毒素シンポジウム
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第59回毒素シンポジウム指名講演

O-1 腸管出血性大腸菌の産生する SubAB のPERK を介したアポトーシス制御機構

○八尋 錦之助、津々木 博康、小倉 康平、野田 公俊 (千葉大学大学院医学研究院病原分子制御学)

 腸管出血性大腸菌(EHEC)が産生する毒素Subtilase cytotoxin (SubAB)は、小胞体中に存在するシャペロン蛋白質BiPを切断し、その活性を阻害することによってERにストレスを起こし、アポトーシス、一過性のタンパク合成阻害、細胞周期の停止等を誘導すると考えられている。
 本研究において、我々はHeLa 細胞を用いて、どのER ストレスセンサー蛋白質 (PERK, Ire1, ATF6)が、 SubAB の初期のアポトーシスシグナル伝達に寄与しているか明らかにするため、siRNA による発現抑制細胞を用い解析した。結果、SubAB のアポトーシスシグナルは PERK を介して行われていた。つまり、PERK の発現抑制は、SubAB によるBax/Bakの構造変化と会合体形成、ミトコンドリアからのチトクロームcの放出、カスパーゼの活性化を抑制した。同様の結果がマウスの MEF 細胞を用いた場合にも確認された。更に、PERK の下流のeIF2? のリン酸化によるタンパク合成阻害がアポトーシスに密接に関与していることが示唆された。
 また、SubAB によるアポトーシスシグナルは26S プロテアソーム特異的な阻害剤により抑制された。実際、SubAB 処理した細胞内のユビキチン化蛋白質は、毒素活性を無くした変異体で処理した細胞と比べ減少しており、PERK の発現抑制細胞では、この減少は認められなかった。
 以上の結果から、我々は、SubAB によるアポトーシス初期におけるシグナル伝達機構は、PERK- eIF2? を介した一過性の蛋白質合成阻害間における、Bax/Bak の構造変化に必須な因子のユビキチン・プロテアソーム系での分解に起因したアポトーシスシグナルの活性化であると考えている。

O-2 Porphyromonas gingivalis由来タンパク質HbRのIL-8産生誘導解析

○中山真彰、藤田佑貴、内藤真理子、中山浩次、大原直也 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科口腔微生物学分野)

 歯周病は、Porphyromonas gingivalis (以下、Pg)をはじめとする歯周病原細菌が長期的に持続感染することで引き起こされる慢性感染症である。本研究で着目したPgが 産生する低分子量タンパク質HbRは、本菌の主要な病原因子であるシステインプロテアーゼgingipainの遺伝子上にコードされているドメインタンパ ク質であり、gingipain自身により切断される約19 kDaのポリペプチドである。その機能は、ヘモグロビンと結合性を示し、本菌のヘムの獲得や蓄積のため働くこと以外に知られていない。本研究ではHbRが 歯周病に関わる新たな病原因子としての機能について宿主細胞を用いた解析を行なうことを目的とした。歯肉上皮細胞を用いてHbRを作用させ、抗体アレイを 用いたサイトカインの解析を行ない、HbRによって産生されるサイトカインを定性的に検出した。その結果、IL-8の産生が顕著に認められた。またHbR を上皮細胞に作用させ、細胞内シグナル伝達系の活性化について調べた。MAPKs (Erk1/2, p38, JNK)を調べたところ、Erk1/2とp38の活性化が認められた。これらMAPKsの活性化を中心に、HbRによるIL-8産生における分子伝達系の 解析を行なった。特異的阻害剤やsiRNAを作用させ、それらの効果をELISAによるIL-8測定や特異的抗体を用いたウェスタンブロット法、免疫染色 法により分子レベルで解析した。その結果、HbRによるIL-8発現誘導には、Erk1/2とp38の活性化を介して、転写因子ATF-2、CREB、 NF-kB p65が関与することが認められ、さらには「Erk1/2/ATF-2」「p38/CREB, NF-kB p65」の経路でIL-8を産生誘導することが考えられた。以上の研究から、HbRは宿主上皮細胞に直接作用し、IL-8を産生させる因子であることが明 らかになり、歯周病態に関与することが示唆された。

