毒素シンポジウム
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第58回毒素シンポジウム指名講演

O-1 NC/ngaマウスのエンドトキシン低感受性について

○横地高志、小出直樹、内記良一、吉田友昭 (愛知医科大学医学部微生物・免疫学講座)

アトピー、喘息の疾患モデルであるNC/nga マウスは、エンドトキシン誘導致死的ショックに低感受性を示す。そのメカニズムを報告する。結論は、NC/nga マウスはVβ8+ NKT 細胞が欠損しており、γインターフェロンが産生されず、エンドトキシンに対する感受性が低いと思われる。
1. Koide N, Morikawa A, Naiki Y, Tumurkhuu G, Yoshida T, Ikeda H, Yokochi T. Low susceptibility of NC/Nga mice to tumor necrosis factor-alpha-mediated lethality and hepatocellular damage with D-galactosamine sensitization. Clin Immunol. 2009;130:225-32.
2. Koide N, Morikawa A, Odkhuu E. Haque A, Badamtseren B, Naiki Y, Komatsu T, Yoshida T, Yokochi T. Low susceptibility of NC/Nga mice to the lipopolysaccharide-mediated lethality with D-galactosamine sensitization and the involvement of fewer natural killer T cells. Innate Immun. In press.
の結果をまとめて話す予定。

O-2 コレステロール依存性細胞溶解毒素intermedilysin の発現調節因子がStreptococcus intermedius の病原性に果たす役割の解析

◯友安 俊文,今木 英統,増田 早智子,田端 厚之,長宗 秀明 (徳島大院・STS・ライフシステム)

【序 論】
Streptococcus intermedius(SI)は、ヒトの口腔内に常在し日和見的に口腔内や深部臓器において化膿性疾患を引き起こす。この菌は、ヒト特異的なコレステ ロール依存性の細胞溶解毒素intermedilysin(ILY)を分泌する。これまでの研究から、ILY がヒト細胞への感染性や細胞毒性に関わる主要な病原因子であることが明らかになっている。我々は、ILY 分泌がcatabolite control protein A(CcpA)とily プロモーターに存在するcatabolite repressive element(cre)によってカタボライト抑制されることを明らかにしている。そこで、これらの因子がSI の病原性をどのように制御しているかを明らかにする目的で、ccpA 破壊株とcre 変異株の表現型や病原性についての解析を行った。また、並行してily 発現が細胞外の糖やそれ以外の因子でどのように制御されているかを明らかにするため、SI ゲノム内のily 遺伝子の下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を挿入した株(SI ily-rluci)を作製し解析を進めた。

【結果と考察】
qRT-PCR の解析からグルコースが高濃度(1%)存在すると、ily の発現は強く抑制されるが、ccpA 破壊株においてはほとんど完全に、cre 変異株では部分的に、その抑制が解除されることを発見した。この結果から、CcpA によるカタボライト抑制にはcre 領域を介するものと介さないものが存在する可能性があることが分った。次に、細胞外のグルコース濃度によってSI の細胞毒性が変化するか否かについてヒト肝癌細胞のHepG2 細胞を用いた感染実験により検討した。その結果、野生株では予想どおり高グルコース条件下(0.45%)で細胞毒性が低下した。しかしながら、ccpA 破壊株やcre 変異株もこの条件下で細胞毒性を示さなかった。これは、ccpA 遺伝子を破壊すると細胞増殖性が低下すること、またcre 変異株はily のカタボライト抑制効果が部分的にしか回復しないことが理由であると考えられた。また、SI ily-rluci を用いた解析からily 発現が、血清に含まれる成分や特定の糖によって活性化されることが分かった。現在、その原因とそれら因子が病原性に果たす役割について解析を進めている。

O-3 黄色ブドウ球菌由来2成分性毒素の膜孔構造

○田中良和1,山下恵太郎1,河合優香1,平野なぎ沙1,金子淳2,神尾好是3,姚閔1,田中勲1 (1 北海道大学,2 東北大学,3 山形大学)

