毒素シンポジウム
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第57回毒素シンポジウム指名講演

O-1 腸管出血性大腸菌の腸管上皮細胞への接着は病原因子の発現を増加させる

○清水 健、野田 公俊 (千葉大学大学院医学研究院・病原分子制御学)

 体内に経口的に侵入した腸管出血性大腸菌(EHEC)は大腸上皮に付着後、III型分泌装置の働きによってさらに強固に接着する。このようなEHECの腸管上皮細胞への定着は感染成立に重要な段階の1つである。しかしながら、その過程に置いて、EHECの病原因子がどのように発現しているのかは分かっていない。そこで遺伝子の発現量を定量的にモニターする方法を構築し、その測定系を用いて腸管上皮細胞に接着することによって生じるEHECでの病原因子発現を明らかにする。

 Photorhabdus luminescens GTC00819株のゲノムDNAを鋳型として発光に必要なluxCDABEオペロンをPCRで増幅し、そのDNA断片をlacプロモーターを持つ発現プラスミドにクローニングし、そのプラスミドからluxE遺伝子を欠失させたluxCDAB発現プラスミド(pluxCDAB3)を構築した。EHECの主要な病原因子として志賀毒素(Stx)が知られている。そこでEHEC EDL933株、あるいはその変異株E(SR)とpRed/ET systemを用いて、stx1遺伝子、あるいはstx2遺伝子の直下にluxE遺伝子を挿入し、これらの菌株にpluxCDAB3を形質転換し、各々の志賀毒素の発現と同様な発現パターンで産生されたLuxEに依存して生じる菌体からの発光を測定した。

 Stx1の発現をモニターするための変異株E1-E2S(pluxCDAB3)は野生株のStx1の発現様式と同様に、対数増殖期中期に発光強度が増加し、対数増殖期後期に入ると発光強度は減少した。また、Stx1の産生を増加させる低鉄イオン条件においても同様に発光強度が増加した。Stx2の発現をモニターするための変異株E(SR)2-E2S(pluxCDAB3)は野生株のStx2の発現様式と同様に、対数増殖期後期に発光強度が増加し、定常期に入ると発光強度は減少した。また、Stx2の産生を増強させるマイトマイシンC処理によって同様に発光強度は劇的に増加した。これらのことは、作成した2つの変異株はそれぞれの志賀毒素遺伝子の発現に応じて発光強度が変化していることを示していた。そこで、これらの菌株を用いてヒト腸管上皮細胞由来のCaco-2細胞と接着している状態と、上清中に浮遊している状態における病原因子の発現を発光強度の値で比較した。その結果、どちらの変異株においても細胞に接着している状態の方が発光強度は高かった。このことから、EHECは感染時、腸管上皮細胞に接着すると志賀毒素の産生が増加することが考えられた。

O-2 生体防御・攻撃タンパク質の祖先型タンパク質再構築による機能・進化機構解析

〇小川智久1,今野 歩1,速見卓也1,村本光二1,白井 剛2 (1東北大学大学院・生命科学研究科,2長浜バイオ大学)

ヘビ毒やイモガイ毒コノトキシン類、サソリ毒やクモ毒などの生物毒やディフェンシン、RNaseAや 魚類ガレクチンなど生体防御関連タンパク質の多重遺伝子ファミリーでは、アミノ酸を積極的に置換するような「加速進化」により新しい機能をもつような興味 深い現象が見られる(参考文献1,2)。しかしながら、加速進化のメカニズムやどのような選択圧で新しい機能をもつように進化してきたのか不明である。  本研究では、ヘビ毒アイ ソザイム遺伝子と魚類生体防御レクチンにみられた加速進化によるタンパク質の構造(フォールド)や機能の進化がどのような選択圧で起こったのか、祖先型タ ンパク質再構築による機能・進化機構解析を行った。加速進化がみられた直前の祖先型遺伝子の配列を系統樹から予測し、リコンビナント祖先タンパク質を調製 した。具体的には魚類生体防御レクチン、コンジェリンIおよびコンジェリンIIと 祖先型タンパク質の構造や機能の比較解析により、これらが魚病細菌が有する糖鎖構造を認識するように進化してきたことを明らかにした(文献3,4)。ま た、ヘビ毒筋壊死因子についても祖先型タンパク質再構築による機能解析の結果について紹介する。現存する生体防御・攻撃タンパク質の分子系統樹を辿り、祖 先型タンパク質をよみがえらせて、その立体構造や機能を実験的に検証し、進化を明らかにする新しい手法について議論したい。

O-3 単独性カリバチ毒のペプチド毒素

○紺野勝弘 (富山大学・和漢医薬学総合研究所)