O-3 アンギノーサス群連鎖球菌が保有するβ溶血因子の探索とその特性

○田端厚之1,中野晃太1,大倉一人2,友安俊文1,菊池賢3,Robert A. Whiley 4,長宗秀明1 (1徳島大院・STS・ライフシステム、2鈴鹿医療科学大・薬・薬剤学、3順天堂大・医・感染制御科学、4Dept. Clin. Diagnos. Oral Sci., Inst. Dent., Bart’s & The London Sch. Med. & Dent., Queen Mary Univ. London)

【目的】
アンギノーサス群連鎖球菌(AGS)はヒト口腔内に常在し、S. anginosus(SA), S. constellatus subsp. constellatus(SCC), S. constellatus subsp. pharyngis(SCP), S. intermedius(SI) から成る。AGSは日和見病原菌で臨床的に問題視されることは少ないものの、明確なβ溶血性を示す株の存在が臨床現場で認識されている。しかし、SIのβ 溶血因子であり、ヒト細胞に特異的に作用して強い細胞障害性を示すコレステロール依存性細胞溶解毒素のintermedilysin以外には、AGSが持 つβ溶血因子の分子実態に関する報告は無い。そこで我々はSI以外のAGSを対象とし、β溶血因子の特定とその特性について検討を行った。

【方法】
AGS の中でSA基準株のNCTC 10713株を対象とし、ゲノムDNAへのランダムノックアウト変異の導入でβ溶血性が低下した株の検索を行った。β溶血性が低下したクローンについて、 ゲノムDNAの変異挿入部位を解析してβ溶血因子の遺伝子を特定し、遺伝子ノックアウト株及び相補株を作製してβ溶血性を評価した。さらに、そのβ溶血因 子の特徴についても検討を行った。

【結果と考察】
β溶血性が顕著に低下したランダム変異株の変異導入部位を解析した結果、SAのβ溶血性にはS. pyogenes(SPy)等の化膿性連鎖球菌が持つstreptolysin S(SLS)をコードするsagオペロンのホモログの関与が示唆された。興味深いことに、SAのsagオペロンホモログは典型的なsagオペロンと異なり、2つのsagAが連続して存在するという特徴的な構造であることが明らかとなった。これらのsagAホモログのノックアウト及び相補実験の結果から、SAでは2つのsagAホモログの各々がβ溶血性に寄与することが示された。さらに、SA由来のsagAホモログ翻訳産物とSPyのSLSを比較すると、そのアミノ酸配列に一部相違が確認され、典型的なSLSとは異なる特性を示す可能性も示唆された。現在、詳細について検討中である。

O-4 Toll様受容体シグナルにおけるMyD88依存的NF-κB活性化を特異的に増強するRhoファミリーグアニンヌクレオチド交換因子FLJ00018の活性発現メカニズム

○杉山剛志、高橋圭太、森 裕志 (岐阜薬科大学 微生物学研究室)

