毒素シンポジウム
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第62回トキシンシンポジウム指名講演

O-1 ヘリコバクター・ピロリVacA のConnexin 43 の蓄積亢進はオートファジー形成シグナルが関与する

◯八尋 錦之助1、中野 政之2、平山 壽哉2、野田 公俊1
1千葉大学大学院医学研究院病原細菌制御学2長崎大学熱帯医学研究所細菌学

 ヘリコバクター・ピロリの産生する空胞化毒素 VacA は細胞に空胞形成を誘導し、ミトコンドリア障害を介したアポトーシスを引き起こすだけでなく、オートファジーを誘導するなど多様な活性を有する毒素である。最近、VacA の致死活性に対する細胞死の感受性がConnexin 43 (Cx43)の量に依存することが報告された (Radin, J.N., et al. (2014))。本研究では、VacAによるCx43の細胞質内での異常な動向と細胞死の機序を解析した。
 ヒト十二指腸癌由来株化細胞AZ-521細胞を用い、 VacA 添加後、Cx43の発現、細胞内局在の変化を解析した。次に、この変化とオートファジーとの関わりを知る目的で、Cx43発現抑制細胞を用い、VacA によるオートファジーマーカーLC3-IIの生成、アポトーシスシグナルへの影響を調べた。また、各種阻害剤を用いてVacAが Cx43 の蓄積を誘導する経路を解析した。
 Cx43は生合成に影響を受けることなくVacAの処理時間及び濃度に依存して細胞質で増加し、集積したLC3-IIと共局在した。また、Cx43発現抑制はVacA のオートファジーの誘導には影響しなかった。一方、Atg16L1 の発現抑制によるオートファジー阻害は、 Cx43の発現を抑制した。更に、ERK の発現抑制は VacA によるLC3-IIの生成及びCx43の蓄積を阻害した。以上の結果から、VacAによるCx43の細胞内蓄積にERKの活性化とオートファジーの関与が示唆され、引き起こされた細胞死はアポトーシスであった。

O-2 A型ボツリヌス神経毒素複合体の体内侵入機構

○松村 拓大、菅原 庸、油谷 雅広、阿松 翔、藤永 由佳子
大阪大学微生物病研究所 感染症国際研究センター 感染細胞生物学研究グループ

 ボツリヌス菌(C. botulinum)等によって産生されるボツリヌス神経毒素(150 kDa)は、エンドペプチダーゼ活性を持つ蛋白質毒素である。本毒素は抗原性の違いからA型からG型に分類され、常に無毒成分との複合体として産生される。本毒素は神経細胞においてシナプス小胞のfusionに必要な分子群を切断し、神経伝達物質の放出を抑制することにより、弛緩性の麻痺を特徴とする中毒を引き起こす。本毒素を経口摂取して起こるボツリヌス食中毒の発症には、神経毒素が消化管上皮細胞バリアを通過し、血中に移行することが必須であるが、このような巨大分子である本毒素が細胞バリアを通過する部位および機構については不明な点が多く残っている。
 今回我々は、ヒトに中毒を引き起こすA型ボツリヌス神経毒素複合体の腸管からの吸収機構をin vivoの系を中心に解析した。ボツリヌス神経毒素複合体をマウス腸管結紮ループ内へ投与し、局在を解析した結果、無毒成分Hemagglutinin(HA)を持つボツリヌス神経毒素複合体がパイエル板ドーム領域に存在するmicrofold (M)細胞から取り込まれ、基底膜側へ移行している結果が得られた。また、この過程には毒素複合体中のHAとM細胞上に存在するglycoprotein 2(GP2)との相互作用が重要であった。さらにM細胞の発現を抑えたマウスおよびGP2ノックアウトマウスでは経口投与されたボツリヌス神経毒素複合体に対する感受性が著しく低下することが明らかとなった。
 以上の結果より、A型ボツリヌス神経毒素複合体がM細胞を利用することにより腸管上皮細胞バリアを通過し中毒を引き起こす、巧妙な体内侵入機構を持つことが明らかとなった。

