、細胞の増殖と分化、アポトーシス、免疫反応の制御など多くの機能を有する分子量25kDaの タンパクである。そこで、TGF-β1には免疫調節効果があることから、我々はTGF-β1とTLRシグナル経路の間には何らかの制御作用が存在するかも しれないと推論した。本発表では、TGF-β1がTLR2,TLR4,およびTLR5 によるNK-κB活性化とサイトカイン産生を阻害することを報告する。TGF-β1は、TLR2, TLR4, TLR5リガンド刺激によって誘導されるMyD88タンパクレベルの上昇をmRNA発現量に変更をもたらさずにTGF-β1投与量依存的、経時的に低下さ せることを明らかにした。プロテオソーム阻害剤のエポキソマイシンを前処理した細胞では、投与するとTGF-β1によるMyD88の分解は抑制された。ま た、この分解はユビキチネーションによってもたらされていることが明らかになった。TGF-β1によってMyD88のユビキチネーション化とタンパク分解 が誘導され、MyD88を介するシグナル伝達が減衰されることが判明した。これらの知見はTGF-β1による免疫反応の抗炎症の分子メカニズムの理解に貢 献すると考えられる。

O-10 Nucleotide sequence analysis and expression of the cytolethal distending toxin gene of Campylobacter hyointestinalis and biological activity of the gene product

◯Warada Samosornsuk1, Masahiro Asakura1, Norihiko Sugimoto1, Sachi Shiramaru1, Takashi Taguchi1, Kazuhiko Nishimura1, Bunchuay Eampokalap2, Wanpen Chaicumpa1,3, Shinji Yamasaki11Graduate School of Life and Environmental Sciences, Osaka Prefecture University, 2Microbiology Laboratory, Bamrasnaradura Hosipital, Thailand, 3Faculty of Allied Health Schiences, Thammasat University, Thailand)

O-11 シナプトタグミンII 発現PC12 細胞を用いたボツリヌスB 型神経毒素の作用機序の解明

○ 幸田 知子、向本 雅郁、小崎 俊司 (大阪府大院・生命環境・獣医感染症学)

ボツリヌス神経毒素(BoNT)の毒性を調べるために利用できる株化細胞はなく、通常初代培養細胞が用いられている。B 型神経毒素(BoNT/B)の受容体は、シナプス小胞の構築タンパクであるシナプトタグミンI (StgI)およびII (StgII)とガングリオシドの複合体であることが明らかになっている。StgI およびII は神経系に発現し、BoNT/B に対するStgI の結合親和性はStgII に比べて約10 倍低く、StgII が高親和性の受容体タンパクであることが知られている。今回PC12 細胞にレンチウイルスを用いてStgII を発現し、この細胞に対するBoNT/B の作用について調べた。StgII 遺伝子全長をベクターにコードしたレンチウイルスをPC12 細胞またはStgI 欠損PC12 細胞に感染させ、薬剤耐性を指標に選択し、クローニングを行った。PC12 細胞におけるStgII の発現をイムノブロッティングと免疫染色法で調べることにより、最も発現量の多いクローンを選定した。StgII 発現PC12 細胞はStgI 発現の有無に関わらず、BoNT/B 処理により基質タンパクであるVAMP2 のdensity とドーパミンの放出阻害活性が有意に低下していた。このことからStgII はBoNT/B と結合し、細胞内侵入過程で重要な役割を果たしていることが示唆された。またStgII のN 末端から膜貫通に至る領域(60 残基)内で、BoNT/Bと直接結合する部位を欠失変異体および点変異 体を用いてアミノ酸レベルまで詳細に調べた結果、N 末端40-60 番目の領域内、特にF47、F54、F55、E57、K60 がBoNT/B との結合に関与するアミノ酸残基であることがわかった。現在、これら点変異を含むStgII 発現PC12 細胞を作成し、受容体タンパクとして機能を保持するために必要なアミノ酸残基を特定し、BoNT/B がStgII を介して細胞内移行する動態を詳細に調べている。

O-12 ボツリヌス神経毒素複合体の腸管上皮バリア通過機構

○藤永由佳子 (大阪大学微生物病研究所附属感染症国際研究センター・感染細胞生物学研究グループ)

