毒素シンポジウム
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第55回毒素シンポジウム指名講演

O-1 組織型および毒型VEGF(血管内皮増殖因子)のゲノム構造解析とその進化論的考察

○山崎泰男、齋藤麻衣、徳永優子、森田隆司 (明治薬科大学・生体分子学)

【背景・目的】
血管内皮増殖因子VEGFは、血管の形成を担う多機能なタンパク質である。最近、我々はヘビ毒にはVEGFの相同タンパク質が含まれている ことを明らかにしてきた(J. Biol. Chem., 2003年, 2005年)。ヘビ毒に含まれるVEGFは、C末端ドメインの構造をはじめ既知のサブタイプとは異なる性質を有することから、新型のVEGFとして VEGF-Fと命名した。毒タンパク質は内在性のタンパク質を起源として分子進化してきたと予想されるが、内在性タンパク質(組織型)と毒型タンパク質の ゲノム構造の比較を行った研究はない。今回、ヘビ毒タンパク質の獲得機構とその分子進化について明らかにする目的で、ハブ(Trimeresurus flavoviridis)の組織型および毒型VEGF(それぞれTf-VEGF-AとTf-svVEGF)のゲノム構造を決定した。

【結果・考察】
両遺伝子の全ゲノム構造を決定したところ、組織型のTf-VEGF-A遺伝子はヒトVEGF-A遺伝子と同じく8つのエキソンで構成されて いた。一方、毒型のTf-svVEGF遺伝子は6つのエキソンで構成されていた。イントロンの平均塩基長はTf-VEGF-A遺伝子が3,125塩基であ るのに対し、Tf-svVEGF遺伝子は385塩基と短かった。興味深いことに、Tf-VEGF-A遺伝子のイントロンにはTf-svVEGF遺伝子のイ ントロンに相同な領域が含まれていた(約45%の相同性)。また、Tf-svVEGF遺伝子のイントロン4(C末端ドメインをコードするエキソンの5'側 上流のイントロン)にはTf-VEGF-Aには見られない317塩基の挿入があることが判明した。両タンパク質のC末端ドメインの一次構造には全く相同性 が見られないことを考えると、組織型VEGF遺伝子のイントロンにフレームシフトを生じる塩基が挿入されることで、毒型VEGF遺伝子が形成されたと考え た。

O-2 STECの産生するsubtilase cytotoxin (SubAB)によるVero 細胞のG1アレスト誘導機構

○盛永直子1、八尋錦之助1,2、野田公俊1 (1千葉大学・大学院医学研究院・病原分子制御学、2 PCCMB, NHLBI, NIH)

SubABは少量(ng/mlのオーダー)で細胞障害活性を持つABサブユニットタイプの毒素としてPatonらのグループによって発見された。私たちは この毒素のBサブユニットを1µg/ml以上でVero細胞に作用させると、空胞を誘導すること、これにはA サブユニットは関与しないこと、さらにその受容体はa2b1 integrinであることを見付けて報告してきた。又、A サブユニットはアミノ酸の一次構造より、subtilase-like serine proteaseと考えられているが、その唯一の基質はERに存在するシャペロンBiPであることを明らかとしてきた。SubABを細胞に投与すると細胞 の増殖が抑制されることから、SubABによる細胞周期への影響を調べたところ、SubABはG1アレストを起こすことを見付け、そのメカニズムを解明し たので報告する。

O-3 ウエルシュ菌α毒素によるIL-8遊離機構の解析

○小田真隆、椎原良太、永浜政博、櫻井純 (徳島文理大・薬・微生物)

A型ウエルシュ菌の主要毒素であるα毒素が血管内に移行すると、肝臓、腎臓、肺を中心とする臓器において高度の炎症が認められ、その後、全身性の炎症を伴 い死に至る。全身性の炎症は、通常、好中球、及び、単球が密接に関与し、その遊走に炎症性ケモカイン(IL-8など)が重要な役割を担っていることが知ら れている。今回、演者は、α毒素によるヒト腎細胞由来のHEK293細胞(HEK細胞)からのIL-8遊離メカニズムについて解析した。  
α毒素によるIL-8遊離とリン脂質代謝との関係について解析した結果、Giを介した内因性PI-PLCの活性化により生成したDGがPKCδを活性化す ることによりIL-8遊離を惹起することが判明した。さらに、α毒素のHEK細胞における受容体を同定するため、α毒素が好中球のTrkAを介して活性化 することから、チロシンキナーゼ受容体としてTrkA、及び、類似のEGFRに着目した。その結果、HEK細胞では、TrkAは検出されず、EGFRのみ が検出され、さらに、α毒素処理によりEGFRの992位チロシン残基のリン酸化が認められた。次に、siEGFR処理細胞を作成し、コントロール細胞の 場合とα毒素の細胞への結合、そして、IL-8遊離作用を比較すると、そのノックダウン細胞では、いずれも著しく低下した。また、本毒素によるEGFRの 下流シグナルタンパクの挙動を、種々の阻害剤、リン酸化特異的抗体、siRNAなどで検討した結果、α毒素は、EGFRに結合後、PI3K、PDK1、 PKCδ、ERK&p38の活性化を介してNF-kBの核内への移行、及び、IL-8のmRNA発現を誘導することが明らかとなった。さらに、DG、及 び、PDK1により活性化されたPKCδは、特異的にERKを活性化すること、また、活性化されたERKは、特異的にNF-kBを活性化し、IL-8の mRNA発現を惹起していることが判明した。以上、α毒素は、HEK細胞においてEGFRを介してMAPK系を介してIL-8遊離を惹起することが明らか となった。

