毒素シンポジウム
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第58回毒素シンポジウムポスター演題

P-2 感染性心内膜炎由来Staphylococcus capitis の病原因子―健常由来株との比較

○菊池 賢、松田真理、松田直人、崔 龍洙、平松啓一 (順天堂大学医学部感染制御科学・細菌学)

【はじめに】
Staphylococcus capitis はヒト皮膚の常在菌の1つで、ヒトから分離されるcoagulase-negative staphylococci (CNS) の中ではS.epidermidis に次いで頻度が高く、カテーテル関連血流感染、感染性心内膜炎(infective endocarditis; IE)などの起因菌としても注目される。我々は、S. epidermidis と比べ、S. capitis によるIE は決して少なくなく、人工弁心内膜炎の頻度が高いこと、再発例が多く、より難治性であることを報告してきた。S. capitis のゲノム解析は未だ完了しておらず、その病原因子についての網羅的検討は全く行なわれていない。そこで我々は心臓ペースメーカー感染患者から分離されたS. capitis 2795-1 株の全ゲノム解析を行ない、このゲノム情報を元に感染性心内膜炎由来株、健常鼻腔由来株について各種病原因子の比較解析を行なった。

【方法】
S. capitis 2795-1 全ゲノム情報ならびにS. captis ATCC 27840T株の部分配列情報を元に病原因子遺伝子候補としてica operon (icaC, icaB,icaD, icaA, icaR), geh (collagen-binding lipase), cap operon (capB, capC,capD, capA), sdrX, sdrZ (serine-aspartate repeat protein), hdcA (histidine decarboxylase), hdcP (histamine transporter) の特異PCR 検出系を作成し、IE 由来20 株と鼻腔由来24 株について、各遺伝子の保有状況と配列を比較した。

【結論】
すべての株はcap operon, sdrX, sdrZ を保有していた。IE 由来株では同一のsdrX, sdrZ repeat 構造 (type B) を持っていたのに対し、鼻腔由来株では少なくとも7パターンの多様なrepeat構造の組み合わせがあり、type B 以外のものが多く認められた。驚いたことにヒスタミン生合成・分泌遺伝子であるhdcA-hdcP はIE 由来株には認められなかったのに対し、鼻腔由来株では高率に(17 株:71%)検出された。以上のことからIE を起こす株と常在菌株の間には明らかな病原因子保有の差があり、IE 発症に必要な病原因子構造の関与も示唆された。

P-3 大腸菌LPS の荷電置換基の多型に基づく複合的な分離・同定法の開発

○小島久毅1,2,冨田剛史1,内田智子1,○稲垣 穣1 (1 三重大学生物資源学研究科・生理活性化学研究室,2 株式会社日本点眼薬研究所・研究開発本部)

 グラム陰性菌の細胞壁構成成分であるリポ多糖(LPS)は、リピドA、R-コア糖鎖、およびO- 抗原多糖に大きく分けられる三つの部分構造から構成されおり、脂溶性と親水性部分からなる両親媒性化合物であるので水にも有機溶媒にも溶けにくい。特に、 R-コア糖鎖にはそこに含まれる荷電残基であるリン酸やエチルアミノリン酸(PEtN)の不特定数存在することが分析を難しくしている。
 本研究では、大腸菌C 株のLPS に着目し、それをアルカリおよび酸で限定加水分解をして、O-脱アシルLPS、O,N- 脱アシルLPS、PS を調製して、イオンスプレー質量分析計でLPS の基本骨格糖鎖ならびにリン酸やエチルアミノリン酸残基の数について検討し、迅速なLPS 誘導体の成分分析方法を確立した。リン酸残基はこれまで平均5 個,最大で7 個であると思われていたが,様々な多型が存在し,最大で9 個のリン酸を含む分子種の存在が判明した。また,KDO は2 個が主成分であるが、3 個目のKDO が存在することも本分析で確認できた。
つぎに、HPLC 分析の検討を行なった結果、イオン交換カラムがO,N-脱アシルLPS、PS の分析に対して良好な結果をもたらした。また、イオンペアー試薬を用いたC18 カラムではO- 脱アシルLPS も良好な結果を得た。なお、UV吸収を示さないLPS 関連化合物の検出にはポストカラム蛍光誘導体化法を用いて高感度に分析することに成功したが、移動相を揮発性の酢酸アンモニウムに変更したうえで、質量分 析計のSelected Ion Monitoring (SIM)を使用することにより、それらの質量選択的な検出にも成功した。加えて、キャピラリー電気泳動/質量分析での分析でも良好な結果を得た。分離に 関しては、イオンペアー逆相HPLC に比べて分離能が低下するものの、濃度感度の点では大変すぐれていることが分かった。
したがって、これら3つの分析方法を上手く組み合わせることにより、LPSに含まれる非定量的置換基に基づく多型分子種の分離・分析が総合的に行なえることが分かった。

