毒素シンポジウム
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第56回毒素シンポジウム指名講演

O-1 毒素性ショック症候群マウス・モデルにおけるマスト細胞の関わり

要旨
 毒素性ショック症候群(TSS)は、黄色ブドウ球菌の産生するスーパー抗原性外毒素群によるT細胞の異常な活性化の結果、放出されるサイト カイン、特にTNF-αによって起こることが報告されている。今回、我々は、種々の感染症で重要な役割をしているマスト細胞が、さらにマスト細胞が産生す るTNF-αがTSSの機序に大きく関わることをマウス・モデルで見出したので、報告する。TSSのマウス・モデル、D-ガラクトサミン(GalN)と スーパー抗原(ここでは、黄色ブドウ球菌腸管毒素(SEA))との組み合わせ投与で致死率を求めた。正常マウスでは、血清中のTNF-α量が高く、全例、 死亡した。同じ条件でマスト細胞欠損マウス(W/Wv)は全例生存した。正常マウスの骨髄から調整した培養マスト細胞(BMMC)を移入したマスト細胞欠 損マウスでは全例が死亡した。マスト細胞は、TSSで重要と考えられるTNF-αを産生する。そこで、移入するBMMCをTNF-α欠損マウスおよび IFN-γ欠損マウスから調整してW/Wvマウスに移入した。その結果、TNF-α欠損マウスから調整したBMMC移入マウスでは、W/Wvマウスと同様 に全例が生存した。一方、IFN-γ欠損マウスBMMC移入マウスでは、正常マウスのBMMC移入マウスと同様に全例が死亡した。これらのことから、 TSSマウス・モデルでは、マスト細胞の産生するTNF-αが生死を決めると考えられた。

O-2 無毒変異体ブドウ球菌エンテロトキシンAの免疫による嘔吐抑制効果無毒変異体ブドウ球菌エンテロトキシンAの免疫による嘔吐抑制効果

【目的】
ブドウ球菌エンテロトキシン(SE)はスーパー抗原であり,食中毒,毒素性ショック,敗血症等の重要な病原因子である.我々はSEの分子構 造とその作用機序の研究を進めてきた.最近我々は食中毒分離株でもっとも産生が多い毒素型SEAの無毒変異体毒素(SEAD227A)を作製し,無毒変異 体タンパクをワクチン抗原としてスンクスに免疫し,SEAによる嘔吐に対する抑制効果を検討した.

【方法】
S. aureus FRI722株からsea遺伝子をクローニングし,SEA分子上の227番目のアスパラギン酸をアラニンに変異させ,大腸菌発現系を用い,スーパー抗原活 性が欠損した変異体毒素SEAD227Aを精製した。SEAD227AをAlumアジュバントとともにスンクスに皮下免疫し,血中抗体の産生及びSEA投 与による嘔吐に対する抑制効果を調べた.また,SEAの嘔吐活性とスーパー抗原活性に対する血中抗体の中和活性を検討した.

【結果と考察】
SEAD227Aはスーパー抗原活性を明らかに欠損していたが,免疫学活性は保持していることを確認した.SEAD227Aで免疫したスンクスでは,抗 SEA特異抗体が上昇していた.また,免疫したスンクスはSEAの経口または腹腔内投与による嘔吐反応に対し,顕著な抑制効果を示した.さら に,SEAD227A免疫血清はin vitroでSEAによるリンパ細胞の増殖誘導に対し明らかに中和活性を示し, in vivoでもSEAによる嘔吐反応を有意に抑制した.これらの結果から,SEAD227Aの免疫はSEAによる嘔吐に対する予防効果を誘導することが示唆 された.また,抗SEA抗体は本毒素による食中毒に対する治療効果があると考えられる.