 単独性カリバチが、毒を用いてクモや昆虫を麻痺させ幼虫の餌とする こ とは、『昆虫記』で有名なファーブルが初めて明らかにした。したがって、その毒液には神経活性成分が含まれていると考えられ、生態のみならず生命科学・薬 用資源の面からも興味がもたれている。にもかかわらず、その毒成分の化学的研究は、長い間ほとんど行われていなかった。それは、大きな巣をつくらず単独で 生活するため、化学分析に必要な大量の個体・毒液を集めることが非常に困難なことが主な理由と考えられる。しかし、近年の化学分析法の発達、特にマススペ クトルのめざましい発展によって、微量物質の分析が格段に容易にできるようになり、単独性カリバチ毒の化学成分研究も、それを活用することで徐々に進みつ つある。我々は、日本産の単独性カリバチ40種余りを採集し、主に網羅的分析法を用いて毒成分分析を行っている。これまでの結果から、期待した神経活性物質だけではなく、抗菌性ペプチド・キニン様ペプチドなど、予想以上に多種類の生理活性ペプチドが含まれていることがわかってきた。これら現時点での結果を概説する。

O-4 独居性カリウドバチ“オオカバフスジドロバチ”の毒液成分に関する研究

○村田和也1、品田哲郎1、大船泰史1、久田美貴2、安田明和2、直木秀夫2、中嶋暉躬2 (1:大阪市立大学大学院理学研究科、2:(財)サントリー生物有機科学研究所)

独居性カリウドバチは、集団で営巣をせ ず、生涯単独で生活する。カリウドバチはその産卵行動に特徴があり、オオカバフスジドロバチは蛾の幼虫を毒液で麻痺させ、横穴状の巣に運ぶ。ドロバチは麻 痺した獲物に卵を産み付け、孵化したハチの幼虫は麻痺した獲物を摂取し、成虫となって巣立つ。麻痺した獲物は、卵が孵化するまでの約一週間麻痺した状態が 持続することから、ドロバチが持つ毒液の成分ムに興味が持たれた。
 演者らは、オオカバフスジドロバチの毒液を採取し、LC-MSを用いたアミン化合物の網羅的解析および単離可能であったペプチドの一次構造解析を実施した。その結果、オオカバフスジドロバチの毒液中からブチリルコリンを初めて同定し、また、マストパラン誘導体Eumenine mastoparan-ODおよびプロトネクチン誘導体Orancis-Protonectinの2種の新規ペプチドの一次構造を決定することができた。
 ブチリルコリンの構造は、LC-MS/MSの高分解能測定により分子式を絞り込み、MS/MSスペクトルから予想した。合成標品を調製し、保持時間の一致とMS/MSスペクトルの一致により構造を決定した。Eumenine mastoparan-ODは親水性アミノ酸としてリジン残基のみでなくアルギニン、ヒスチジンの各残基を有する点、さらにヒスチジンがN末から13番目に位置している点が他のマストパランと異なり、新しいクラスのマストパランであることが判明した。Orancis-Protonectinは他のプロトネクチン同様、N末から10番目の位置にリジン残基を有し、さらに、疎水性アミノ酸および親水性アミノ酸残基の配列位置が、他のプロトネクチンと良く一致していた。これら2種のペプチドは、マストパランと比較して高い溶血活性を示し、細胞膜への浸透性が高いことが示唆され、今後、作用メカニズム解明の有力なツールになると期待された。

O-5 フグ毒テトロドトキシンの類縁体、分布、構造活性相関、耐性機構

○山下まり (東北大学大学院農学研究科天然物生物機能科学講座)

低分子で水溶性の毒であるテトロドトキシンはNa +チャネルの特異的阻害剤として、またフグ中毒原因物質としてよく知られる。本発表では、これまで行ってきた、テトロドトキシン類縁体の発見と生物における分布、生物の毒耐性機構、構造活性相関、フグ中の結合タンパク質などについて述べ、さらに未解明な問題について紹介し、参加者から意見を頂ければと考えています。

O-6 海綿に含まれる神経活性物質の探索

桜田剛史1、Martin B. Gill2、Shanti Frausto2、野口恵一3、島本啓子4、Geoffrey T. Swanson2、○酒井隆一1 (1北海道大学水産、2ノースウエスタン大学医、3東京農工大、4サントリー生物有機化学研究所)

海綿類は生理活性物質の宝庫であり多数の魅力的な化合物が見出されてきた。その生理活性は多岐に及ぶが、我々の研究グループでは海綿の水溶性抽出物に着目 し、その活性成分で特に神経活性(毒性や受容体の制御作用)の探索を行ってきた。その結果、新規の興奮性アミノ酸ダイシーハーベインをはじめとしたいくつ かの興味深い化合物を見出すことができた。今回はこれらの探索、構造、生理活性について発表する。