 黄色ブドウ球菌は,ホスト細胞の血球を崩壊させるための,様々な膜孔形成毒素蛋白質を分泌する.黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素は,単一の分子で構成されるα -ヘモリジンと,2つの成分から構成される2成分性毒素に分類される.いずれの分子も可溶性の単量体として発現され,ターゲット細胞の表面で会合した後, 多量体の膜孔を形成する.これまでに,α-ヘモリジンの7量体の膜孔構造と2成分性毒素の単量体構造の立体構造がX線結晶構造解析により明らかにされてきたが,2成分性毒素の膜孔構造は未知であっ た.本研究では,2成分性毒素の1つである,γ−ヘモリジン(Hlg2 とLukF から構成される)の膜孔構造を2.5Å の分解能で決定したので報告する.
 明らかになった構造は,8量体の膜孔構造で,LukF とHlg2が交互に配置していた.α-ヘモリジンと同様に,単量体中では折り畳まれていたステム領域が伸び,β−バレルを形成していた.膜孔の直径は 25.5Å で,α-ヘモリジンの26Å とほぼ同じであったのに対し,膜外領域の直径は114Å と,α-ヘモリジン(100Å)に比べてやや大きかった.分子の高さは93Å で,100Åのα-ヘモリジンよりも短かった.また,N 末端のアミノラッチはディスオーダしていたことから,膜孔形成には強くは貢献していないことが明らかになった.8量体中には,2種類の分子接触界面(すな わち,Hlg2-LukF の界面とLukF-Hlg2の界面)が存在していたが,それぞれの接触面積は1068Å2,831Å2と大きく異なることから,Hlg2-LukF の2量体が1つの構造単位になり,これが4分子会合することにより8量体が形成するとことがわかった.さらに,単量体構造との比較から単量体から8量体が 形成される際におこる動的な会合機構が提案された.これらの構造学的知見は,これまでに報告されてきた生化学的実験とよく一致するものである.

O-4 流早産起因微生物ウレアプラズマとその病原発揮機構

○柳原格、中平久美子、内田薫 (大阪府立母子保健総合医療センター研究所免疫部門)

 当センター新生児科では早産に合併した重 症新生児慢性肺疾患児の臍帯血で高IgM 血症を惹き起こすこと、気管吸引液中に好中球エラスターゼが増加することなどを報告してきた。我々は、この臍帯血中のIgM の標的分子の一つが羊膜等に豊富に存在する自己抗原であるannexin A2 であることを同定し、自己免疫的な機序の関与する初めての胎児炎症反応症候群(FIRS)の病態として報告した(Ped Res, 2006)。一方、FIRSの起因微生物については、病理的な絨毛膜羊膜炎(CAM)との関連において不明な点が多かった。そこで、マイコプラズマ科ウレ アプラズマ属細菌に着目し、培養方法、同定方法を確立し、前方視的に胎盤病理との関連を調査した。その結果、疫学的に低病原性細菌とされるウレアプラズマ がCAM の発生の独立したリスクファクターであること、及びウレアプラズマ特異的なCAM 病理像を見出し、ウレアプラズマ感染により母体、胎児の双方の免疫系が賦活化されていることを見出した(Ped Res,2010)。さらに、最近の研究でウレアプラズマに豊富に存在するジアシルリポ蛋白質であるMBA が、妊娠マウス子宮内投与により胎仔死亡や早産を起こすことを見出した。一方、培養細胞を用いた実験で、精製したMBA はTLR2 を介してNF-κB を活性化し、MBA はウレアプラズマの流早産における病原因子であることが示された。低病原性細菌であるウレアプラズマが、妊娠という免疫学的寛容が誘導された特殊な環境下 においてその病原性(流早産)を発揮することは、次世代に多大な負の影響を及ぼす日和見感染と言える。最小生物であるウレアプラズマに、人類の未来を託す 生殖環境が大きく乱されていることはなんとも皮肉なことである。次世代のための対策は逼迫した急務であることをお伝えしたい。

O-5 ハブ毒中のホスホリパーゼA2 アイソザイムが誘導する細胞死について

○上田直子1、村上達夫2、神門伸幸2、藤本 量2、濱口和廣2、中村仁美1、千々岩崇仁2、大野素徳2 (1崇城大・薬、2崇城大・生物生命)