O-4 LPSによる抗がん剤の細胞毒性発現の制御とそのメカニズム

○横地高志、フェルダウス・ハッサン (愛知医科大学微生物・免疫学)

抗がん剤ドキソルビシン(アドリアマイシン)のin vitro、in vivoにおける細胞毒性発現に及ぼすエンドトキシンの作用について報告する。RAW 264.7マクロファージ細胞をエンドトキシンで前処理すると、ドキソルビシンによる細胞死が抑制された。DNA断片化やカスバーゼ3の抑制がみられ、エ ンドトキシンがドキソルビシンによるアポトーシスを抑制することが明らかとなった。エンドトキシンがp53の活性化を抑制し、アポトーシスを抑制すること が示唆された。
エンドトキシンを前投与したマウスにドキソルビシンを投与すると、ドキソルビシン単独投与より急激にマウスは死亡した。その死因は、激しい肝傷害によるも とであり、肝細胞のアポトーシスにより引き起こされた。エンドトキシン処理マウスでは、ドキソルビシン投与により、インターフェロンγと腫瘍壊死因子が誘 導され、これらのサイトカインがドキソルビシンの毒性を増強することが明らかになった。

O-5 黄色ブドウ球菌性表皮剥脱素血清型Aの活性領域の解析

桜井進1、保科定頼2、町田勝彦2 (1(財)河野臨床医学研究所・分子遺伝学、 2 東京慈恵会医科大学・臨床検査医学)

幼児に発症する膿か疹や新産児に発症するリツター病の病原因子である黄色ブドウ球菌性表皮剥脱素は血清型がA (ETA) とB (ETB) があり、皮膚組織の顆粒層、有棘層細胞間を連結するデスモソームを開裂、切断する。ETA, ETBをテトラニトロメタンでチロシン(Tyr)をニトロ化すると表皮剥脱活性を失うことから、活性中心がTyrと推定し、PCR法によるSite directed mutagenesisでETBの157残基目 (Tyr-157) と159残基目のTyr (Tyr-159) に変異を導入すると完全に失活することをすでに報告した。今回はLA PCR in vitro Mutagenesis法により、ETAのTyr11残基に変異を導入 (Tyr→Phe)し、新産マウスを用いた表皮剥脱活性の検出およびゲル内沈降反応ならびにラテックス凝集反応によって、N末端側のTyr-17-18な らびにC末端側のTyr-225-232の2箇所の領域がそれぞれ表皮剥脱活性ならびに抗原決定基として機能していることが明らかとなった。

O-6 Plesiomonas shigelloidesの細胞傷害性外膜タンパク質(ComP)によるアポトーシス誘導とそのメカニズムについて

伊藤文恵、○小河朝子、津川仁、柴田信之、大川喜男 (東北薬科大学・感染生体防御学教室)

【目的】
Plesiomonas shigelloides は食中毒原因菌であり、特に海外旅行者下痢症患者より高頻度に分離されることが知られている。我々は、P. shigelloides P-1株の産生する細胞傷害性外膜タンパク質(cytotoxic outer membrane protein; ComP)を培養上清中より単離し、遺伝子クローニングにより1次構造を解析してきた。その結果、comP遺 伝子は全長が1,068 bpであり、ComPは356 残基のアミノ酸から成る約40 kDaのタンパク質であることが明らかとなった。さらに立体構造を解析したところ、ComPはβバレル型膜貫通タンパク質であるPorinタンパク質であ ると推定した。今回は、培養上清より精製したComPを用いてそのアポトーシス活性について解析し、さらに菌体感染時とComPのアポトーシス誘導メカニ ズムについても検討した。