O-7 海産毒の有効利用

○中尾洋一 (早稲田大学先進理工学部 化学・生命化学科 ケミカルバイオロジー研究室)

海洋生物はそれぞれの生息環境内で周りの異種生物と相互関係を作りながら生息している。その過程である種の有機化合物(たとえば毒素)がやり取りされ、食物 連鎖に従ってより上位の生物に化合物が受け渡されている例がよく知られている。本発表ではハワイオアフ島ノースショアで採集した軟体動物由来の化合物を中 心として、食物連鎖によって受け渡されていると考えられる化合物について報告する。

O-8 日本のマムシ毒成分の棲息地域毎の毒成分組成の比較と血管透過性亢進因子

村上 達夫1、今村 隆寿2、鳥羽 通久3、中村 仁美4、千々岩 崇仁1、大野 素徳1、○上田 直子4 (1崇城大・生物生命、2熊大・医・分子病理、3日本蛇族研、4崇城大・薬)

日本の南西諸島に棲息するハブ毒成分の組成は、棲息地域(奄美大島、徳之島、沖縄)で異なっていることを、我々はこれまでに明らかとした。日本の本土に棲息する毒蛇であるマムシ (Gloydius)の毒成分の組成も地域毎に特徴があるかを明らかとするため、北海道、群馬、岐阜に棲息するニホンマムシ(Gloydius blomhoffi)および対馬のツシママムシ(Gloydius tsushimaensis) 毒成分を、二次元電気泳動比較と各種カラムクロマトグラフィーを用いて比較解析した。その結果、北海道、群馬、岐阜の地域に棲息するマムシ毒成分について は、個々の毒成分の発現量の違いは観察されたものの、毒成分の組成には大きな違いは見られなかった。一方、ツシママムシ毒は、固有の毒成分組成を示した。興味深いことに、ツシママムシ毒は、モルモットを用いたMiles assayで強い血管透過性亢進活性を示したが、この活性は、ニホンマムシ毒には観察されなかった。そこで、このツシママムシ毒の血管透過性亢進因子の同定を行うため、各種クロマトグラフィーで分離後、質量分析計にて部分アミノ酸配列を解析した結果、セリンプロテアーゼ様の分子であることが示唆された。

O-9 香辛料に含まれるコレラ毒素産生抑制物質

○山崎伸二1、Shruti Chataerjee1、朝倉昌博1、Nityananda Chowdhury1、Sucharit B. Neogi1、Awasthi S. Prasad1、杉本典彦1、日根野谷淳1、岩岡恵美子2、青木俊二2 (1大阪府立大院・生命環境・獣医国際防疫学、2兵庫医療大・薬)

 香辛料に抗菌物質が含まれることはよく知られている。しかしながら、香辛料に菌の増殖に影響を与えず病原因子の発現を制御する物質が含まれるかは明らかとなっていない。

本研究では、熱帯・亜熱帯地方で汎用されている香辛料6種類のメタノール抽出液を作製し、様々なコレラ菌のin vitroで のコレラ毒素産生性について解析した。その結果、赤唐辛子のメタノール抽出物中に、コレラ毒素の産生を抑制する物質が含まれることを見いだした。少なくと も、そのうちの1つはカプサイシンであることを明らかとした。また、このカプサイシンを様々なコレラ菌の培養液に添加することでコレラ毒素の産生が抑制さ れ、また、toxT、tcpA、ctxA遺伝子の転写抑制やhns遺伝子の転写促進が認められた。以上の結果から、カプサイシンによるコレラ毒素産生抑制は、カプサイシンが直接あるいは間接的にhns遺伝子の転写を促進し、toxT、tcpA、ctxA遺伝子の転写を抑制したか、hns遺伝子の転写促進を介さず、toxT、tcpA、ctxA遺伝子の転写を抑制した可能性が考えられた。

O-10 腸炎ビブリオの産生するthermostable direct hemolysin(TDH)の構造学的解析

○柳原格1、中平久美子1、大西紀陽久1、真柳浩太2、橋本博3、本田武司4 (1大阪府立母子保健総合医療センター研・免疫、2九大生体防御・ワクチン開発、3横浜市大・構造科学、4阪大微研研究会)