O-3 Shiga toxin 2を中和するモノクローナル抗体の作製及びその結合領域に関する解析

○有満秀幸、佐々木慶子、辻孝雄
藤田保健衛生大学 医学部 微生物学講座

 志賀毒素産生大腸菌(STEC)の主要な病原因子は志賀毒素(Shiga toxin; Stx)であり、血清学的に交差しないStx1とStx2のどちらかまたは両方を産生する。このうちStx2は毒性が強く、疫学的にもStx2産生株は本菌による溶血性尿毒症症候群(HUS)の発症に密接に関わっていると考えられている。STEC感染症における抗菌剤の投与はStx産生を惹起し、HUSの発症リスクを増加させる懸念より推奨されていないことから、Stx2中和抗体の投与は、STEC感染症治療における補助的治療として有効なストラテジーと考えられる。既にマウスモノクローナル抗体 (mAb) をヒト型に改変したキメラ抗体も報告されているが、中和エピトープを認識する複数種の抗体、とりわけレセプター結合に関与するBサブユニットに特異的な抗体が、効果的な中和に有効であると思われる。しかしながらマウスにおいては通常の注射免疫において、Bサブユニット特異抗体の誘導が乏しいことが報告されている。我々は毒素原性大腸菌が産生する易熱性下痢毒素の変異体 (mLT) とともにBサブユニット抗原を経鼻免疫することにより、特異抗体を誘導することを既に報告している。今回、この方法に従ってStx2トキソイドをmLTと混合経鼻免疫したマウスから6種類のAサブユニット特異的、5種類のBサブユニット特異的mAb産生ハイブリドーマクローンを得ることができた。本発表では得られた各mAbの反応性と中和活性、さらに種々の変異Stx2に対するウェスタンブロット解析の結果から推定されるStx2上の結合領域との関連性について報告したい。

O-4 LPS誘導性炎症反応を阻害する微生物生産物質の探索

○梅澤一夫、小出直樹
愛知医大分子標的講座

 リポ多糖lipopolysaccharide(LPS、エンドトキシン)はグラム陰性菌外膜の構成成分である。エンドトキシン血症は生体内でしばしば高サイトカイン血症を誘導し、敗血症さらにはSIRS(全身性炎症反応症候群)、DIC(全身性血管内凝固)、やMOF(多臓器不全)を引き起こす。今回、微生物培養液からのスクリーニングおよび分子デザインによりLPS機能阻害物質を探索し、生物活性を調べた。
 LPSで活性化した HUVECへのHL-60白血病細胞の接着を阻害する物質を微生物から探索したところ、新規heptadepsipeptideが得られ、heptadepsinと命名した。この化合物はLPS構成成分lipid A部分に結合して活性を阻害することがわかった。一方、マウス細胞株RAW264.7をLPSで刺激し一酸化窒素(NO)を産生させ、その阻害物質を探索する方法で既知物質9-methylstreptimidoneが得られた。生産量が少ないため、より簡単な構造を分子デザインしたところ、DTCM-glutarimideが同等の活性を示した。この化合物はNF-kB活性を低下させ、LPSまたはRANKLによる破骨細胞の分化誘導を阻害した(Koide et al, International Immunopharmacology in press)。約15年前に分子デザインで見出したNF-kB阻害剤DHMEQはLPSに誘導される多くのサイトカイン産生を低下させた。DHMEQはエンドトキシンショック誘導マウスのTNF-alpha産生を低下させ、マウス生存率を向上させた(Shimo et al, Clinical and Experimental Pathology 166: 299-306, 2011)。
 このように培養細胞を用いた探索系でLPSによる炎症誘導を阻害する物質が多く見出され、これらは疾患の機構解析に使われるとともに、医薬に発展する可能性がある。