【方法】
P. shigelloides P-1株を37℃、24時間振とう培養し、培養上清より硫安沈殿、ゲルろ過等によりComPを精製した。アポトーシス活性はCaco-2細胞を使用し、 DNAラダーの検出、FACS解析、TUNEL法により確認した。アポトーシス誘導メカニズムについてはミトコンドリア画分のImmunoblot等によ り検討した。

【結果及び考察】
P-1株培養上清より精製したComPはCaco-2細胞にアポトーシスを誘導することが明らかとなった。また、Caco-2細胞に菌体 を感染させた場合、ComP様25 kDaタンパク質のミトコンドリアへの移行が確認された。この移行が引き金となり、caspase-9の活性化とそれに続くcaspase-3の活性化に よってアポトーシスが誘導されていることが示された。精製ComPを細胞外から作用させてもComPはミトコンドリアへ移行しないことから、この場合は細 胞膜上のレセプターを介したcaspase-8の活性化等、別な経路でアポトーシスが誘導されると推測した。

O-7 マムシ毒に存在するエキソソーム様小胞の性状解析

○小川裕子1、福田稔2、金井正美2、秋元義弘2、川上速人2、矢ノ下良平1 (1星薬大・医薬研、2杏林大・医)

 エキソソームは直径30-100 nmの小胞で、エンドゾーム由来のmultivesicular bodyからエキソサイトーシスによって細胞外に分泌される。哺乳類では、T細胞、B細胞、樹状細胞、血小板、上皮細胞など様々な細胞から分泌されること が知られている。私たちは、へび毒にエキソソーム様小胞が存在することを初めて見いだしたので報告する。新鮮な日本マムシ毒をゲルろ過で分画し、ボイド画 分を濃縮後、透過型電子顕微鏡で観察したところ、30-130 nmの小胞が観察された。このエキソソーム様小胞画分をSDS-PAGEで分離し、主要なバンドについてアミノ酸配列を調べたところ、ジペプチジルアミノ ペプチダーゼIV(DPP IV)、アミノペプチダーゼA (APA)、ecto-5'-ヌクレオチダーゼであった。また、ウエスタンブロット解析からアクチンも存在することがわかった。エキソソーム様小胞が2種 類のペプチダーゼ(DPP IVとAPA)をもっていたので、生理活性ペプチドを分解するかを調べた。アンジオテンシンII、サブスタンスP、コレシストキニン8、glucose- dependent insulinotropic polypeptide、glucagon-like peptide-1を分解した。このことから、これらのペプチダーゼは酵素活性を保ってエキソソームに結合した状態で、放出されることがわかった。以上よ り、ヘビ毒の新たな分泌機構として、エキソソーム様小胞による分泌機構が示唆された。  ヘビ毒はだ液に相当する外分泌液である。そこで、ヒト唾液にも同様のエキソソーム様小胞が存在するのではないかと考え、ゲルろ過ボイド画分を電子顕微鏡 で観察したところ、ヘビ毒と同様に30?130 nmの小胞が観察された。現在、そのタンパク質組成を解析中である。

O-8 ボツリヌスHAによる上皮細胞間バリア破壊 - 各種血清型HAの感受性細胞および作用機構の相違について

○金英姫、竹ヶ原夕紀、菅原庸、松村拓大、藤永由佳子 (大阪大学微生物病研究所附属感染症国際研究センター・感染細胞生物学研究グループ)

 Clostridium botulinumが産生するボツリヌス神経毒素(150 kDa)は、エンドペプチダーゼ活性を持つ毒素である。本毒素は神経細胞内でシナプス小胞のfusionに必要な蛋白質群(SNAREs)を切断して神経 伝達物質の放出を抑制する。本毒素を経口摂取して起こるボツリヌス食中毒は、本神経毒素が消化管から吸収されて血中へ移行して発症する。従って本食中毒が 発症するには、神経毒素が消化管上皮細胞バリアを通過することが必須である。しかし大きな分子量の本毒素が消化管上皮細胞バリアを通過する機構については 不明であった。一方、ボツリヌス神経毒素は常に数種の無毒性のタンパク質(無毒成分)が結合した複合体として産生される。本神経毒素は単独ではその経口毒 性が低く、無毒成分が結合するとその経口毒性が飛躍的に高まることが知られていたが、そのメカニズムについては充分な解析がなされていなかった。
 我々はボツリヌス神経毒素複合体と腸管上皮細胞バリアの相互作用を解析し、B型毒素複合体中の無毒成分の1つであるHA (Hemagglutinin)が細胞間バリア機能を破壊し、毒素の体内への移行を促進することを見出した(昨年度毒素シンポジウム発表、 Matsumura et al, Cellular Microbiology, 2008)。本研究では、A、B、およびC型ボツリヌスHAの細胞間バリア破壊活性について比較検討した。その結果ヒトのボツリヌス症で多く見られるA型 およびB型のHAは、ヒト腸管上皮由来細胞株およびイヌ腎由来上皮様細胞株(MDCK I)で細胞間バリア破壊活性を示した。一方で牛やトリなどの動物にボツリヌス症を引き起こすC型のHAは、ヒト腸管上皮由来細胞株では全く活性を示さない が、MDCK Iにおいて細胞間バリア破壊活性を示した。これらの結果より、A、B型HAとC型HAでは、感受性細胞が大きく異なることが明らかになった。現在、これら のHAの詳細な作用機構について解析中であり、その進捗状況についてもご紹介させて頂きたい。