腸炎ビブリオの産生するTDHは、溶血活性、心臓毒性などを呈する蛋白質毒素である。我々は、これまで本毒素がアミロイド様の性質を持つこと(Fukui T, et al. Biochemistry)、溶液中では4量体を形成すること、及び構造予測モデルを提唱してきた(Hamada D, J Mol Biol)。 今回、1.5Åの解像度でTDH4量体のX結晶構造を決定したので報告する。TDH4量体は、中心部に孔を形成する。孔の直径はおよそ23Å、深さは 50Åであった。また、一つのプロトマーは10本のβシートによるクロスβストランド構造(アミロイド様構造)をとっていた。また、2つのαへリックス構 造を有し、C151とC161間には1箇所のジスルフィド結合が確認された。N末端側の11残基の電子密度は観測されず,揺 らぎの大きな構造であると推測された。各プロトマーと隣接するプロトマー間は、π―カチオン結合をしていたが、1アミノ酸置換変異体の解析から、このπ― カチオン結合が4量体構造の維持に重要であることが示された。一方、4量体構造を維持できない変異体は、溶血活性を失っていたことから、4量体構造の維持 が溶血活性にとっては重要であることが示された。人工的に作製されたリポソーム膜とTDHの相互作用を解析したところ、作用開始から15分後には、特徴的 な対角方向からの結合が観察された。アミロイドの病原発揮機構には現在も尚、フィブリル仮説や、チャネル仮説があるが、最近は病原性を発揮する本態はス モールオリゴマーであるといった報告がある。TDHはアミロイド様の性質を有する4量体構造で、スモールオリゴマー説を指示する。

O-11 新規in vitro assay法によるパスツレラ毒素の酵素学的解析

○神谷 重樹1、青 真平2、立花 太郎2、北所 健悟3、戸嶋 ひろ野1、福井 理1、安倍 裕順1、堀口 安彦1 (1阪大・微研、2大市大・工・化学生物、3京工繊大・工芸科学)

Pasteurella multocidaが産生するパスツレラ毒素(PMT)は1285アミノ酸からなる1本鎖毒素で、標的細胞のGq, G12/13, あるいはGiヘテロ三量体のGタンパクを、αサブユニットのグルタミン残基を脱アミド化することにより恒常的に活性化することが知られている。しかしながら、PMTによるこの脱アミド化は感受性細胞を用いたバイオアッセイによって観察されているだけであり、PMTの酵素学的特徴はいまだ詳細に解析されていない。そこで我々は本研究ではPMTの酵素学的特徴を解析する目的で、Gqのαサブユニットの脱アミド化を特異的に認識するラットモノクローナル抗体を作製し、これを用いてPMT特異的な脱アミド化を検出するin vitro assay法を開発した

 その結果、PMTによるGqin vitro脱アミド化は還元条件下のみで検出され、このことはPMTのC末端細胞内活性領域の結晶構造解析より得られた我々の以前のデータと一致した。すなわち、PMTのC末端の触媒活性ドメインに存在するジスルフィド結合が還元された後でのみ、PMTが活性化されることが示唆された。またこのin vitro assayによりPMTの酵素作用は細胞内活性領域の触媒活性サブドメインのみに起因することが分かった。さらに、百日咳毒素がβ, γサブユニットとヘテロ三量体を形成中のGiのαサブユニットのみを基質とするのとは異なり、PMTはGqのαサブユニット単量体も脱アミド化できることが分かった。

 一方、感受性細胞におけるPMT作用時のPLC活性化を指標とした方法ではこれまでGqと相同性の高いG11についてはPMTの標的分子として機能しないと報告されていたが、今回我々が単離した抗体を用いてG11のαサブユニットの脱アミド化を調べたところ、PMT刺激時にG11も脱アミド化されており、標的分子であることが分かった。この知見についても合わせて報告する。

O-12 腸管出血性大腸菌の産生する Subtilase cytotoxin (SubAB) の毒性発現機序の解析

○八尋錦之助、盛永直子、野田公俊 (千葉大・院・医)

[目的]
SubAB は、腸管出血性大腸菌(STEC)より分泌される新たな AB5 型毒素として同定された(Paton et al., 2004)。SubAB は細胞内に取り込まれた後、ER に存在するシャペロン蛋白質 BiP を基質として分解し、その結果 unfolding protein の蓄積による ER ストレスにより細胞致死を誘導すると考えられている(Paton et al., 2006)。我々はこれまでに SubAB が Vero 細胞に対して、 1)ミトコンドリアからの cytochrome c の遊離を介した Caspase family の活性化がアポトーシスに関与していること。2)一過性の蛋白質合成阻害活性、G0/G1期での細胞周期の停止の誘導。3)Vero 細胞上の SubAB の受容体がintegrin a2b1 の N-結合型糖鎖であること等を報告している。しかしながら、ヒトの細胞における細胞致死メカニズムに関する報告は少ない。本研究では、SubAB に感受性を持つ HeLa 細胞を用い、細胞致死に至るメカニズム、更に、致死に直接関与する HeLa 細胞上の受容体を明らかにすることを目的として実験を試みた。