P-4 Aeromonas sobria セリンプロテアーゼの腸管上皮への作用と分子機構の解析

◯小林秀丈、山中浩泰、岡本敬の介 (1広島国際大・薬・分子微生物、2岡山大院・医歯薬学総合・薬学系)

Aeromonas sobria はヒトに下痢症を誘発する原因菌としてしばしば分離されている。また、本菌は感染病巣である腸管上皮から組織へと浸潤し全身感染症を引き起こすことも知られている。我々はA. sobria の培養上清中に見出されるセリンプロテアーゼ (A. sobria serine protease : ASP)が本菌感染症に寄与していると考え性状解析を進めてきた。今回、ASP による腸管上皮バリア機能の破壊について解析した。
腸管上皮細胞は細胞間バリアを形成し菌などの侵入を防ぐ機構が存在する。ASP による上皮細胞バリア破壊への影響を観察する目的で、腸管上皮T84細胞をトランスウェルに培養して単層膜を形成後、ASP を作用させ電気抵抗値を測定した。その結果、100 nM ASP を処理した単層膜では非処理群と比較して電気抵抗値の低下が認められた。このことから、ASP は腸管上皮細胞に形成されるバリア機能を破壊することが示唆された。上皮細胞に形成される細胞間結合にはtight junction (TJ) などが関与している。そこで、ASPによる細胞間バリアの破壊について、TJ 関連蛋白質に着目してそれらの分解性を解析した。ASP 処理細胞よりcell lysate を調製しoccludin、ZO-1、β-catenin、E-cadherin に対する抗体によるウェスタンブロットを行った。その結果、ASP 処理細胞では非処理細胞と比較してそれぞれの蛋白質に対応するバンドが消失もしくは減少していることが観察された。以上の結果より、本菌の腸管上皮から組 織への浸潤にはASP による上皮細胞バリアの破壊が関与していると示唆され、特にASP のTJ 関連蛋白質の分解が主な要因の一つであると推察される。今後、ラット腸管へASP を処理しTJ 関連蛋白質の影響を観察するなど詳細な検討を行う予定である。

P-5 Rho ファミリーグアニンヌクレオチド交換因子FLJ00018 によるMyD88 依存的Toll 様受容体シグナル伝達の制御

○高橋圭太、杉山剛志、森 裕志 (岐阜薬科大学 微生物学研究室)

 Toll 様受容体(Toll-like receptors, TLRs)は、エンドトキシンを始めとする、種々の微生物に共通する構造を認識する自然免疫受容体である。TLR シグナルには、受容体の細胞内ドメインに結合する二種のアダプター分子によって媒介される二つの経路が知られており、それぞれMyD88 依存的経路、TRIF依存的経路と呼ばれている。TLR3以外の全てのTLRはMyD88依存的経路により、最終的に転写因子NF-κB の活性化を誘導する。また、TLR3 およびTLR4 はTRIF 依存的経路により、転写因子IRF-3 を活性化してI 型IFN の産生を引き起こす。さらに、別のアダプター分子TIRAP が、TLR2 およびTLR4 に会合し、MyD88 依存的経路の活性化を媒介することが知られている。
 低分子量Gタンパク質のうちRho ファミリーは細胞の伸展、移動などの様々な細胞プロセスを制御する。Rho ファミリーG タンパク質のGDP/GTP 交換反応を促進するグアニンヌクレオチド交換因子(Guanine nucleotide Exchange Factors, GEFs)はRhoGEF と呼ばれる。近年、TLR シグナル伝達に関与する低分子量G タンパク質が多数報告され、TLR シグナルとG タンパク質シグナルとの関連が注目されている。
 本研究では、HEK293 細胞でのシグナル分子大量発現系とレポーター遺伝子アッセイを用いて、いくつかのRhoGEF についてTLR シグナル伝達への影響を検討した。その中で、FLJ00018 というRhoGEF がMyD88 を介するNF-κB活性化を増強することを見出した。さらに、FLJ00018 はTIRAPまたはTRIF を介するNF-κB 活性化およびTRIF を介するIFN-β プロモーターの活性化には影響しなかった。以上の結果から、FLJ00018 がTLR シグナルのうちMyD88 依存的経路を特異的に制御する新たな分子である可能性が示唆された。
非会員共同研究者:上田浩、佐藤克哉(岐阜大学)、長瀬隆弘(かずさDNA研究所)

P-6 HPLCを用いる大腸菌LPSの多型成分に対するファージタンパク質の相互作用解析

内田智子1,冨田剛史1,小島久毅1,2,○稲垣 穣1 (1三重大学生物資源学研究科・生理活性化学研究室,2株式会社日本点眼薬研究所・研究開発本部)