O-3 ウエルシュ菌エンテロトキシンの受容体認識機構の解析

ウエルシュ菌エンテロトキシン(Clostridium perfringens enterotoxin, CPE)は標的細胞膜の選択的透過性を破壊する膜孔形成毒素である。以前にわれわれは、CPE受容体としてタイトジャンクションを構成する4回膜貫通型タ ンパク質のクローディン(Cldn)を同定した。しかし、Cldnは20種類以上の相同分子からなるファミリーを形成しており、すべてのCldnがCPE 受容体として機能するわけではない。また一方、CPE感受性あるいは非感受性のCldnの中に明らかな共通モチーフは認められていない。そこでCldnの CPE感受性の決定要因を解析した。
 CPE感受性のCldnと非感受性Cldnとのキメラ分子をCPE非感受性細胞に構成的に発現させて、CPEの感受性が現れるかどうかを検討した。その 結果、Cldnの二つの細胞外ループのうち、C末端側ループ(loop2)内のさらにC末端側の12アミノ酸の領域(CPE-Recognition Region, CRR)がCPE感受性に関与していることを見いだした。CPE感受性Cldnと非感受性CldnのCRRに該当する領域を比較したところ、非感受性 CldnのCRRは感受性Cldnと比較して相対的に負電荷を持つ傾向が認められた。そこで、CPE非感受性のCldn5と感受性のCldn4を用いて、 CRRの電荷が逆転するようにアミノ酸変異を導入すると本来非感受性のCldn5はCPE感受性を示すようになり、一方、Cldn4では著しく感受性が低 下した。さらに、同様の変異体Cldnを発現した細胞とI-125標識CPEとの直接の結合を調べ、やはりCRRの電荷が両者の結合に影響を与えることを 確認した。立体構造の解明されているCPE分子の表面電荷を計算機上でシミュレートしたところ、Cldnに結合すると考えられているCPE分子側の領域 (CPE loop)に負電荷が集中していることがわかった。各CldnのCRRとCPE loopの等電点を比較すると、ひとつの例外を除いて、CPE loopの等電点は感受性CldnのCRRの等電点と非感受性Cldnの等電点との間に位置することがわかった。また、CPEの受容体結合ドメインと CPE感受性のCldn4発現細胞との結合は、反応溶液のNaCl濃度が生理的濃度より高くなればなるほど低下することがわかった。
 以上の結果から、CPEの受容体認識には受容体であるCldnのCRRが必須であり、しかもCRRの電荷がCPEの結合に大きな影響を与えていることがわかった。

O-4 ガス壊疽菌群コラゲナーゼの基質結合様式と積層型人工組織作製への応用

ガス壊疽菌群のコラゲナーゼのC末端にはコラーゲン結合ドメイン(CBD)が共通に存在している。CBDは不溶性のコラーゲン細繊維に本酵素をアン カーリングするのに役立つと考えられた。CBDは結晶学的解析によりβサンドイッチ構造をとりCa結合部位を持つことが示された。また部位特異的突然変異 によりCBDはサンドイッチの側面でコラーゲンに結合すると考えられた。
今回は分子ドッキングにより示された3種類の基質結合モデルの内いずれが正しいかを、コラーゲン様ペプチドを用いたNMR perturbaton assayにより検討した。N末端スピン標識ペプチドでは非標識ペプチドによる変化に加えCa結合部位から離れた部位のシグナルが消失した。C末端標識ペ プチドではCa結合部位近傍のシグナルが消失した。基質ペプチドはβサンドイッチの側面に、βストランドに直行する方向で、C末端がCa結合部位に向いて 結合すると考えられた。小角X線回折により水溶液中のCBD-基質複合体の立体構造を決定したところ、CBDは基質分子のC末端近傍に結合していると推定 された。
線維芽細胞とアテロコラーゲンを含む溶液を生体親和性メッシュを通して還流し、メッシュの上に高密度の人工結合組織を形成した。これを表皮成長因子 (EGF)-CBD融合タンパク質と表皮細胞を含む培養液で覆って24時間静置後、通常の培養液に置換して14日間培養した。線維芽細胞とコラーゲン細線 維からなる人工真皮層の上に、重層扁平上皮からなる人工表皮層が形成され、その上層部は角化していた。有蕀層では正常皮膚に比較して少ないながらもデスモ ゾームが形成されていた。表皮の基底細胞下には不連続ながら基底板が形成されていた。細胞外マトリックスに特定の機能を持たせて得られる積層型人工組織は 基礎医学研究および再生医療分野で種々の応用が可能であると思われる。