 Toll 様受容体(Toll-like receptors, TLRs)は、エンドトキシンを始めとする、種々の微生物に共通する構造を認識する自然免疫受容体である。TLRシグナルは、受容体の細胞内ドメインに結 合する二種のアダプター分子によって媒介される二つの経路が知られており、それぞれMyD88依存的経路、TRIF依存的経路と呼ばれている。MyD88 依存的経路は転写因子NF-κBを活性化して様々な炎症性サイトカインやケモカインを誘導する。一方、TRIF依存的経路は転写因子IRF-3を活性化し てI型IFNの産生を引き起こす。
 低分子量G タンパク質のうちRhoファミリーは細胞の伸展、遊走などの様々な細胞プロセスを制御する。Gタンパク質はGDP/GTP交換反応を促進するグアニンヌク レオチド交換因子(Guanine nucleotide Exchange Factors, GEFs)によりGDP結合型からGTP結合型へ変換されることにより活性化され、RhoファミリーGタンパク質を活性化するGEFはRhoGEFと呼ば れる。近年、低分子量Gタンパク質がTLRシグナル伝達に関与するという報告が多数なされており、TLRシグナルとGタンパク質シグナルとの関連が注目されている。
 昨年の本学会で、いくつかのRhoGEF についてTLRシグナル伝達への影響を検討した結果、FLJ00018というRhoGEFがMyD88を介するNF-κB活性化を特異的に増強することを 報告した。さらに解析を進めた結果、FLJ00018はTLR2リガンド刺激によるNF-κB活性化シグナルを増強すること、この増強活性には FLJ00018のDH-PHドメインが必須であること、FLJ00018を活性化する三量体Gタンパク質のβγサブユニットを共発現させると活性が増強 されることが明らかになった。これらの結果から三量体Gタンパク質により制御されるFLJ00018の活性がTLR2シグナルによる種々のサイトカインや ケモカインの産生に影響を及ぼす可能性が示唆された。

非会員共同研究者:上田浩、佐藤克哉(岐阜大学)、長瀬隆弘(かずさDNA研究所)

O-5 Vizantineによる自然免疫活性化メカニズム

○小田真隆、樽井敬史、亀山直哉、白川大起、屋比久賢太、小林敬子、櫻井純、永浜政博 (徳島文理大学薬学部微生物学教室)

 Corynebacuterium matruchotiiから単離されたTrehalose -dicorynomycolate(TDCM)は、マクロファージ活性化作用などの免疫賦活作用を有することが知られている。そこで、所属する研究グ ループでは、医薬品化を指向した100種類以上のTDCM類似体(TBUs)を独自に合成し、その中でTBU101(Vizantine)が最も強いマク ロファージ活性化能、抗腫瘍作用、そして、感染症抑制効果を有することを明らかにした。また、ヒト単球マクロファージ系細胞(THP-1細胞)を Vizantineで処理すると、マクロファージ活性化因子であるMIP-1β遊離が促進され、一方、炎症性サイトカインであるTNF-αやIL-1β遊 離は、ほとんど変化を示さないことを明らかにした。演者は、Vizantine処理THP-1細胞からのMIP-1β遊離メカニズムを明らかにするため、 菌構成分子や糖脂質を認識する受容体として重要なToll like receptor (TLR)とそれに関連するアダプタータンパク質に焦点を絞り解析を行った。
 TLR1、 TLR2、TLR4、TLR6、TLR10、CD14、MD2、MyD88のsiRNAでTHP-1細胞を処理し、Vizantineを作用させ、培養上 清中のMIP-1βをELISA法により測定すると、TLR4ノックダウン細胞においてのみ、コントロール細胞と比較して有意にMIP-1β遊離量が減少 した。さらに、TLR2、TLR4、TLR2/TLR4、そして、アダプタータンパク質であるMyD88ノックアウト(KO)マウスを用い、 Vizantineに対する影響を検討した。各KOマウスの腹腔マクロファージをVizantineで処理し、培養上清中のMIP-1β遊離量を測定する と、TLR4、MyD88、TLR2/TLR4ノックアウトマクロファージにおいて、有意な減少が認められた。さらに、各KOマウスにVizantine を静脈内投与し、血液中のMIP-1β量を測定した場合も同様の結果が得られた。Vizantineの受容体としてTLR4が主に関与していると推察され るので、Toll様受容体が発現していないヒト胎児腎細胞(HEK293細胞)にTLR4とMD2のプラスミドをトランスフェクトし、細胞表面に各々のタ ンパク質を発現させ、Vizantineの影響を検討した。その結果、インタクトなHEK293細胞にVizantineを作用させてもIL-8遊離は全 く認められなかったが、TLR4とMD2を共発現させた細胞にVizantineを添加するとIL-8遊離が著しく亢進した。  以上の結果より、Vizantineは、THP-1細胞表面に発現しているTLR4/MD2複合体へ結合することにより、MIP-1βの遊離に関与する一連のシグナル伝達系を活性化していることが判明した。