ファー ジφX174 は,大腸菌C 株などの腸内細菌科のLPS を認識して感染する小型ファージである。LPS の糖鎖には,リン酸やエタノールアミンなどの荷電残基が結合しており,これらの数や位置には多様な組み合わせが存在するため,LPS は多型を示す。4 級アミンを有する強塩基性陰イオン交換カラムを用いることで,LPS を脱アシル化したO,N-脱アシルLPS(deON)や弱酸分解物(PS)中に含まれる多型成分を分離し,分離した糖鎖をタウリン・過ヨウ素酸ナトリウムと共に加熱する,ポストカラム蛍光発色法で感度良く検出するシステムを構築した。
大腸菌C 株のdeON体では,12 残基の糖鎖に4 つおよび5 つのリン酸が結合した分子種(deON 4P, 5P)が含まれ,deON 4P が主成分であることが判った。いっぽう,PS では,9 残基の糖鎖に1~3 つのリン酸と1 つのエタノールアミンが結合した5 種の成分が含まれ,主成分は,PS 2P であることが判った。
つぎに,分離された個々の成分がファージのスパイクタンパク質によって認識される 際の親和性を定量的に解析する方法を開発した。糖鎖とタンパク質を混合した後,遠心限外ろ過セルを使って,タンパク質およびタンパク質・糖鎖複合体を含む 高分子画分と結合に使われなかった遊離の糖鎖画分を分離して,HPLC で定量することによって,添加したタンパク質濃度依存的に,遊離の糖鎖が減少することを見いだした。そこで,タンパク質濃度と糖鎖の減少率を基に結合親和 性指標(50%結合濃度)を算出した。その結果,ファージのスパイクに含まれる,G タンパク質は,deON 4P と5P に対する親和性が,3.5±3.2 μMおよび3.3±2.0 μMで殆ど違わないが, Hタンパク質では,1.8±1.6 μMおよび0.82±1.8 μMと違いがあることが判った。また,PS では,リン酸残基の数が1~3 個に変わることでG タンパク質の親和性が約5 倍変化するのに対して,Hタンパク質では,2 倍程度しか変化しないことが判った。

P-7 変異志賀毒素を抗原としたコレラ毒素及びその変異体のアジュバント効果の比較

○有満秀幸1、越智定幸1、塚本健太郎1、佐々木慶子1、清水 健2、辻 孝雄1 (1 藤田保健衛生大・医・微生物, 2 千葉大・医・病原分子制御)

【目 的】
腸管出血性大腸菌(EHEC) は出血性大腸炎と溶血性尿毒症症候群の原因菌である。その主要な病原因子は2 種類の志賀毒素Stx1 とStx2 であるが、Stx2 の方がより重篤な病原性を示すことが知られている。この予防のために変異Stx を抗原としたワクチン実験の試みが既に報告されているが、実用化には高い抗原性を持つ弱毒化変異Stx(mStx)の大量発現系構築と、粘膜免疫が期待で きる非侵襲的投与が可能なアジュバントの選択が重要である。今回Stx の大量発現系を作製し、アジュバントとしてコレラ毒素(CT)とその変異CT を用いた検討を行った結果を報告したい。

【方法】
CT、変異CT(E112Q)及びCTBは既報に準じて作製・精製した。Stx1 及びStx2 発現プラスミドは、Aサブユニット遺伝子の上流にLTB のSD 配列、BサブユニットのC 末端にHis タグを付加するよう特異プライマーを設計し、Stx 遺伝子全長をPCRで増幅させた後、pBluescript II SK(+)に組み込んで作製した。各mStx 発現プラスミドはSite-directed mutagenesis により作製した。各プラスミドで形質転換した大腸菌MV1184 株を、リンコマイシンを含むCAYE 培地にて培養し、菌体抽出液からHis タグ融合蛋白として精製した。変異Stx は各CT と混合し、ICRマウスに2 週間隔で2 回経鼻接種した。その2 週間後に採血し、血中の抗Stx 抗体価をELISA にて測定し、各CT 混合免疫群間で比較を行った。

【結果及び考察】
今回作製した発現系により、1L 培養で数十mg レベルのStx1 及びStx2 が得られ、これらがHela 細胞に対する細胞傷害活性を示し、Stx2 はマウスに対しても致死活性を示したが、各変異Stx では著しく減弱することを確認した。マウスへのmStx2 単独またはCTB との混合免疫では抗Stx2 抗体は殆ど認めなかったが、CT と経鼻免疫した場合は最も高く上昇したことから、mStx2 は高い抗原性を持つこと、またCT はStx2 ワクチンのアジュバントとして有用であると考えられた。今後Stx1 における同様の検討、また各Stx とCT 免疫マウスにおける毒素チャレンジに対する防御効果や、他の投与方法も検討する予定である。