O-5 シアル酸様物質を含む腸炎ビブリオリポ多糖(LPS)の糖鎖構造

腸炎ビブリオは、現在、13種の抗原型(O抗原型)に分類されている。これらの抗原型LPSのうち、現在その糖鎖の構造が決定されているのは、 O12、O2およびO2と共通抗原性を示すO-untypeable (OUT)の3種の抗原型LPSのみであり、O2とOUTのLPS糖鎖には構成糖としてN-アシル基の異なるシアル酸様物質(5,7,8- triamino-3,5,7,9-tetradeoxy-D-glycero-D-galacto-non-2-ulosonic acid(NonO2))が存在する。その後、詳細な構成糖解析の結果、NonO2と類似の物質がO5とO11のLPSに、さらにNonO2とは異なる構 造のシアル酸様物質がO3とO13のLPSにも存在し、腸炎ビブリオでは多くのO抗原型LPSにおいて、シアル酸様物質が構成糖として分布することが示さ れた。本研究では、NonO2類似のシアル酸様物質が存在するO5とO11のLPSについてその糖鎖構造を比較した。 O5のLPSから、脱O-アシル 化、脱リン酸化、ピリジルアミノ化、脱N-アシル化及びN-アセチル化の一連の化学修飾により調製したLPS糖鎖を、主に1H-及び13C-NMRによっ て解析した結果、両O抗原型LPSの糖鎖はともに2分子ずつのβ-D-galactose、β-D-glucose、α-L-glycero-D- mannno-heptose、 glucosamineと1分子ずつのβ-NonO2、α-4-amino-4-6-dideosy-D-glucose、β-D-glucuronic acid、α-3-deoxy-D-manno-octo-2-ulosonic acidの計8種類11個の糖で構成される低分子量糖鎖であり、各構成糖の結合様式も解明された。一方、O11のLPS糖鎖についての同様の構造解析の結 果、O5とO11のLPSは、全く同一の糖鎖で構成されることが示された。両抗原型株は、強い共通抗原性を示すが、この糖鎖構造の類似性が関与するものと 思われる。しかし一方で、両者はそれぞれのO抗原特異性を示し、その特異性に関与する因子についても追究した。

O-6 腸管出血性大腸菌が産生する志賀毒素2の菌体外放出機構の解析

腸管出血性大腸菌(EHEC)の産生する志賀毒素1(Stx1)と志賀毒素2(Stx2)は産生時の分布に違いがあり、Stx1は菌体内に存在する が、Stx2は培養液中に放出される。この分布の違いから、EHECにはStx2に対する特異的な菌体外への分泌機構があることが想定されており、我々は すでにその分泌にはStx2のBサブユニットの31番目のセリンが重要な役割を担うことを報告している。
  一方、stx2遺伝子はEHECに溶原化しているStx2-ファージゲノムのlate operon内に存在していることが知られている。そこで、ファージlate遺伝子群の一つである溶菌遺伝子がStx2産生時の分布に関与しているかどう かを確認するために、溶菌遺伝子を欠失した変異株を作成し、解析を行った。その結果、欠失変異株ではStx2は菌体内に留まるようになった。このことは Stx2の菌体外分布には自発的なファージの溶菌過程も関与していることを示していた。しかしながら、Stx1, Stx2両方産生株においてもStx1は菌体内に留まることから、自発的なファージ誘導によって溶菌している菌体の割合は非常に低いことが考えられた。そ こで、そのことを明らかにするために、stx2遺伝子をgfp遺伝子に置換した変異株を作成し、GFPを発現している菌体の割合を測定した。その結果、 GFPを発現している菌体の割合は非常に低く、0.06%であった。これらのことからStx2の特異的な放出にはStx2-ファージ特異的なファージ誘導 機構が関与していることが明らかになった。
 次に、Stx2の放出にStx2特異的な分泌機構も関与していることを証明するために、stx1遺伝子をstx2遺伝子に置換した変異株、および分泌に 重要なBサブユニットの31番目のセリンをアスパラギンに変えた変異stx2(S31N)遺伝子に置換した変異株を作成し、解析を行った。その結果、 Stx2は培養上清から検出されたが、変異Stx2(S31N)は菌体内のみに検出された。これらのことから、Stx2の特異的な菌体外への放出には、 Stx2特異的な分泌機構とStx2-ファージ特異的なファージ誘導機構が関与していることが明らかになった。