O-9 毒素原性大腸菌H10407株Entプラスミドの全塩基配列決定と解析

○越智定幸1、有満秀幸1、塚本健太郎1、大谷郁2、佐々木慶子1、加藤道夫1、清水徹2、辻孝雄1 (1藤田保健衛生大・医・微生物、2金沢大院・医・細菌感染症制御)

毒素原性大腸菌(ETEC)は、毒素産生性において易熱性エンテロトキシン(LT)、耐熱性エンテロトキシン(ST)の両エンテロトキシン産生株、また は、いずれかのエンテロトキシン単独産生株の多様性が存在する。これらエンテロトキシンは、いずれも本菌の有するEntプラスミドにコードされていること が知られており、毒素産生性の多様性の原因一つは、これら毒素遺伝子の獲得による進化過程の多様性であると考えられる。本菌の病原性獲得の分子進化過程を 理解するためにはEntプラスミドの分子生物学的解析が必要であるが、これまでにEntプラスミドの全塩基配列の報告はない。そこで、我々は、ヒト由来 ETEC H10407株が有するEntプラスミドの全塩基配列の決定を行った。ETEC H10407株のEntプラスミドにカナマイシン耐性遺伝子(Tn5-Kmr)を挿入した標識Entプラスミド(pEntH10407K)を調製し、 ショットガンシーケンシング、及び、ギャップフィリングPCRにより全塩基配列の決定を行った。配列決定されたpEntH10407Kは、塩基数が 67,094塩基(Tn5-Kmrを含む)から成る環状プラスミドであることが明らかになった。また、本プラスミドにはH10407株のLT、ST。a産 生性に関連するLT遺伝子(elt)とST。a遺伝子(est。a)が存在することが判明した。また、これら毒素遺伝子の周辺には挿入配列やトランスポザーゼ関連遺伝子が多数存在すること、そして、eltest。aのGC含量がpEntH10407KのGC含量に比べて低いことから、これら毒素遺伝子は、外来性にトランスポゾン挿入による獲得の機構が推察された。

O-10 血液凝固IX因子と抗凝固タンパク質(IX/X-bpおよびIX-bp)の相互作用に対するMg2+の影響

○石川みどり、山崎泰男、森田隆司 (明治薬科大・生体分子学)

【目的・背景】
ビタミンK依存性血液凝固因子は、そのN末端領域にGlaドメインと呼ばれるGla(g-カルボキシグルタミン酸)残基に富むCa2+結合ドメインを持つ。これらのタンパク質はGlaドメインを介して血管内の細胞とCa2+依 存的に相互作用することで、血液凝固反応を調節する。当研究室では、ヘビ毒中に凝固IX因子のGlaドメインに結合し、強力な抗凝固作用を示すタンパク質 (IX/X-bpおよびIX-bp)を見出している。さらに我々は、これらのタンパク質を用いた複合体のX線結晶構造解析と酵素化学的検討から、凝固IX 因子のGlaドメインにはCa2+だけでなくMg2+も結合しており、IX因子の凝固活性を制御していることを明らかにしている(PNAS, 2001年, JBC, 1995年, ibid. 1996年, ibid. 2003年)。今回、IX因子とIX/X-bpおよびIX-bpとの結合に対するMg2+の影響について検討する目的で、Biacoreを用いて両者の相互作用の速度論的解析を行った。

【結果・考察】
CM5センサーチップにIX因子を固相化し、生理的濃度のCa2+およびMg2+存在下、IX/X-bpおよびIX-bpをアナライトとし て結合速度を解析した。その結果、いずれの抗凝固タンパク質も高親和性にIX因子に結合したが(Kd = 10-10 M)、Mg2+の有無でそれらの結合には差異が見られなかった。以上の結果から、Glaドメインと抗凝固タンパク質の結合にはMg2+の大きな関与はないと考えた。IX因子のGlaドメインは、生理的にはIX因子の補助因子であるVIIIa因子に結合することから、Mg2+はVIIIa因子との結合に影響を与えている可能性があると推測した。