O-5 Fc結合ドメイン融合型組換え毒素蛋白質による機能性がん標的化抗体の探索

○福原武志、松浦優太、清水亜里紗、渡部徹郎
東京薬科大学 生命科学部 腫瘍医科学研究室

 1981年以降、がんは日本人の死亡原因第一位の疾患であり、罹患数は増加傾向にある。放射線療法、外科的療法、化学療法の三大療法によって治療が行われているが治療抵抗性や再発を起こす難治がんが数多く知られている。近年、抗がん剤開発は新たな展開を迎えており分子標的治療薬が活用され、その中で抗体医薬品の開発が盛んである。特に薬物架橋抗体と呼ばれる薬に求められる機能や特性は様々あるが、主にがん細胞への抗体特異性にもとづいた標的化能と細胞内への効果的な薬物送達能であり、減弱された薬量と副作用低減による高い治療効果が見出されている。これまで架橋薬物のリンカー開発が課題となっているが、一方で薬物送達機能を持つ抗体の系統的な探索については行われていない。
 そこで発表者らはこれまでに、薬物送達能を有する抗体を探索する目的で受容体結合ドメインを欠失したジフテリア毒素部分配列に連鎖球菌由来のFc 結合ドメインを融合した組換え蛋白質DT3C を活用している。作動原理としては、DT3Cが抗原抗体反応および抗原の内在化過程で細胞内へ移行すると、EF-2のADPリボシル化を経て細胞死が誘導される。
 がん細胞を標的化でき、なおかつ薬物送達能を有する抗体を探索する目的で、ハイブリドーマ作成技術とDT3Cを共役させたイムノトキシンによる選抜を行った。メラノーマ細胞を免疫されたマウスの脾臓細胞からハイブリドーマを作成しておきハイブリドーマ培養上清とDT3Cを混合して、アフィニティ形成された複合体からなるイムノトキシンライブラリーを構築し、これを標的メラノーマ細胞に投与して生死判別を持って有望抗体の選抜を行う。そしてモノクローナル抗体を調製し、免疫沈降と質量分析によって抗原を同定する。現在までに系統的に様々ながんを免疫して、約1200のハイブリドーマを樹立した。機能性標的化抗体の探索から単鎖抗体型イムノトキシンへの応用開発も進めており、作用機序の異なる毒素を用いるなど抗体探索技術のさらなる発展的開発を行う予定である。

O-6 ヤエヤマサソリ毒液から単離された殺虫性毒素LaIT2の化学合成による活性発現機構の解明

○宮下正弘、安藤亮、石堂嵩典、中川好秋、宮川恒
京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻

 サソリ毒液中には様々な生理活性成分が存在し、そのほとんどがペプチドである。我々は、日本に生息するヤエヤマサソリ (Liocheles australasiae) ならびにマダラサソリ (Isometrus maculatus) の毒液から、主に殺虫性を指標とした毒素の探索をおこなってきた。LaIT2はヤエヤマサソリ毒液から単離された毒素の一つであり、昆虫麻痺活性と抗菌活性を示す。LaIT2は59残基からなるペプチドで、他のサソリ毒素と同様にジスルフィド結合を複数含んでいるが、それらはすべてC末端側の半分の領域に存在し、N末端領域は直鎖状である。本研究では、LaIT2の活性発現機構の解明を目的として、LaIT2を化学合成によって調製するとともに、N末端領域のみ、あるいはC末端領域のみからなるペプチドをそれぞれ合成し、活性発現に寄与する構造要因について検証した。
 LaIT2の合成は、native chemical ligation法を用いて行った。この方法では2つのフラグメントを別々に合成した後、これらを縮合するため50残基を超えるペプチドも比較的容易に合成できる。また、N末端あるいはC末端領域のみからなるペプチドも同時に得ることができる利点もある。本手法により、LaIT2、N末端領域ペプチド LaIT2(1-30)、C末端領域ペプチド LaIT2(26-59) を得た。合成した各ペプチドのコオロギに対する麻痺活性を調べた結果、両末端領域ペプチドの比較において、LaIT2(1-30)だけが活性を示した。このことから麻痺活性にはN末端領域が重要であり、C末端領域は補助的な役割を果たしていることが示唆された。また、抗菌試験の結果、同様に LaIT2(1-30) のみ活性を示した。これらのことから、LaIT2の昆虫麻痺活性は、N末端領域のもつ両親媒性構造による細胞膜の破壊により引き起こされていることが示唆された。

O-7 毒腺で発現する転写因子ESE-3はハブ毒PLA2遺伝子のプロモーターを活性化する

○中村仁美1、村上達夫2、服部正策3、榊佳之4、大栗誉敏1、千々岩崇仁2、大野素徳2
上田直子1
1崇城大・薬、村上達夫、2崇城大・生物生命、3東大・医科研、4理研・GSC