O-7 Aflatoxin B1 生合成ルート中間物質のミトコンドリア毒性

カビ毒aflatoxin B1(AFB1)は強力な肝毒性および肝発がん性を示し、特に発がん性は史上最強であることが知られている。AFB1の生合成ルートは酵素化学的手法によ り、完全に解明されている。Acetyl CoAを出発物質としてsterigmatocystinに至るまでの中間物質は全てβー位にOH基を有するpoly(OH) anthraquinone誘導体であることは大きな特徴といえる。生合成ルート上の中間物質の肝毒性や発がん性はAFB1による健康障害を増強する可能 性が当然考えられる。AFB1の発がん性にはdihydrobisfurane環が関与し、生合成ルート上のdihydrobisfurane環を有する 中間物質versicolorin Aやsterigmatocystinも遺伝毒性や発癌性を示すことが証明されている。Kawaiらは、肝毒性のメカニズムの一端としてミトコンドリア毒 性を検討し、emodin, physion, chrysophanol, alizarin などを用いた実験により、poly(OH)-9,10-anthraquinoneのβ―位にOH基が存在することが強力な除共役作用発現に重要であるこ とを示した。Aflatoxin B1生合成ルート上のaverufinおよびversicolorin Aが共に天然物としては最強クラスの除共役作用を示し、やはり、β―位OH基の存在が重要であることを報告した。今回、さらに、nidrufin およびnorsolorinic acidについての実験も加えて、除共役作用及び電子伝達阻害作用について検討したのでその結果を報告する。

O-8 Streptococcus intermediusが産生するヒト特異的細胞溶解毒素インターメディリシンの発現調節機構の解析

【序論】
Streptococcus intermedius (SI) は、ヒト細胞に特異的な細胞溶解毒素インターメディリシン(ILY)を分泌する。ILYはSI感染に必須な因子であり、ilyノックアウト株はヒト細胞に 感染しない。またILY分泌量はSIの病原性と相関しており、強毒性の重症膿瘍株のILY分泌量は弱毒性の歯垢株の分泌量に比べて平均で6〜10倍多いこ とが分かっている。そこでSIのILY発現調節機構を明らかにするため、ILY高産生株と低産生株を用いて遺伝子レベルでの解析を行った。

【結果と考察】
ilyプロモーター周辺領域の配列を解析した結果、高産生株と低産生株で配列に若干の相違を認めたが、Inverted Repeat (IR) 領域、 Direct Repeat (DR) 領域、cre様配列 (CcpAカタボライトリプレッサー結合部位) は共通して保存されていた。そこで、これら領域の配列の相違が及ぼすILY分泌量への影響を解析するため、高産生株と低産生株の同領域の相互置換を行っ た。その結果、ILY分泌量は導入されたプロモーター周辺領域の配列の相違に依存するのではなく、その菌株自体の性質で決まることが明らかとなった。そこ で、IR領域とDR領域がily発現の制御に関わっているかどうかを調べる為に、IRまたは/およびDRを欠失させた株を作製した。その結果、低産生株の IR欠失株のILY分泌量は増加したが、高産生株では変化しなかった。従って、低産生株のIR領域にはリプレッサーが結合しており、低産生株と高産生株の ILY分泌量の差は、高産生株においてリプレッサーの活性が低下あるいは喪失したことによる可能性が高いことが分かった。またilyがCcpAによるカタ ボライト抑制を受けるか否かを調べるため、ccpA破壊株およびcre変異株を作製した。その結果、野生株では培地にグルコースを加えるとILY分泌量が 著しく減少するのに対し、ccpA破壊株およびcre変異株ではグルコースを添加してもILYが分泌されることが分かった。このことから、ily の発現調節にはCcpAによるカタボライト抑制も関与していることが分かった。現在、これら制御がSIの病原性どのように関与しているのかについて解析を 進めている。