 ハブ毒中の主要な毒成分であるホスホリパーゼA2(PLA2)はカルシウム依存的にリン脂質を加水分解する酵素であり、アイソザイムを形成していることが特 徴である。そのうちの酵素活性の強いPLA2 は、カルシウム結合部位49 位にAsp が配位しており [Asp49]PLA2 に分類され,強い筋壊死活性を示すBPII は、49位Lys位置し[Lys49]PLA2に分類される、酵素活性は低い。
そこで、これら BPII とPLA2 の細胞死誘導活性を、白血病由来のがん細胞Jurkat 及びHL-60 細胞を用いて調べた。BPIIは濃度依存的に、また時間依存的に細胞死誘導活性を示したが、興味深いことにPLA2 は全く影響を示さなかった。触媒活性残基His を化学修飾したpBP-BPII も天然型BPII と同等な細胞死誘導活性を示したため、 BPII の細胞死誘導に酵素活性は関与していない。ヘキスト染色とTUNEL アッセイの結果、クロマチンの凝縮とDNA の断片化が観察され、アポトーシス様の細胞死と考えられたが、各種のカスパーゼ阻害剤でも細胞死誘導の阻害や、内在性カスパーゼ 3 の活性化やカスパーゼ 3 の基質の切断も起こらなかったため、BPII の細胞死誘導にカスパーゼ経路は関与していないことが判明した。また、AnnexinV-FITC/PI を用いたフローサイトメトリーで、BPII 処理した細胞は、短時間で膜の崩壊が進んだ後期アポトーシス(ネクローシス)様の細胞死の様相を呈したこと、LDH による細胞障害性試験で、5 分以内に細胞傷害性が観察されたことから、BPII はすぐに細胞に影響を与えていると考えられた。ウサギ抗-BPII 抗体を用いた共焦点レーザー顕微鏡にてBPII の細胞死誘導時の細胞での局在を解析した結果、細胞膜上に点在し、時間の経過ともにBPII が細胞膜上に拡散していることが観察された。以上より、BPII は、細胞膜上で短時間に細胞膜に損傷を与え、カスパーゼ非依存的な細胞死を誘導するというユニークな特徴を有することが明らかとなった。

O-6 ADAM 型出血性ヘビ毒素の新しい機能

大島康徳、菊島英一、中村詩帆、澤田仁、林博司、○荒木聡彦 (名古屋大学大学院理学研究科)

 出血性ヘビ毒には、止血を阻害する毒素と、能動的に出血を引き起こす毒素の主に2種が存在する。前者の毒素は、現在まで複雑な止血機構解明に寄与し、また止 血に関する薬剤の開発や検査にも用いられる。一方後者の毒素は、ADAM 型メタロプロテアーゼであることが分かっている反面、出血を誘導する機構はよく分かっていない。またこれに関連してヒトが持つ24種のADAM の機能もよく分かっていない。これらヒトADAM遺伝子はがんや免疫疾患を初めとして多くの疾患との連関が見られるが、具体的な分子機構は不明である。そ のため、出血誘導という確実な生理活性を持つヘビ毒ADAM は、ADAM 研究一般においても有用な材料であると考えられる。
 我々は、ADAM 型出血ヘビ毒素が血管内皮細胞に特異的な作用をすることを見出し、ヘビ毒ADAM の細胞作用を研究してき た。ヘビ毒ADAM は、血管内皮細胞に作用し、高度のアポトーティックボディを形成してアポトーシスを引き起こす。血管内皮細胞は、増殖因子除去や接着阻害によるアポトーシ スではアポトーティックボディを殆ど形成しないため、ヘビ毒ADAM はなんらかの特別な標的を血管内皮細胞に持つと考えられた。出血性ADAM の中でも最も基質特異性の高い分子VAP1、VAP2 が精製され、これらがコラーゲン等を分解しないにも関わらず出血を誘導できることなどから、細胞作用を介しての出血機構が示唆された。ヘビ毒ADAM が細胞作用を介して出血を引き起こす可能性から、我々はヘビ毒出血の信号伝達を阻害することにより出血を阻害する化合物を想定し、スクリーニングを行っ た。その結果、一連の化合物が、ヘビ毒ADAMによる出血を抑止することが見出された。これらの化合物は、コラゲナーゼによる出血は阻害できず、またヘビ 毒ADAM のメタロプロテアーゼ活性を阻害できないことから、ヘビ毒ADAM 下流のなんらかの特異的信号伝達を阻害して出血を阻害したものと考えられた。出血ヘビ毒素とその新しい応用について議論する。

O-7 ウエルシュ菌エンテロトキシンの分子構造の β 型孔形成毒素の特徴

北所健吾1、西村昂亮1、神谷重樹3、福井 理3、戸嶋ひろ野3、安倍裕順3、鎌田洋一2、小西良子2、山本茂貴2、柄谷 肇1、○堀口安彦3 (1京都工芸繊維大学、生体分子工学部門;2国立医薬品食品衛生研究所;3 大阪大学微生物病研究所、分子細菌学分野)