ボツリヌス神経毒素(分子量150 kDa)は、エンドペプチダーゼ活性を持つ蛋白質毒素である。本毒素が神経細胞に取り込まれた場合、シナプス小胞のfusion に必要な蛋白質群であるSNARE を切断して神経伝達物質の放出を抑制する。本毒素を経口摂取して起こるボツリヌス食中毒の発症には、神経毒素が消化管から吸収され、血中に移行し、末梢神 経に到達することが必要である。神経毒素が体内に侵入する際の重要な関門は消化管粘膜バリアであるが、巨大分子である本毒素がこのバリアを通過する機構に ついては未知の部分が多い。ボツリスヌ神経毒素は常に数種の無毒性の蛋白質(無毒成分)が結合した複合体としてボツリヌス菌により産生される。ボツリヌス 神経毒素は単独ではその経口毒性が低く、無毒成分が結合するとその経口毒性が飛躍的に高まることが知られていたが、そのメカニズムについての研究、特に腸 管上皮細胞と神経毒素複合体の相互作用についての研究はほとんどなされていなかった。そこで我々は、ボツリヌス神経毒素複合体と腸管上皮細胞バリアの直接 の相互作用についての解析を行った。ヒト腸管上皮細胞バリアのin vitroのモデル系としてtranswell で培養したCaco-2 細胞やT84 細胞といったヒト腸管上皮細胞由来株を用いた。またin vivoの系としてマウス結紮腸管を用いた。これらの実験系で毒素複合体中の無毒成分に腸管上皮バリア機能を破壊する新規の活性があることを見出した。無 毒成分の分子レベルの作用機構について、現在までに得られた知見を紹介したい。

O-13 ストレプトリジン0による溶血機構の超微形態学的解析

○関矢加智子1)、赤木巧2)、龍田季代子3)、端川勉2)、阿部章夫4)、長宗秀明3) (1)北里大学 薬学部 電顕室、2)理研 脳科学総合研究センター 神経構築技術開発チーム、3)徳島大学院 ソシオテクノサイエンス ライフシステム、4)北里大学 生命科学研究所 細菌感染制御)

A群レンサ球菌が産生するストレプトリジンO (SLO)によって代表されるコレステロール依存性細胞溶解毒素ファミリー(CDC)の溶血機構を解析することを目的に解析を行ってきた。第52回の毒素 シンポジウムにおいて、本毒素を構成する4つのドメインの2つをアミノ酸置換によって-SS架橋し、膜への貫入能が制限されたSLO変異体 (SLO (C/A)-SS) を用いた解析から、DTT処理により-SSの架橋をはずすことにより、孔を伴う巾の広いリング形態として観察されることを証明した。この結果に加えて、第 45回の毒素シンポジウムならびに既報 (1996 J. Bacteriol.) において発表した0℃作用時に形成される一重リングは、温度上昇により孔を伴った二重リングへ構造変化する事実から、ドメイン3の膜貫入に伴う二重リング 形成のコンフォメーション変化に温度の上昇が必要であることが超微形態学的に強く示唆された。今回、電子分光型電子顕微鏡を用いたさらに詳細な構造解析に より、この点の確認を行った。単分子像を反映していると思われる0℃での膜への結合像ならびに会合像、温度上昇による孔を伴った際のリング像の高さ方向の 変化、リング巾、リング径の計測解析などから、次の2点を結論する結果が得られた:・ 1993年に報告 (J. Bacteriol) したSLO分子会合モデルの内外分子の基部と頭部は、それぞれSLOを構成する4つのドメインに相当し、内外のリングは、同一分子によって構成される。・ SLOは、赤血球膜のコレステロールを標的としてドメイン4で、温度非依存的に膜に結合し、電顕像として、一重リングを形成する。その後、0℃でも分子会 合まで進むが、リング内側に位置するドメイン3が、一分子ずつ楔が打ち込まれるようにリングの径を大きく膨らませながら、膜内侵入し、電顕像として、孔を 伴った二重リングとして観察される。このドメイン3の膜内侵入のコンフォメーション変化に、温度の上昇が必要である。これらの結果も含め、今までに得られ たSLOが属するCDCによる溶血機構の超微形態学的解析結果を総括する。