 日本の南西諸島に棲息する毒蛇ハブ(Protobothrops flavoviridis)の主要な毒成分として、ホスホリパーゼA2 (PLA2)が知られている。PLA2はユビキタスに発現する酵素であるが、毒型PLA2は毒腺のみに発現することが特徴である。PLA2に代表されるハブ毒成分遺伝子が、いかなる分子メカニズムで毒腺組織特異的に発現するのかを明らかとするため、本研究では毒腺組織特異的な転写調節因子の同定を行った。これまで、毒腺組織特異的な転写調節因子に関する研究は皆無である。毒成分遺伝子の転写に関わる転写因子は採毒後に発現すると推測し、採毒後20時間の毒腺組織を摘出して完全長cDNAライブラリーを作製した。理研との共同研究で約14,000個のcDNAの網羅的配列解析を行い、哺乳類において腺組織特異的に発現することが報告されている転写因子ESE (epithelium-specific Ets)-3と相同性が高いクローンを見出した。RT-PCRによりESE-3はハブでは毒腺組織で高発現することを確認した。毒腺細胞の代替細胞としてCHO-K1細胞を用いたルシフェラーゼアッセイにより、ESE-3は代表的なハブ毒成分遺伝子であるPLA2アイソザイム遺伝子の近位プロモーターを有意に活性化することが示された。またゲルシフトアッセイにより、ESE-3がPLA2アイソザイム遺伝子のプロモーター上のTATA box近傍に位置するESE-3結合配列に特異的に結合する一方、これまで発現が確認されずに偽遺伝子とみなされているPLA2アイソザイム遺伝子(pgPLA1b)の結合配列には結合しないことも見出した。本研究は、毒成分遺伝子の転写因子についての初めての報告である。

O-8 ハブ毒金属プロテアーゼflavoraseに対するハブ血清タンパク質SSP-3の相互作用解析

○塩井(青木)成留実、半田祥哲、寺田成之
福岡大学・理学部

 ハブ(Protobothrops flavoviridis)血清には5種のsmall serum protein(SSP-1〜SSP-5)が存在し、それらはそれぞれ異なるハブ毒成分と相互作用する。本研究で着目するSSP-3は、当研究室で見出したハブ毒中の新規金属プロテアーゼflavoraseと結合し、そのペプチダーゼ活性を抑制する。本研究では、@SSP-3の発現系構築を行い、flavoraseに対する結合や阻害にどの領域が重要なのかを調査した。また、A新規金属プロテアーゼflavorase の性質および機能について、新しい知見が得られたので合わせて報告する。
@の結果と考察:大腸菌BL21株を用いた発現系ではSSP-3は封入体として発現した。得られた封入体を希釈法よりリフォールディングを行い、flavoraseに対して天然SSP-3と同等の結合および阻害活性を示す組換え体SSP-3(野生型)の調製に成功した。同じ調整方法でSSP-3のN末側、C末側の領域に分けた変異体を作成したところ、flavoraseの結合にはSSP-3のN末側の領域が重要であることがわかった。
Aの結果と考察:P-III型金属プロテアーゼであるflavoraseは、出血活性や細胞毒性を示さず、またIV型collagen やfibronectinなどの細胞外マトリックスに対しての分解活性は弱く、未だ本来の基質や生理機能は分かっていない。本研究では、flavoraseの血小板凝集阻害活性および、補体系に対する作用を調査した。その結果、flavoraseは低濃度では血小板凝集を促進し、高濃度ではその凝集を阻害することが分かった。
 また、ヒト補体成分C3を限定的に分解し、C3bと似た断片を与えたことから、flavoraseは補体副経路へ影響する可能性が示唆された。