ウエルシュ菌エンテロトキシン (C. perfringens enterotoxin, CPE)は古くから膜孔形成毒素と考えられているが、それを示す直接的な証拠はこれまで得られていない。今回、われわれは CPE の結晶構造解析の結果から、本毒素に β型孔形成毒素の特徴があることがわかったので報告する。種々の条件で作製した CPE の結晶から、最高 2.0Å の分解能の X 線回折データを得ることができた。その解析の結果、CPE は95 x 42 x 32Å の伸展した分子構造をとり、3 種のドメインから構成されていることがわかった。ドメイン I はこれまで C-CPE と呼ばれていた受容体結合ドメインで、ドメイン II および III は β ストランドが 密接してひとつのモジュール構造をとっていた。3 種のドメインの位置関係やドメイン II と III の構造はアエロリジンやウエルシュ菌ε 毒素などと類似した。先述のモジュール構造には長い2 本のアンチパラレル βストランドが存在し、これに垂下するように存在するα ヘリックスとそれに隣接する β ストランドは疎水性アミノ酸が1残基ごとに分布するアミノ酸配列様式を示した。以上の構造的特徴と、既報の孔形成毒素の解析結果とを併せて、CPE が β型孔形成毒素に分類されうることが考えられた。さらに CPE による膜貫通セグメントの形成メカニズムも推定することができたので報告したい。

O-8 Clostridium perfringens enterotoxin 変異体m19 のclaudin 結合性解析

○橋梓、松下恭平、斉藤郁美子、嵩原綱吉、各務洋平、渡利彰浩、近藤昌夫、八木清仁 (大阪大学大学院薬学研究科生体機能分子化学分野)

Tight junction 構成蛋白質であるclaudin-1(CL-1)は、皮膚および粘膜面のバリアとして機能するのみならず、C 型肝炎ウイルスの感染受容体の一つであること、多くのがん細胞で過剰発現が報告されていることから、創薬ターゲットとして注目されている。しかしながら、 CL-1 binder の創製は皆無に等しく、CL-1 を利用した創薬研究は立ち遅れているのが現状である。これまでに当研究グループでは、Clostridium perfringens enterotoxin(CPE)のC 末断片(C-CPE)を利用し、CL-4 を標的とした粘膜吸収促進法の可能性を提示してきた。さらに、C-CPEをプロトタイプとして用いてCL-1結合性を示すC-CPE変異体(m19)の創 製に成功した。興味深いことに、m19 はCL-4 への結合性も保持しており、C-CPE に比して優れた粘膜吸収促進活性を有していた。
そこ で本研究では、CL-1 binder を利用した創薬に向けて、m19とCL-1の相互作用解析を試みた。まず、m19 のCL-1 結合性に関与するアミノ酸の同定を試みた。CL-1 結合性変異体のシークエンス情報から、C-CPE のC 末側に存在する3 つのアミノ酸変異がCL-1 結合性に関与している可能性が示された。そこで、C-CPE の1, 2, 3 アミノ酸置換体を作成しCL-1 結合性を解析したところ、2 つのアミノ酸変異がCL-1 結合性に関与していた。さらに、これらの機能残基を解析したところ、m19 のCL-1結合性の獲得には表面電荷の変化が関与している可能性が示された。
次に、CL-1 上のm19 結合部位の同定を試みたところ、m19 がCL-1 の1st loop を認識していることを示唆するデータが得られた。さらにsite-directed mutagenesis により、m19 との結合に関わるCL-1 上のアミノ酸解析を行っている。以上、これまでにm19 とCL-1 の結合様式を解析してきた。今後は、m19 の立体構造解析を進め、得られた情報を基にdruggable CL-1 binder の創出および創薬への応用を試みる予定である

O-9 海綿 Axinyssa aculeata より得られた新規ペプチド毒の単離および構造解析

松永智子1 〇酒井隆一1 神保充1 Geoffrey T. Swanson2 (1 北海道大学・水産科学研究院、2 Northwestern University)