[方法]
SubAB をHeLa 細胞に添加し、一定時間インキュベーションした後、細胞を回収して、細胞致死に関与する蛋白質を Western blotting により解析した。受容体は細胞表面をビオチン標識した後、SubAB による免疫沈降法を用いて、アビジンHRP により同定した。更に、レクチンカラムを用いて精製後、濃縮し、LC-MS/MS により SubAB 結合蛋白質を解析した。

[結果と考察]
SubAB によるアポトーシスは、ミトコンドリア膜状での Bax/Bak の構造変化が引き金となり、そのポアからの cytochrome c の遊離、カスパーゼの活性化が関与していることが明らかとなった。更に、HeLa 細胞膜上の SubAB 受容体として、4つの膜蛋白が同定された。これら膜蛋白質の siRNA による発現抑制下、SubAB の毒性発現が顕著に阻害される膜蛋白を明らかにした。この膜蛋白がどのように毒性を抑制しているか解析を進めている。

O-13 αガラクトシルセラミド感作マウスのエンドトキシン誘発肺傷害のメカニズム−肺NKT細胞の関与−

○横地高志、ダグヴァドルジ・ジャルガルサイハン、内記良一、小出直樹、吉田友昭 (愛知医科大学医学部微生物・免疫学講座)

αガラクトシルセラミド(αGalCer)感作マウスにLPSを投与すると重症の肺傷害が誘導される。しかしながら、肝傷害は起こらない。そのメカニズムを明らかにするため、肺と肝臓のaGalCer刺激に対する反応性の差異を調べた。肺、肝臓のNKT細胞はαGalCer刺激でどちらもIFN-gを産生したが、肝臓ではIFN-gシグナルが減弱していた。肝NKT細胞はIL-4抗炎症性サイトカインを産生したが、肺NKT細胞は産生しなかった。このため、肝臓ではSOCS1が誘導されたが、肺では誘導されなかった。肺NKT細胞はαGalCer刺激でCD8陽性でIFN-gを産生するが、肝NKT細胞はCD4陽性でIL-4、IL-10、IFN-gを産生する。この両臓器におけるNKT細胞の表現型、サイトカイン産生プロファイルの違いが、αGalCer感作マウスがLPS投与による臓器傷害の違いを導くと考えられる。さらに詳細な分子メカニズムについて報告する予定である。

O-14 黄色ブドウ球菌由来alphaヘモリジンは自発的に7量体へと会合する

○田中良和1、平野なぎ沙1、河内宏樹1、山下恵太郎1、金子淳2、神尾好是3、姚閔1、田中勲1 (1北海道大学、2東北大学、3尚絅学院大学)

 黄色ブドウ球菌のalphaヘモリジンは,分子量33.2kDaの赤血球溶血性毒素である.溶液中では単量体であるが,赤血球膜上に結合すると7量体の膜孔を形成する.種々の生化学的実験により,7量体の膜孔は,1)単量体の膜への結合,2)膜上での7量体への会合,3)ステム領域の構造変化,4)膜孔の形成,という過程を経て形成されることが示されている.1996年に,X線結晶構造解析により,膜孔を形成した7量体の構造が1.9Aの分解能で明らかにされたが,一方で,単量体の構造については,未だ明らかにされていない.本研究では,X線結晶構造解析により,単量体のalphaヘモリジンの立体構造を解明することを目指した.大腸菌で大量発現させたalphaヘモリジンは,単量体として存在していることが,ゲルろ過により確認された.精製された,単量体のalphaヘモリジンの結晶化条件を検討したところ,100mM HEPES (pH8.5), 40% MPDにて良好な結晶が得られた.大型放射光施設フォトンファクトリーにてX線回折実験を行ったところ,2.5Aの分解能の回折データを得ることができた.機知の7量体のalphaヘモリジンのプロトマーをサーチモデルに用い,分子置換法にて構造解析を行ったところ,非対称単位中には,4分子の7量体の alphaヘモリジンが存在していることが明らかになった.上記のように,alphaヘモリジンが7量体へと会合するには,膜成分への結合が必要と考えられており,実際に機知の7量体構造は,脂質成分か界面活性剤の存在下で得られた結晶を用いている.一方,本研究で得られた結晶は,単量体として精製された alphaヘモリジンを用い,さらに精製から結晶化までの過程で,一切,脂質や界面活性剤を添加していない.以上の結果を考え合わせ,alphaヘモリジンは膜が存在しなくても自発的に7量体へと会合することができ,また7量体として会合すればステム部分が自発的に構造変化することが提案された.