O-9 コレラ菌溶血毒の膜侵入モデル

 コレラ菌溶血毒(VCH)は,標的細胞の膜成分であるコレステロール(CHOL)や糖鎖リガンドに結合後,集合体を形成して標的細胞の膜に侵入す ることが知られているが,その詳細なプロセスは未だ不明である.今回,我々はVCHと膜成分の相互作用ならびにVCH変異体の集合体形成能について検討し た.
 VCHのCHOL結合部位は,点変異体の結合実験と結合様式の分子動力学的解析によってE136であることがわかった.次にCHOL結合活性が native VCHに比べて約30%のVCH点変異体(E136A)の集合体形成能を調べたところ,集合体をまったく形成しなかった.一方,CHOL結合活性が約 50%のVCH点変異体(C137F)は,集合体形成がわずかに認められた.Native VCHとほぼ同じCHOL結合性を有する他のVCH点変異体(C137A,F139W,W143A,G150W)はすべてnative VCHとほぼ同等の集合体形成量が認められたが,T138をAに置換した VCHのみ集合体の形成がまったく認められなかった.また,E136に隣接し,前述の点変異体を作製した領域であるループ構造(C137からC155)を 欠損させたVCHは,CHOLと結合したが集合体を形成しなかった.これらの結果から,E136とT138は,VCHの集合体形成に関与するアミノ酸残基 であることがわかった.特にT138をAに変異させてもCHOL結合性に影響がないので,T138は集合体形成のキーになるアミノ酸残基であることが示唆 された.
次にアルキル鎖の長さや二重結合の有無など脂肪酸構造の異なる合成ホスファチジルコリン(PC)を用いてCHOL含有PCリポソームを作製しVCHと反応 させた.その結果,VCHは脂肪酸の長さが異なるPCを用いても集合体形成に差がみられなかった。一方,脂肪酸の中に2重結合が存在していると, VCHの集合体形成においてそれぞれ約20%の増加が観察された。おそらく,2重結合によって膜流動性が上昇し,集合体形成が促進されたと考えられる.こ れらの結果についてはPC単分子膜に作用させたVCHを原子間力顕微鏡によって観察した結果と対比して報告する予定である.シンポジウムでは解析データを もとにしたVCHの膜侵入モデルを提案する.

O-10 Bacillus cereus感染症におけるスフィンゴミエリナーゼの役割

【目的】
セレウス菌が産生するスフィンゴミエリナーゼ(Bc-SMase)は、306個のアミノ酸からなり、至適pHが中性のMg2+依存性の酵素であり、スフィンゴミエリン(SM)をセラミドとホスホリルコリンに加水分解することが知られている。また、所属する研究室では、Bc-SMaseがセレウス菌のin vivoにおける増殖に密接に関与することを明らかにしてきた。そこで、感染初期に宿主防御系の主役となるマクロファージに対するBc-SMase作用について解析した。

【方法】
マウス腹腔マクロファージのセラミド量は、細胞内のセラミドを[γ-32P]ATPでラベル後、TLCを用いて分子種を分離し、オートラジオグラフィー解析を行った。細胞膜の変化は、BODIPY C12-sphingomyelinで染色後、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。

【結果と考察】
マウス腹腔マクロファージを用い、その主要な感染防御機能である貪食能、及び、活性酸素産生作用に対するBc-SMaseの影響を検討した。その結果、Bc-SMase処理マクロファージでは、貪食能、及び、活性酸素産生能がいずれも低下することが明らかとなった。次に、Bc-SMase処理マクロファージの細胞膜内セラミド分子種の変化を解析した結果、SMが減少して、C16:0-セラミド、及びC24:1-セラミドが特異的に増加した。そこで、各セラミド(50 μM)でマクロファージを処理したところ、貪食機能、及び、活性酸素産生作用は、その濃度に依存して低下した。また、BODIPY C12-sphingomyelinで染色したマクロファージをBc-SMaseで37℃、1時間処理した結果、コントロール細胞では、SMが細胞膜にほぼ均一に存在している像が観察されたが、Bc-SMase処理細胞では、その蛍光(BODIPY C12-Ceramide)の分布は不均一で、局在した像が認められた。さらに、FRAP解析を行った結果、Bc-SMase処理では、コントロール細胞と比較して、蛍光強度の回復遅延、すなわち、細胞膜の流動性の低下が認められた。これらの結果から、Bc-SMaseは、マクロファージに作用すると、セラミドクラスターの形成亢進に伴う膜の流動性の低下を引き起こし、貪食能、及び、活性酸素産生能の低下を惹起すると推察される。