 生物毒は標的となる細胞やタンパク質、生体膜等に特異的に作用する事で極微量ながらも強い生理活性を示す。したがって、生物毒の高い特異性は生命の維持に 必須な何らかのメカニズムを指し示していると言い換えることができる。我々の研究室では新しい生命現象の解明につながる生物毒=生理活性物質を見出すため に、海綿を中心とした海洋生物を調べ、新規の興奮性アミノ酸であるダイシハーベイン(DH)等を見出してきた。今回、新たに沖縄県西表島産の海産底性生物 数十種のスクニリーニングを行ったところ、海綿 Axinyssa aculeata の水溶性抽出物にマウスに対して強い毒性を示す成分が含まれることを見出した。活性の強かったA. aculeata の水抽出物をSephadexLH20、逆相クロマトグラフィー等を組み合わせることで活性成分を分離し、3種の活性化合物Aculeine(Acu) A-C を得た。MALDI TOF-MS スペクトル測定では、Acu A-C の分子量はそれぞれ約6570、5700、2620 であることが示唆された。NMRスペクトル測定ではδ3.1 およびδ2.1 に2:1 の積分比でシグナルが観測され、またこれらの酸加水分解物をMS 分析したところ、816 mu を主とした57 mu 間隔の分子イオン群が認められた。以上のことは、本化合物群がプロパンアミンユニットの繰り返し構造(Long chain polyamine; LCPA)を有することを示唆する。気相アミノ酸配列分析およびcDNA クローニングよりAcu A の演繹アミノ酸配列を決定したところ、他のペプチドとの類似性は見られなかった。LCPA に修飾されたペプチドとしては、珪藻の外骨格より抽出されたsilaffin 類が報告されているのみであり、Acu A-C は新規の化合物群であると考えられる。
 本化合物群はマウス脳室内へ投与すると、痙攣症状を誘発した。電気生理実験においてAcu A により細胞膜が破壊され結果として細胞内へのイオン流入が観測された。これらの結果はAcu A は細胞膜に作用するペプチドであることが示唆された。

O-10 大腸菌LPS の荷電置換基の多型とφX174 ファージタンパク質との相互作用

○小島久毅1,2,内田智子1,冨田剛史1,渡邊照子1,○稲垣 穣1 (1 三重大学生物資源学研究科・生理活性化学研究室,2 株式会社日本点眼薬研究所・研究開発本部)

 腸内細菌のLPS には,リン酸,エタノールアミン,第3 のKDO 残基が複数で結合しているため,LPS は多型混合物である と理解されている。いっぽう,LPS は,ファージが宿主菌を認識するためのレセプター分子であり,LPS のコア糖鎖がファージタンパク質に認識されることで,宿主選択が行われると考えられている。これまで我々は,LPS をフッ化水素酸処理によって脱リン酸化したり,カルボジイミドとヒドリド試薬でKDOのカルボキシル基を還元して,負電荷置換基を部分切断したLPS とファージタンパク質の相互作用を評価することで,これらの非定量的置換基が認識に大きく影響することを明らかにした。従って,LPS に含まれる多型分子種を分離・分析して,いかなる分子種がレセプターとして機能するか調べる必要性が大きくなった。
 そこで,LPS を化学的に限定分解した脱アシル体[O-脱アシルLPS,O,N- 脱アシルLPS,および弱酸分解物(PS)]を調製して,1)電子スプレーイオン化/質量分析ESI-MS,2)キャピラリー電気泳動/質量分析 CZE/MS,3)逆相イオンペアHPLC/質量分析IP-HPLC/MS,などの手法を組み合わせることで,それぞれの多型分子種を分離し,それらの構造(糖鎖と置換基の組成)を同定した。
 開発した手法の中で,強塩基性陰イオン交換HPLC は,荷電置換基の数によってLPS 糖鎖を分離するのに優れていた。そこで,ファージφX174 の表面にあり,LPS と結合するスパイクタンパク質とLPS 糖鎖と相互作用を解析する方法を工夫した。多型分子種を含むLPS 誘導体とバクテリオファージのタンパク質を混合した後,遠心限外ろ過し,結合しなかった糖鎖を分離した。非結合糖鎖画分の個々のピークがタンパク質の濃度 依存的に減少するのをHPLC で分析・定量することで,個々の分子種とタンパク質の親和性を定量的(50%結合濃度)に決定した。

O-11 緑膿菌内毒素(リポ多糖)の構造解析と生態・病原性との関連について

○四宮博人1,蜂谷孝太2,川原一芳2,野中里佐3,鈴木 総3,浅野喜博1 (1 愛媛大院・医・免疫学感染病態学,2 関東学院大・工,3 愛媛大・沿岸環境科学研究センター)