O-15 海洋危険生物のもつタンパク質毒素

○永井宏史 (東京海洋大学 海洋科学部)

 毒を持っていて人を刺すと激しい被害を引き起こす生物の一群は海洋危険生物と呼ばれる。これらの生物による刺症は,場合によっては致命的なこともある。

 ところで,これら海洋危険生物の毒素に関する研究は長年行われてきたにも関わらず,なかなかその毒素の詳細については明らかにできなかった。これは,主に海 洋危険生物の毒素のほとんどがタンパク質性のものであり,取り扱いが非常に難しかったためである。最近になって,ようやくいくつかの毒素が単離されてその性状解明が行われ始めた。

 海水浴場の厄介者アンドンクラゲや、その刺症がときとして致死的なことで知られるハブクラゲといった立方クラゲ類から主要なタンパク質毒素群(約 45 kDa)が単離され、それらの配列が決定された。これら立方クラゲ由来の毒素は新規なタンパク質ファミリーを構成することが判明した。また、これらの毒素の作用メカニズムとしては生体膜に対する小孔形成と推測された。

 浅瀬に生息し、極めて重篤な刺症被害を引き起こすウンバチイソギンチャクからも主要なタンパク質毒素(約 60 kDa)を単離して、その配列が決定された。これは、我々の体内では免疫系において生体防御物質として働いている補体複合体・パーフォリン(MACPF)様タンパク質であった。これは、天然で毒素として働くMACPFタンパク質として最初の例である。

 また、ダイバーがよく刺症被害を受けるアナサンゴモドキから単離した約 20 kDaのタンパク質毒素はdermatopontin(ダーマトポンティン)ファミリーであった。我々の体では、ダーマトポンティンは細胞外マトリックス として存在するがその生理的意義は明確ではない。今回明らかにされたタンパク質も毒素として作用する初めてのダーマトポンティンであった。

このように海洋危険生物由来のタンパク質毒素は、ユニークな機能と構造をもっていることが示された。

O-16 ニュージーランド産赤潮渦鞭毛藻の生産する新規有毒成分の単離と性状

M本友佳1、○佐竹真幸1、橘和夫1、伊藤恵美子2、Patrick Holland3、Feng Shi3、Vernonica Beuzenberg3 (1東大院理、2千葉大学真菌医セ、3コースロン研)

[目的]
1998年1月〜3月にかけて、ニュージーランド北島南東部ウェリントン湾周辺で大規模な赤潮が発生した。この赤潮により海域の魚介類の大部分が斃死し、エアロゾルによると推定される呼吸困難、咳、目の腫れ、頭痛などの健康被害が150件以上報告された。原因種は新種の渦鞭毛藻Karenia brevisulcateと同定され、渦鞭毛藻抽出液は、マウス致死毒性と細胞毒性を示したが、既知の有毒成分は検出されず新規有毒成分の関与が示唆された。以上のことから、我々は、ニュージーランドコースロン研究所と共同で有毒成分の構造研究を開始した。

「方法」
有毒渦鞭毛藻K. brevisulcate培養液をアセトン抽出し、HP-20後、クロロホルム/水分配を行った。渦鞭毛藻の培養と抽出は、コースロン研究所で行われた。クロロホルム層をジオールカートリッジカラム、C30カラムを用いて、 細胞毒性を指標に順次精製を行った。得られた有毒成分を各種機器分析に供し、性状の解明を試みた。単離した成分のマウスに対する毒性をテストした。

「結果」
渦鞭毛藻K. brevisulcate 700L分の抽出液から、KBTF、KBTGと仮称した2成分をそれぞれ、1.3 mg、0.6 mg単離した。MALDI MSを測定したところ、KBTF [M + Na]+ m/z 2076、KBTG [M + Na]+ m/z 2106が観測された。重メタノールに対する溶解性が悪く、NMRスペクトルは、重ピリジン中で測定した。腹腔内投与によるマウス致死毒性は、それぞれ40 μg/kg、30 μg/kgであった。

O-17 渦鞭毛藻由来アンフィジノール類の脂質膜透過化作用に関する研究

○松森信明、Respati T. Swasono、蓬台俊宏、Nagy A. Morsy、金本光徳、大石徹、村田道雄 (大阪大学大学院理学研究科化学専攻)

トキシンの中には、生体膜を標的とするものも多く知られている。我々は生体膜に作用して活性を発揮するアンフィジノール(AM)を研究対象としてきた。AMは渦鞭毛藻から単離されたポリエンポリオール化合物で、非常に強い抗真菌活性と溶血活性を有する。1991年に初めてAM1が報告されて以来、現在までに8種類の同族体が報告されている。我々は1999年に同族体の中でも最も活性の強いAM3の絶対構造を決定し(J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 870-871)、最近一部の立体化学を訂正した(Org. Lett. 2008, 10, 5203-5206)。AMは脂質二重膜と結合し、膜のイオン透過性を増大させることで活性を発現しているが、その詳細は不明であった。