O-6 C型ボツリヌスHAによる細胞障害活性の解析

○菅原 庸、松村 拓大、藤永 由佳子 (大阪大学微生物病研究所 感染症国際研究センター 感染細胞生物学研究グループ)

 ボツリヌス毒素はグラム陽性偏性嫌気性細菌Clostridium botulinumなどが産生するタンパク質性の神経毒であり、ヒトや家畜・鳥などに、弛緩性の麻痺を特徴とするボツリヌス中毒を引き起こす。本毒素はA〜G型の7つの血清型に分類され、A,B,E,F型の毒素はヒトや家畜に中毒を引き起こす一方で、C,D型についてはウシなどの家畜に対して中毒を起こす。
 ボツリヌス神経毒素は常に、無毒成分と呼ばれるタンパク質との複合体として産生される。無毒成分にはNon-toxic non-hemagglutininとhemagglutinin (HA)の2種類が存在し、これらの分子は神経毒素を胃液・腸液内での低pHやプロテアーゼから保護することにより、毒素を安定化する役割を担っているこ とが知られている。また、HAはその糖結合活性により、腸管上皮細胞表面への毒素複合体の結合を促し、毒素の腸管吸収を促進するものと考えられている。こ のような役割に加えて、我々は最近になって、A型とB型のHA がE-cadherinに直接結合することで上皮細胞間バリアを破壊する活性を有することを新たに見出し、この活性により神経毒素の腸管吸収が促進されう るということを報告した。またHAを含むC型毒素複合体についても、イヌ腎上皮細胞MDCK細胞に対して細胞障害活性を有することを見出し、C型HAが A・B型HAとは全く異なる活性を有することを報告した。このように、これまで単に神経毒素を保護するための分子であると考えられていたHAが、ユニーク な生物活性を有することが明らかになりつつある。
 HAはHA1〜3の三種類のタンパク質の複合体である。本研究では、各々のC型HAを大腸菌で発現させ精製し、in vitroでの組換え体HA複合体の調製を行った。また得られた組換え体HAを用いて、細胞障害活性の分子機序について解析を行った。

O-7 単独性カリバチ・アナバチ類毒嚢より得られた新規神経ペプチドの構造と生物活性

○紺野勝弘1、安藤賢司1、数馬恒平1、二瓶賢一21富山大学和漢医薬学総合研究所, 2宇都宮大学農学部)

 単独性カリバチは、毒を利用して獲物を麻痺させるので、その毒嚢には神経活性成分が含まれると考えられ、基礎・応用の両面から注目されている。アナバチ類 は、単独性カリバチの大きな一群であるが、毒成分研究が報告されているのは、ヨーロッパ・アフリカに生息するハナツチスガリPhilanthus triangulumただ一種だけであり、その主成分がPhilanthotoxin-433 (PhTX-433)である。日本国内にも、多種のアナバチ類が生息するが、未だ毒成分に関する報告はない。そこで、大型で比較的よく見つかるクロアナバチSphex argentatus argentatusとアルマンアナバチIsodontia harmandiについて毒成分を分析し、神経ペプチドFMRFアミド関連ペプチドを見出した。
ハチ毒嚢から50%MeCN/H2O/0.1%TFAで抽出して得られた粗抽出物を逆相HPLCで分離・精製し、MALDI-TOF/TOFによるMS/MS解析によってアミノ酸配列を決定した。両種から同じ新規ペプチド(EDVDHVFLRF-NH2)が得られた。C末端配列が、神経ペプチドとして知られるFMRFアミド構造をしているので、このペプチド群に属すると考えられる。事実、バッタ消化管より見出されているleucomyosuppressin(PDVDHVFLRF-NH2)とは、N末端アミノ酸が異なるだけである。バッタ産卵管の神経筋を用いた生物活性試験においても、leucomyosuppressinと同程度の強い収縮阻害活性を示した。アルマンアナバチからは、N末端アミノ酸が欠けたペプチド(DVDHVFLRF-NH2)も得られ、同様の活性を示した。一方、クロアナバチからは、C末端がアミド化されていないペプチド(EDVDHVFLRF)も見出されたが、まったく活性を示さなかった。単独性カリバチ毒嚢から、FMRFアミド関連ペプチドが見出されたのは、これが初めての例である。