【目 的】
Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)は自然環境中に広く生息する環境常在菌であるが,感染防御能の低下する宿主には脅威で,最も重要な日和見感染・院内感染原 因菌の1つである。今回,種々の環境および臨床患者から分離した菌株の遺伝子型,内毒素(リポ多糖,LPS)構造,病原性について解析し,緑膿菌の生態・ 病原性とLPS 構造との関連について考察した。

【方法】
環境株(河川域,沿岸海水域より分離)および臨床株を用いた。各株の遺伝子型をパルス フィールド電気泳動で決定した。緑膿菌の病原性と関連するQuorum Sensing(QS)遺伝子およびType III Secretion System(TTSS)遺伝子の保有を,各菌株のゲノムDNA を鋳型としてPCR 法で調べた。LPS は各菌株より熱フェノール法で分離し,脂肪酸,中性糖,アミノ糖含量を定量した。LPS の分子サイズはSDS-PAGE にて決定し,LPS の糖鎖の鎖長はゲル濾過により解析した。

【結果と考察】
1)緑膿菌株の遺伝子型:臨床株と河川株は多様な遺伝子型を示したが,河口株や沿岸株は限 定された遺伝子型を示した。2)緑膿菌株のLPS 構造および病原性との関連:臨床株のLPS 構造は多様であったが,特定のO 抗原血清型と病原遺伝子保有の間に相関が認められた。河川株にはO 抗原多糖を持つLPS が検出されたが,SDS-PAGE のパターンと糖組成から2 グループに分けることができた。一方,沿岸株のLPSは均一で,高分子量領域のラダー状バンドがみられず,O 抗原多糖が少ない事が示唆された。病原遺伝子に関しても,河川株と沿岸株とで保有が顕著に異なるものがあった。これらの結果は,緑膿菌の生態とLPS 構造との間に密接な関連があることを示している。また,病原遺伝子の保有とLPS 構造との間にも関連があることが示唆された。緑膿菌の自然環境での適応やヒトに対する病原性を考えるうえで,興味深い結果と思われる。

O-12 ゲノム解析からみたStreptococcus intermedius の病原因子

○菊池 賢、松田真理、馬場 理、崔 龍洙、平松啓一 (順天堂大学医学部感染制御科学・細菌学)

【はじめに】
Streptococcus intermediusS. anginosus, S. constellatus とともにStreptococcus anginosus group を構成する菌で、他の2 菌種に比べ比較的病原性が高いとされ、深部臓器膿瘍の起因菌としてよく知られている。その原因としてsiliadase, intermedilysin などのS. intermedius 特有病原因子の関与が指摘されているが、未だにこれらの3 菌種のゲノム解析は完了しておらず、他のレンサ球菌との病原性の比較も行なわれていない。また、S. intermedius が原発性胆汁性肝硬変のmolecular mimic の原因微生物であることを示唆する事実も明らかにしてきた。このため、我々はS. intermedius NCDO 2227の全ゲノム解析を行ない、このゲノム情報を元に病原因子について解析を行なった。

【方法】
S. intermedius NCDO 2227 の全ゲノム情報を元に8bpのプローブ間隔、32mer のプローブ長で設計したタイリングアレイ・ハイブリダイゼーションによって、S. anginosus ATCC33397, S. constellatus ATCC 27823 の両標準株、ならびにS. intermedius 脳膿瘍由来UNC46 株, 感染性心内膜炎由来950株とのゲノム比較を行なった。

【結論】
S. intermedius NCDO 2227 には3 種類のhemolysin,3 種類のsortase, 23 種のLPXTG motif を持ったタンパク、63個のABC transporter 遺伝子を保有していた。LPXTG motif遺伝子のうち、それぞれ9 個、10 個はS. anginosus, S. intermedius にもhomolog が認められたが、10 個はS.intermedius 固有の遺伝子と考えられた。この中には3 種類のcollagen-binding protein, siliadase, hyaluronidase,endo-β-N-acetylglucosaminidase, pullulanase などが含まれており、S. intermedius の病原性を反映している可能性があると考えられた。

O-13 ウエルシュ菌α毒素のガングリオシド認識ドメインの同定

○小田真隆、蕪 道子、櫻井 純、永浜政博 (徳島文理大学薬学部微生物学教室)