そこでAMの活性発現メカニズムを解明するため、以下の実験を行った。まずAMの溶血活性を利用して浸透圧保護実験を行い、AMが赤血球膜に形成するポアのサイズを2.0-2.9 nmと見積もった(Biochim. Biophys. Acta. 2004, 14, 5677-5680)。また、表面プラズモン共鳴法により脂質膜とAMとの親和性を解析した結果、コレステロール含有膜との親和性が顕著に増加することが明らかとなった(Bioorg. Med. Chem. Lett. in press)。さらに、蛍光剤封入リポソームに対してAMを作用させて蛍光剤の流出を観測したところ、同様にコレステロール膜でAMの膜透過活性が昂進した(Bioorg. Med. Chem. 2008, 16, 3084-3090)。以上の結果からAMのコレステロール依存性が明らかとなった。また、この蛍光剤流出実験では、AMは膜の厚さによらず膜透過活性を示したことから、膜厚に非依存的なポア、すなわちトロイダル型ポアの形成が示唆された。最後にAMの膜結合状態を解析するために、膜モデルとしてSDSミセルおよびバイセルを用い、NMRによる立体配座解析を行った。その結果、AMは分子中央付近で屈曲した立体配座を取っており、ポリオール部分が膜の表面付近に、ポリエン部分が膜内部に存在することが明らかとなった(Tetrahedron 2005, 61, 2795-2802. Org. Lett. 2008, 10, 5203-5206)。現在、膜中におけるAMとコレステロールの相互作用を観測するために、固体NMRによる解析を行っている。

O-18 ガス壊疽菌群コラゲナーゼの基質結合様式と再生医療への応用

○松下 治1、西 望2、小杉日登美3、小出隆規4、安達栄治郎5、坂本恵子6、服部雅一6、宮下武憲7、森 望7、Jeffrey J Wilson8、 S. T. Leena Philominathan8、Joshua Sakon8 (1北里大・医・微生物、2香川大・総合生命セ、3新潟薬大・薬・薬品製造学、4早稲田大・先進理工・化学生命化学、5北里大院・医療系、6北里大・理・生物科学、7香川大・医・耳鼻咽喉科学、8アーカンソー大・化学生化学)

ガス壊疽菌群は不溶性の膠原繊維を水解して急激に感染叢を拡大する。本菌群が産生するコラゲナーゼのC末端には、約120アミノ酸残基よりなるコラーゲン結合ドメイン(CBD)が1〜3コピー存在し ている。CBDは単体で不溶性コラーゲンに結合するので、本酵素は CBDにより自身を不溶性基質の表面にアンカーリングし、効率よく基質 を水解すると考えられた。CBDはβサンドイッチ構造をとり、サ ンドイッチ開口部はCa結合部位で閉鎖されていた。基質ペプチド はサンドイッチ側面にβストランドに直行する方向で、C末端が Ca結合部位に向いて結合すると推測された。ところで、コラーゲン分子 の重合反応はコラーゲン結合タンパク質(CBP)により阻害される が、CBPに結合するコラーゲン様ペプチドを添加すると再び重合 反応が起こる。種々のコラーゲン様ペプチドを用いてCBDの結合 スペクトルを解析したところ、他のコラーゲン結合タンパク質に比し配 列特異性が低いことが判明した。CBDはコラーゲン分子の多様な 部位に結合すると推察される。線維芽細胞とアテロコラーゲンを含む溶液を生体親和性メッシュを通して還流し、メッシュ上に人工真皮に相当する高密度の人工結合組織を形成できた。これを表皮成長因子(EGF)-CBD融合タンパク質と表皮細胞を含む培養液で覆って24時 間静置後、通常の培養液に置換して気相培養した。線維芽細胞とコラーゲン細線維からなる人工真皮層の上に、重層扁平上皮からなる人工表皮層が形成され、そ の上層部は角化していた。有蕀層では正常皮膚に比較して少ないながらもデスモゾームが形成されていた。表皮の基底細胞下には不連続ながら基底板が形成され ていた。現在、この人工真皮層に新たな機能を付与すべく検討を行っている。また高密度コラーゲンに機能性分子をアンカーリングすることにより再生医療分野 で種々の応用が可能であると思われる。今回はその具体例を紹介したい。

O-19 コレステロールと糖脂質を介したコレラ菌溶血毒の膜侵入

○生貝初1、中山浩伸1、飯村兼一2、大石祐司3、菅波晃子4、田村 裕4 (1鈴鹿高専・生物応用化学、2宇都宮大院・工・学際システム、3佐賀大・理工・機能物質化学、4千葉大院・医・生命情報)