O-8 クマバチ毒嚢由来の生物活性ペプチド

○品田哲郎・河上紘子・大船泰史・志賀向子・後藤慎介 (大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻)

 ハチ毒は生物活性分子の宝庫であり、多くの毒成分研究がなされてきた。これまでの研究例は社会性のハチを中心に行われてきた。その理由は、数を集めやすい からである。今回、独居性のハナバチの一種であるクマバチに着目した。クマバチに刺されると局所的な炎症や痛みが生じることが報告されている。そのため、 毒成分には炎症などに関与する生物活性分子が含まれていると考えられる。しかし、独居性であるため毒成分研究はほとんど行われていない。毒嚢抽出物より分 離精製を経て単離した化合物を解析したところ、新規ペプチドならびにハナバチ由来のホスホリパーゼA2と高い相同性を有するタンパク質を見出した。ペプチ ド成分の作用をリポソーム膜破壊作用を指標として評価した。膜破壊ペプチドとして知られている、マルハナバチ由来のボンボリチンやスズメバチ由来のマスト パランを比較対象とした。その結果、クマバチ由来のペプチドは、マストパランやボンボリチンに匹敵する膜破壊活性があることが確認できた。新規タンパク質 のホスホリパーゼA2の活性は、FRETプローブを用いた解析で確認できた。遺伝子クローニングにより全アミノ酸 配列を決定したところ、マルハナバチやミツバチ由来のホスホリパーゼA2と高い相同性があり、酵素活性発現に必要なアミノ酸残基も保存されていた。アミノ 酸配列から見積もった分子量は、単離したホスホリパーゼA2より小さい値を示した。これにより、新規ホスホリパーゼA2は糖鎖修飾されていることが示唆さ れた。

O-9 横紋筋融解を起こす毒きのこニセクロハツの毒成分について

○橋本貴美子1、松浦正憲2、犀川陽子2、中田雅也21京都薬科大学、2慶應義塾大学理工学部応用化学科)

 ニセクロハツ(Russula subnigricans)は1950 年代に毒きのことして新種登録されたベニタケ属のきのこであり、アジア地域に分布することがわかっている。このきのこを食べると、消化器系の不良の後に、 肩凝りや背中の痛みを訴えるようになり、しばらくして血尿が出るようになる。最終的には言語障害や縮瞳といった中枢神経系不良の症状が出てきたり、心臓衰 弱を経て死に至る。このような致死的な中毒の主原因は、きのこを食べることにより横紋筋融解が起こり、それによって大量に生じたミオグロビンが腎臓を障害 するためであることがわかった。
 原因となる毒成分は、過去の研究ではルスフェリン類であ るとされていたが、この研究では材料となるきのこを取り違えていたことがわかった。ニセクロハツに類似しているきのことしては、クロハツやクロハツモドキ が図鑑に載っているが、これら以外にも似ているきのこがいくつかあるにもかかわらず、図鑑には記載されていないことが、取り違えの原因である。我々は、新 種記載された標本の採集地でニセクロハツを採集し、抽出物をマウスに対して投与した時の毒性を基に分離を行った。毒成分は濃縮乾固により分解する性質をも つことがわかったため、毒性試験は経口投与を行うこととし、分離画分の濃縮は途中で止めることにした。数段階の分離操作を経て、毒成分を薄い水溶液として 得た。スペクトル解析や化学変換などから、毒成分の構造は2-シクロプロペンカルボン酸であると決定した。濃縮操作により、この化合物が分解するのは、エ ン反応を経て重合してしまうためであることがわかった。重合した化合物は毒性を示さなかった。また、合成により、毒成分や誘導体(2-メチル体および 2,3-ジメチル体)を合成し、毒性を調べたが、誘導体では毒性はかなり弱くなることがわかった。