O-9 毒器官の構造と進化:ハブ毒牙マトリックスタンパク質の解析から

関川あさ1,佐藤 甫1,村本光二1,服部正策2,○小川智久1
1東北大学大学院生命科学研究科,2東京大学医科学研究所奄美病害動物研究施設

 毒動物は、毒を生産する毒腺、毒嚢の他に毒を相手側に効率的に注入する毒牙や毒針、刺胞など毒器官が存在する。これらは、歯や産卵管、上皮細胞が機能的に進化してきたと考えられている。
 沖縄や鹿児島県南西諸島に生息するハブ(Protobothrops flavoviridis)は、毒を獲物に効果的に注入するために菅状の毒牙を持つ。この毒牙は捕食された動物と共に消化器官に取り込まれるが、マウスなど哺乳類の歯や骨は完全に消化されるのに対して、ハブ毒牙は消化されずに排出される。この現象は、毒牙と哺乳類の骨・歯との間に構造上に違いがあることを示し、毒牙が機械的強度のほかに、消化液に対する抵抗性をもつと考えられる。このように興味深い、ハブ毒牙のバイオミネラリゼーション機構を解明することは、生物毒器官の進化だけでなく、酵素に耐食性をもつ新規ナノ材料の開発にもつながる。また、再生能力があるハブ毒牙から組織再生に必要な因子・メカニズムを明らかできれば、歯の再生医療への応用も期待できる。
 そこでハブ毒牙形成に関わるバイオミネラリゼーション機能タンパク質の構造と機能を明らかにするため、毒牙マトリックスタンパク質を抽出し、プロテオーム解析を行った。ハブ毒牙マトリックスタンパク質の二次元電気泳動およびnano-LC MALDI-TOF MS/MSによる解析とハブ毒牙形成組織のトランスクリプトームデータによる解析から、ハブ毒牙マトリックスタンパク質を同定し、構造を明らかにした。Dentin sialophosphoproteinやTitin様タンパク質は、コラーゲンやオステオネクチンなどに比べてマウスとの配列相同性が低く、マウスの歯と毒牙との違いに関与していると考えられた。また、ヘビ毒酵素に対するインヒビタ-タンパク質が含まれ、これらが毒液(消化液)に対する毒牙の耐食性を付与していると考えられた。毒牙をはじめとする毒生物の毒器官について考察する。

O-10 パプアピグミーマルガスネークの生理活性ペプチドおよびタンパク質に関する研究

山内瑶子1、木本光1、鳥羽通久2、久保泰1、○稲垣英利1
1産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門、2日本蛇族学術研究所

【目的】
 ニューギニアの毒ヘビ、パプアピグミーマルガスネーク(Pseudechis rossignolii)は分類学的な位置づけが確定しておらず、毒液成分の分析も行われてこなかった。そこで本研究では、分子生物学的手法を用いて、このヘビが持つ毒のペプチドおよびタンパク質成分の同定と生理活性の解明を目指すとともに、姉妹種であるオーストラリアのマルガスネーク(Pseudechis australis)の毒成分の比較を行った。

【研究内容】
 パプアピグミーマルガスネークの毒腺よりRNAを抽出し、cDNAライブラリーを作製した。ここからランダムに148クローンを選択し塩基配列を決定したところ、51.6%のクローンが推定の毒性ペプチドまたはタンパク質をコードしていることが明らかとなった。この中には、Phospholipase (39.2%)、Three Finger Toxin (9.5%)、Metalloproteinase (1.4%)、Cysteine Rich Protein(0.7%)、L-amino acid Oxidase (0.7%) をコードするクローンがあり、これら毒性ペプチド及びタンパク質がパプアピグミーマルガスネークの主要な毒液成分であると考えられた。また、毒液の成分として一般的なKunitzタイプのプロテアーゼ・インヒビターは、ランダムに選択したクローンの中には見られず、パプアピグミーマルガスネーク毒液の微量成分であることが推定された。2種類のThree Finger Toxinと3種類のKunitzタイプのプロテアーゼ・インヒビターについては、組換え体の生理活性を調べたので合わせて報告する。