目的
膜傷害性コレラ菌溶血毒(VCH)は、孔状の集合体を標的細胞膜上に形成するために膜コレステロールが必須成分であることが明らかにされた。さらに2005年にVCHはβトレホイルレクチン結合ドメインとβプリズムレクチン結合ドメインを持つことが明らかにされたが、これらと膜上に存在する糖との結合についてはほとんど解明が進んでいない。今回、VCHの2つのレクチン様ドメイン構造と膜糖脂質の結合を介してVCHがどのように膜に侵入していくか検討した。 方法:変異体を含む種々の組み換えVCHを用いてコレステロール結合性、糖結合性、膜結合性、集合体形成能について解析した。

結果
VCHは グルコセレブロシド>ガラクトセレブロシド>ラクトセレブロシシド>アシアロガングリオシドの順に結合性が高く、トリシアロガングリシドに対し結合性を示 さないことがわかった。次に単量体と集合体のグルコセレブロシドとガラクトセレブロシドに対する結合性を比較したところ、グルコセレブロシドに対する結合 性に違いはみられなかったが、ガラクトセレブロシドに対する結合性は集合体にほとんどないことがわかった。また、VCHはコレステロールに比べてグルコセレブロシドに対する結合性が約3倍高いことも明らかとなった。さらにセレブロシドとコレステロールを含むホスファチジルコリン(PC)リポソーム膜上でのVCHの集合体形成を調べると、コレステロールのみを含むPCリポソームより、コレステロールとセレブロシドを含むPCリポソームの方がその形成効率は高くなることがわかった。一方、コレステロールを含まないPC-セレブロシドリポソームにおいては集合体の形成が観察されなかった。

考察
集合体を形成することによってガラクトセレブロシドに対する結合性が消失したことから、ガラクトースに結合するドメインの構造変化が予想された。現在、これらのドメインのみの組み換え体を作製し、ガラクトースに結合するドメインの検討を行っている。また、VCHはPC-コレステロールリポソーム膜上で集合体を形成し膜傷害を引き起こすが、セレブロシドが膜上に存在することによってさらにVCHは膜に結合しやすくなり、膜傷害が高まる可能性が示唆された。

O-20 コレラ毒素によるマウス脾臓細胞のCREB活性化シグナル伝達経路の解析

○有満秀幸1、中嶋秀満2、越智定幸1、佐々木慶子1、塚本健太郎1、加藤道夫1、清水利康1、辻 孝雄1 (1藤田保健衛生大・医・微生物、2大阪府立大・生命環境・応用薬理)

コレラ毒素(CT)は1分子のAサブユニット(CTA)と5分子のBサブユニット(CTB)で構成される。本毒素はCTAによる3量体G蛋白Gs aに対するADPリボシル活性により、持続的にアデニル酸シクラーゼを活性化させ、cAMP産生を増強させる。CTは毒素原性大腸菌の易熱性毒素(LT)と同様、腸管内では宿主に下痢活性を示す一方、ワクチン抗原と経鼻投与することで、強いアジュバント効果を示すこともよく知られている。しかしながらそのメカニズムについてはCTAの酵素活性が重要であるとする報告や、レセプター結合に関与するCTBのみ、またCTAの弱毒ないし無毒変異毒素においてもアジュバント効果があるとする報告があるなど、コンセンサスが得られていない。我々は、cAMPが宿主にTh2反応を増強させるとともにTh1反応を抑制する因子として知られていることより、CTAの酵素活性が特にTh2反応への傾倒に重要であると考え、またcAMPシグナル下流に存在するcAMP response element binding protein(CREB)の関与に着目した。まず大腸菌で組み換え蛋白として発現・精製したCT、無毒変異CT(E112Q)及びCTBを、卵白アルブミン(OVA)を抗原としてマウスに同時経鼻免疫し、血中の抗OVA抗体価を測定したところ、CTとの投与群は他群と比較して有意に高い抗体価を示した。また同マウスより調製した脾臓細胞に各毒素を接種し、CREBのリン酸化をウェスタンブロット解析により解析したところ、CTはCREBを強くリン酸化したが、E112QやCTBではその作用は殆ど認められないことが明らかとなった。このCTによるCREBリン酸化は細胞をH-89またはSB203580で前処理することによって阻害されたため、PKA及びp38MAPキナーゼに依存した反応であることが明らかとなった。ここまでの結果より、CTによるアジュバント活性はCTAの酵素活性と相関しており、cAMPシグナルによるPKAまたはp38MAPキナーゼの経路を介したCREBのリン酸化が関与している可能性が考えられる。現在アジュバント活性との関連性を調べるため、さらに詳細な解析を進めている。