【目 的】
ウエルシュ菌α毒素は、TrkA 受容体を活性化することにより、様々な炎症反応を惹起していることを明らかにしてきた。また、TrkA の近傍に存在するガングリオシドGM1 は、種々の毒素の受容体として数多く報告されている。そこで、α毒素によるTrkA の活性化とGM1 の関係を解析した。

【結果と考察】
GM1 の蛍光ラベル体であるBODIPY-GM1 とCy3 ラベルα毒素の局在を観察したところ、GM1 と本毒素は、共局在していた。さらに、GM1、GM2、GM3、GM4 をコーティングしたウェルプレートに、Cy3 ラベルα毒素を添加し、蛍光強度を測定すると、GM1 への親和性が高いことが明らかとなった。現在、ボツリヌス神経毒素は、ガングリオシド結合領域(H…SXWY…G)を有することが報告されている。そこ で、ウエルシュ菌α 毒素と比較したところ、α毒素分子のN ドメインとC ドメインを結ぶループ領域に類似した領域が存在することが判明した。そこで、この領域のアミノ酸を置換した種々の変異毒素を作成し検討した結果、芳香環を 有する84 位のTrp と85 位のTyr がGM1への結合に重要であることが判明した。α 毒素によるA549 細胞におけるTrkA のリン酸化に対する本毒素の酵素活性の影響について、酵素活性欠損α 毒素変異体H148G を用い検討した。H148G は、IL-8 遊離、及び、DG 産生をほとんど示さないこと、H148G 処理により、TrkA のリン酸化は、有意に認められるが、Wild-type α 毒素 (WT) 処理の場合と比較して著しく低下することが判明した。本研究において、ウエルシュ菌α 毒素は、本毒素構造のループ領域に存在する84 位のTrp と85 位のTyr を介してGM1 に結合後、隣接するTrkA と三者の複合体を形成してTrkA を活性化し、次に、毒素のC ドメインが脂質膜に結合、そして、N ドメインの酵素活性によるDG産生と、内因性のPLC 活性によるDG 産生により、膜の動的変化がおこり、TrkA/GM1 のクラスター形成が誘発され、TrkA の下流へシグナルが強力に伝達されて、一連のMAPK カスケードを亢進することにより、IL-8 産生と遊離を引き起こすと考えられる。

O-14 腸管出血性大腸菌の産生する SubAB のマウスにおける病態発現解析

○八尋錦之助1、古川 健2、寺崎 泰弘3、辻 厚至4、盛永直子1、野田公俊1 (千葉大・院・医・病原分子1, 臓器制御外科学2, 日本医大・医・第一病理3, 放医研・分子イメージング研究センター1・臓器制御外科学4

[目 的]
SubAB は、腸管出血性大腸菌(EHEC)より分泌される新たな AB5型毒素として同定された(Paton et al., 2004)。SubAB は細胞内に取り込まれた後、ER に存在するシャペロン蛋白質 BiP を基質として分解し、その結果 unfolding protein の蓄積による ER ストレスにより細胞致死を誘導すると考えられている(Paton et al., 2006)。我々はこれまでに SubAB が 細胞に対して、 ミトコンドリアからのcytochrome c の遊離を介した Caspase family の活性化がアポトーシスに関与していること、更に、細胞上の SubAB の受容体がintegrin α2β1 の N-結合型糖鎖であること等を明らかにしている。本研究では、SubAB の個体レベルでの病態発現機序を解明するためにマウスを用いて、解析を行った。

[方 法]
メスの Balb/c マウス(4-5 週齢)に SubAB あるいは、毒素活性中心であるHis89 と、Ser272 を Ala に置換した変異体SubAB(S272A/H89A)を腹腔内へ注射した後、経時的に血液の採取を行い生化学的解析を行った。また、開腹後、各臓器の病理 検査を行った。更に、18F-fluoro-2-deoxy-D-glucose を用いたPET-CT を行い、炎症部位の解析を行なった。 [結 果と考察]SubAB は 48 時間から72 時間でマウスに致死を誘導した。開腹所見から、上部消化管内における激しい出血、更に、脾臓の萎縮、肝臓の色素変化も認められた。変異体毒素ではこれらの 変化は認められなかった。病理解析から上部消化管における出血を伴う、炎症が認められた。腎臓では、メサンギウム細胞の増加が顕著であった。生化学的解析 から SubAB 投与後 6 時間には、劇的な血小板の減少が引き起こされ、血液凝固能の減少が認められた。SubAB に依るマウスにおける致死活性は、上部消化管からの出血に依るものであると推察される。