O-11 パスツレラ毒素C1ドメインの膜局在化能の機能解析

Pasteurella multocidaが産生するパスツレラ毒素(PMT)は1285アミノ酸からなる1本鎖毒素で、標的細胞 のGqあるいは G12/13のヘテロ三量体のGTPaseに依存した様々なシグナル伝達系を活性化することが知られているが、詳細な分子機構はまだ明らかになっていな い。最近、我々はPMT活性を持つC末端側断片(569-1285残基、C-PMT)の結晶構造解析に成功し、C-PMTが3つのドメイン構造(C1, C2, C3)からなり、C1は膜局在化に関与すること、C3は システインプロテアーゼ様活性中心を持つことを明らかにした(Kitadokoro et.al., Proc Natl Acad Sci USA, 103, p5139-44, 2007)。今回我々はC1の膜局在化能とPMT活性の関連について詳細な解析を行った。C1の最初の4つのhelixからなる立体構造(590-670 残基)はClostridium difficileのトキシンBの N末端の立体構造と高い相同性を示し、動物細胞でC-PMTを発現させると細胞膜への局在が観察される。そこで、C1の4つのhelixの部分欠失体 [ΔC1(4H)]の細胞内局在を調べたところ、ΔC1(4H)は細胞膜への局在が見られなかった。この4つのhelixについてそれぞれ欠失体を作製して解析したところ、どのhelixを欠失しても膜局在化能が失われることが分かった。またPMTが活性化するシグナル経路下流の SRFとNFATのレポーターアッセイを行ったところ、ΔC1(4H)を発現させた場合には全く活性が認められなかった。しかし、膜局在化モチーフを ΔC1(4H)のN末端に導入した場合には活性の回復が認められた。さらにΔC1(4H)の組換えタンパクをHVJリポソーム法により細胞質に導入して PLC活性を調べたところ、ΔC1(4H)では活性が低下していた。またC1に対してリン脂質を含むリポソームの結合を表面プラズモン共鳴法により解析し たところ、 ホスファチヂルセリンやホスファチヂルグリセロールなどを含むリポソームに対して結合が見られた。以上の結果から、C1はC−PMTの膜局在化シグナルと してのみ機能すること、PMT活性の発揮にはこの膜局在化が必要であることが明らかになった。このことよりPMTは細胞膜直下で作用を発揮すると考えら れ、未同定のPMTの標的分子も膜に局在する可能性が考えられる。

O-12 抗菌ペプチドCAP11によるマクロファージ様細胞からのHMGB1の放出制御機構

【目的】
敗血症性ショックは致死的な経過を辿る重篤な病態で、その多くにグラム陰性菌感染が関与している。グラム陰性菌由来のリポ多糖 (LPS)等によって単球・マクロファージが刺激されると、核内タンパク質であるHMGB1 (High Mobility Group Box 1)が細胞外に放出され敗血症性ショックの病態形成に関わると考えられている。一方、cathelicidinファミリーの抗菌ペプチドであるCAP11 (cationic antibacterial polypeptide of 11kD)は抗菌作用のみならず、エンドトキシンショックモデルに対して保護的に働くことが示されている。そこで、本研究ではCAP11の敗血症性ショッ クに対する作用機序の一端を明らかにするために、マクロファージ様細胞株RAW264.7をLPS刺激し、HMGB1放出とそれに及ぼすCAP11の効果 を検討した。

【方法】
RAW264.7細胞をLPSで24時間刺激して細胞外に放出されたHMGB1はウェスタンブロット法で検出した。また、LPS刺激による細胞死の誘導を乳酸脱水素酵素の放出、Caspase 3の活性、及びAnnexin V/PI染色によって調べた。また、Alexa標識LPSを用いて細胞への結合をフローサイトメトリーで調べた。

【結論】
LPS刺激 (10~500 ng/ml)によって濃度依存的にRAW264.7細胞からHMGB1 (~30%)が放出され、それは細胞死 (アポトーシス/ネクローシス)をともなっていた。興味深いことに、CAP11はLPS刺激された細胞からのHMGB1の放出及び細胞死を抑制し、さら に、LPSの細胞への結合を抑制した。CAP11はLPSの標的細胞の結合を阻害することによって細胞死を阻害し、それにともなうHMGB1の放出を抑制 することが、CAP11の敗血症性ショックに対する防御機構の一つとして考えられた。