O-10 ホタテ貝中の下痢性貝毒変換酵素の探索

○此木敬一1、小野田竜也1、長由扶子1、加賀新之助2、渡邊龍一3、鈴木敏之3、山下まり11東北大学・大学院農学研究科、2岩手県水産技術センター、3水産総合研究センター・中央水産研究所)

【背景・目的】
日本沿岸域の養殖業を脅かす動物性食中毒の一種である下痢性貝毒は、渦鞭毛藻類Dinophysis spp.Prorocentrum spp.が生産するディノフィシストキシンやオカダ酸を主要原因毒とする。Dinophysis spp.が大量発生した海域では、二枚貝中に蓄積されたこれら化合物の大部分が脂肪酸の縮合した誘導体へ変換されるが、その機構は明らかにされていない。本研究ではオカダ酸(okadaic acid, OA)をホタテ貝抽出物と反応させることで生成すると予想される誘導体7-O-palmitoylOAをLC-MS/MSで検出し、下痢性貝毒変換酵素の単離・構造決定を行うことを目的とし、以下に述べる研究を行った。

【結 果・考察】
仙台朝市で購入した新鮮なホタテ貝を解剖し、中腸腺、外套膜、えら、生殖腺、閉殻筋を得た。各々を緩衝液中(10 mM Tris/HCl (pH 7.6), 150 mM KCl, 0.50 M sucrose)でホモジェナイズし、3回の遠心分離操作(800 g、11,000 g、20,500 g) の後、ミクロソーム画分、ミトコンドリア画分を得た。ミクロソーム画分およびミトコンドリア画分のそれぞれに対し、OAを加えて一定時間インキュベートし た。その後、酢酸エチルにより抽出し、プリカーサーイオンを803、プロダクトイオンを255に設定したLC-MS/MSにより両化合物を定量し、変換収 率を求めた。種々の条件を検討した結果、中腸腺のミクロソーム画分を用いた時に低収率ながら変換反応が進行することが確認され、この変換反応にpH依存性 や温度依存性があることもわかった。本変換反応はムール貝抽出物を用いた実験でも進行することがわかっており、二枚貝に共通して進行する変換反応であるこ とが示唆された。

O-11 海産ポリエーテル化合物イェッソトキシン結合タンパク質の探索

○松森信明、林香奈子、氏原 悟、土川博史、村田道雄、杉山直幸 (大阪大学大学院理学研究科、ERATO村田活性脂質プロジェクト、慶大先端生命科学研)