O-15 腸管出血性大腸菌のNO reductase は志賀毒素2の産生を増加させる

○清水 健、津々木 博康 、野田 公俊 (千葉大学大学院医学研究院・病原分子制御学)

2006年にアメリカで起こった腸管出血性大腸菌(EHEC)O157 による感染症はこれまで報告されていたものよりも高頻度で溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した。その要因を明らかにするために、この起因菌であるEHEC O157 TW14359 株の全 ゲノム配列が決定され、今までのEHEC のゲノム構造との違いが詳細に検討された。その結果、いくつかの病原因子の違いが存在したが、そのうちの1 つとしてnitric oxide (NO)reductase gene, norV の存在が注目された。すでにゲノム構造が明らかになっているEHEC O157 のSakai 株やEDL933 株のnorV は遺伝子内に欠失があることが明らかになっているが、TW14359 のnorV は完全な遺伝子構造をとっていた。さらに、菌株ストックのスクリーニングからこの完全なnorV を保有しているEHEC は他の新規の病原因子を保有していることと非常に高い相関があることが明らかになった。このためにnorV遺伝子はEHEC の高病原性菌株マーカー遺伝子となる可能性が示唆されている。しかしながら、このNO reductase 自身がEHECの高病原性に直接関与しているのかどうかは明らかになっていない。そこでこのことを明らかにするためにnorV 遺伝子置換変異株を作製して解析を行った。EDL933 株を親株として作製したintact norV 置換変異株は嫌気条件においてNO donor 添加による増殖抑制は見られなかった。しかしながら、親株では増殖抑制が見られた。マクロファージ細胞は病原細菌を貪食すると、それらの菌を死滅させるためにNO を産生する。そこで、EHEC 感染時のマクロファージ細胞内のNO 濃度を測定したところ、intact norV 置換株では親株よりもマクロファージ細胞内のNO 濃度が低下していた。すでにNO が志賀毒素2(Stx2)の産生を抑制することが報告されている。そこで感染時のマクロファージ細胞内でのEHEC によるStx2 産生をモニターしたところ、intact norV 置換株の方が親株よりもStx2 の産生が上昇していた。以上のことより、EHEC のNO reductaseはマクロファージ細胞内でのStx2 の産生上昇に重要な役割を果たしていることが明らかになった。

O-16 抗菌ペプチドによる好中球アポトーシスの制御

長岡 功1、鈴木 香1、村上泰介1、細田浩司1、田村弘志2 (1 順天堂大学医学部生化学・生体防御学, 2 生化学バイオビジネス株式会社)

 抗菌ペプチ ド( α - デフェンシン、β - デフェンシン、cathelicidin)は病原微生物に対して強力な抗菌作用を有しており、自然免疫において重要な役割を果たしている。さらに、抗菌ペ プチドは抗菌作用の他に、サイトカイン生成や炎症細胞を活性化して免疫調節分子としても働く。好中球は微生物感染において重要な食細胞の一つであるが、そ の寿命は短く、種々の菌体分子、生体分子によって調節されている。我々は、以前、ヒトcathelicidin であるLL-37 とヒトβ-デフェンシンであるhBD-3 が、P2X7 受容体とCCR6 受容体を介して好中球の自発的アポトーシスを抑制することを見出した。そこで、今回は、α-デフェンシンの好中球アポトーシスに及ぼす影響について検討した。  その結果、α-デフェンシンの中でHNP-1 がもっとも強くヒト好中球の自発的アポトーシスを抑制することがわかった。そして、その抑制は、アポトーシス促進タンパク質であるtruncated Bid の減少と、アポトーシス抑制タンパク質であるBcl-xL の発現増加をともなっていた。また、アポトーシスにともなうミトコンドリアの膜電位変化とカスパーゼ3 の活性化が抑制されていた。さらに、興味深いことに、P2Y6 受容体の選択的アンタゴニストであるMRS2578 がUDP のみならずHNP-1による好中球アポトーシスの抑制をブロックした。これらの結果から、HNP-1 は恐らくP2Y6 受容体を介して好中球のアポトーシスを制御すると考えられる。
 以上の結果から、α-デフェンシン、β-デフェンシン、cathelicidin などの抗菌ペプチドは、それら自身で抗菌作用を示すだけでなく、微生物の排除に重要な役割を果たしている好中球の寿命を制御することで生体防御システムに働いていることが推測される。