渦鞭毛藻が生産する梯子状ポリエーテル化合物は、多くが特異的で強力な生理活性を持つため注目を集めているが、その作用標的分子の詳細が解明された分子は少ない。梯子状ポリエーテル化合物の一つであるイェッソトキシン(YTX) は、当初毒化した帆立貝の中腸腺から単離され、その後渦鞭毛藻により生産されることが明らかになった。これまでに、神経毒性、マウス急性致死毒性、アポ トーシス誘導活性、カルシウム流入活性など多岐に渡る生理活性が報告されているが、その作用機構については未だ不明である。また、YTXは梯子状ポリエー テルとしては培養によって比較的容易に入手可能であることから、本研究では、YTXが結合するタンパク質の探索およびその分子認識機構の解明を目指した。
 まずYTXを誘導化し、樹脂に固定化した。続いてこのYTX固定化樹脂を用いてウシ脳膜画分から結合タンパク質をスクリーニングした。同時にYTXを固定 化していないコントロール樹脂を用いて同じ操作を行った。このようにして得られたタンパク質を網羅的に解析するために、ジメチルラベル化法を適用した。ま ずYTX固定化樹脂から得られたタンパク質混合物をトリプシン消化後、ペプチドのN末端とリジンのアミノ基を重水素で同位体標識したホルムアルデヒドを用 いてジメチル化した。同様にコントロール樹脂から得られたタンパク質混合物のトリプシン消化物に対し、今度は非標識のホルムアルデヒドを用いてジメチル化 した。ここで両方のサンプルを混合し、LC-MS/MS測定を行った。YTX固定化樹脂由来のペプチドとコントロール樹脂由来のものとでは同位体により質 量が異なるので、質量分析から両者を区別することができる。またピーク強度を比較することで樹脂から得られたタンパク質がYTXに対し特異的であるのか非 特異的であるのかを区別することも可能である。
 その結果、α-actin、V-ATPase subunit a isoform 1、Myelin basic proteinおよびHistone H1.1の4つのタンパク質がYTXと特異的に結合することが明らかとなった。

O-12 ある種のクラゲに刺されると痛いのはなぜか? クラゲ刺傷時の痛みのメカニズム解明にむけて

北谷龍樹, 山田真優, 神尾道也, ○永井宏史 (東京海洋大学大学院)

【目 的】
クラゲ類によるヒトへの刺傷被害は、刺胞から発射された刺糸が皮膚組織を貫通し毒液を注入することによって引き起こされる。クラゲ刺傷においてはまず 刺された瞬間に鋭い痛みが生じ、それに続き時間を置いて鈍い痛みを生じる。刺傷時の痛みが生じる詳細なメカニズムを明らかにするためには刺糸がどのくらい 深く皮膚組織を貫通するのかを明らかにする必要があるが、その貫通深度は明らかにされていない。そこで本研究では、日本近海に棲息する刺傷被害を起こすク ラゲ、被害が比較的軽微なクラゲ、被害を起こさないクラゲのそれぞれの刺胞において、刺糸の長さを計測・比較した。そして、皮膚組織に刺さった刺糸が、表 皮下神経叢やさらに深部にある真皮神経叢付近の痛みを受容する神経に対し、物理的な刺激および毒による刺激を与えるのに十分な長さをもつかどうか考察した。

【方法】
重度の刺傷被害を起こすハブクラゲ、カツオノエボシ、 アンドンクラゲ、比較的軽微な刺傷被害を起こすアカクラゲと、刺傷被害を起こさないミズクラゲの計5種から、刺胞を単離し、刺し糸をスライドグラス上で発 射させて顕微鏡下で撮影した。撮影された写真を、画像解析ソフト「image J」で解析することで刺糸長を測定し、種間で比較した。

【結 果】
測定結果について、それぞれのクラゲの刺胞について300 μm以上の刺糸の存在率を算出したところ、ミズクラゲ8%、アカクラゲ23%、ハブクラゲ53%、カツオノエボシ94%、アンドンクラゲ97%となった。 この結果より、刺傷被害を起こすクラゲは長い刺糸を多くもつことが明らかとなった。ヒトの痛みを受容する神経終末は、表皮下100μm以深の神経叢付近な いしはさらに深部にある真皮神経叢付近に密に存在するので、重度の刺傷被害を引き起こすクラゲほどこの深度に到達する刺糸を多く持つはずである。つまり、 本研究の結果はそれに合致したものとなった。神経叢に達した刺糸はAδ神経の自由終末を直接機械的に刺激し、瞬間的な痛みを発生させ、その後注入された毒 成分による周辺組織の破壊がおこり、C神経が刺激され鈍痛がひき起こされることが推測された。