O-11 新しい海綿毒素Soitisidineの研究

○酒井隆一
北海道大学水産科学研究院 生物有機化学研究室

 本研究室では、海綿に含まれる生理活性物質を主にマウスに対する毒性を指標に探索し、グルタミン酸受容体アゴニストをはじめとした種々の生理活性物質を見出してきた。その一つに西表島産海綿Spongosorites sp.の水抽出画分含まれる120 kDaの新規細胞毒性タンパク質Soritesidine(SOR)がある。SORはマウスやブラインシュリンプに対して極めて低濃度で致死活性を示したほか、アメフラシ卵では極低濃度(1 ng/mL)で異常発生を誘発した。ブラインシュリンプに対する毒性は重量ベースでも抗がん剤パクリタキセル(LC50 = 1.4 mg/mL)よりも強力である。しかし、致死活性は遅発性であり、アッセイ開始後12時間が経過しても致死個体が見られず、その後徐々に活性が現れ、36時間後の観察において多くの固体が尾部付近から内容物を出して死亡した。海綿より抽出したmRNAを用いて各種PCR実験を行いSORの全947アミノ酸配列を推定した。その結果、全配列のうちN末端311残基までの配列が核酸分解酵素DNaseTと約20%の相同性が認められること、それ以降の配列ではあらゆる遺伝子との相同性が見られないことがわかった。今回特異な構造と生理活性を持つSORの化学・生物学的研究について紹介する。

O-12 海洋軟体動物アメフラシ由来の生物活性物質の化学生物学研究

○北将樹・河村篤・平山裕一郎・木越英夫
筑波大学・大学院数理物質科学研究科・化学専攻・生物有機化学研究室

 海洋生物アメフラシは貝殻を持たない軟体動物であり、防御物質として毒を持つとされている。これまでに、ポリケチド、マクロライド、ステロイドなど、構造的にも機能的にも大変興味深い、様々な低分子生物活性物質が単離、構造決定されている。またアメフラシは草食で、この動物が持つ活性物質の多くは、シアノバクテリアなど藻類が真の生産者であり、共生や食物連鎖の関係で蓄積されていると考えられ、化学生態学の観点からも興味深い。我々は、ユニークな海洋天然物の発見とその機能解明を目指して、三重県の志摩半島で採取したアメフラシに含まれる生物活性物質の研究を行ってきた。
 アプリロニンAは、がん細胞に対する強力な細胞増殖抑制活性、および細胞骨格アクチンを速やかに脱重合させる活性を示すマクロリドである。最近、その第2の標的分子がチューブリンであり、本化合物はアクチン・チューブリンの三元複合体を形成することで微小管の機能を阻害することを解明した。本講演では、さらなる作用機序の解明を目指して実施した分子間相互作用解析および光親和性プローブを用いた結合位置解析に
ついて発表する。
 また、マウスマクロファージ由来RAW264.7細胞に対する、LPSで刺激した際の一酸化窒素(NO)生産抑制効果を指標にして、アメフラシの脂溶性画分を分離した。その結果、新規の9,11-セコステロイド化合物であるアプリシアセコステロール類を発見し、構造を決定した。本講演では、構造解析と生物活性について発表する。

O-13 ミャンマー産単独性カリバチCyphononyx peregrinus毒成分の網羅的解析

○紺野勝弘、数馬恒平、二瓶賢一
富山大和漢研、宇都宮大農

【目的】
 単独性カリバチは、毒を利用して獲物を麻痺させるので、その毒成分中には神経活性物質が含まれると考えられ、基礎・応用の両面から注目されている。このような興味は、おそらくかなり古くからあったと思われるが、ごく最近まで、その毒成分研究はほとんど行われていなかった。それは、単独性という生活様式のため、化学分析に必要な多数の個体、多量の毒を集めることが非常に困難なことが大きな理由と思われる。しかし、近年の化学分析技術、特に質量分析のめざましい発達が、そのような微量成分の化学的研究を可能にし、少しずつ単独性カリバチ毒の本体がわかってきた。本研究では、ミャンマー産のベッコウバチの一種Cyphononyx peregrinusの毒嚢抽出物をLC-MSを用いて網羅的解析し、毒成分の詳細を明らかにする。

【方法】
 ミャンマー・カチン州にて採集したハチ毒嚢抽出物一匹分の1/10量をLC-MSに注入し、MSおよびMSMSスペクトルを得た。LC-MSとして、ESIプローブ付LTQ Orbitrap XL(Thermo Scientific)をタンデムにつないだシステムを用いて行った。主成分について、MALDI-TOF/TOFによるシーケンス解析を行った。

【結果】
LC-MSにより、129種の成分が確認できた。低分子成分としては、遊離アミノ酸5種の他に、ヌクレオシド・ヌクレオチド類4種を同定した。ペプチド成分は、MSMSを解析して79種の全アミノ配列を明らかにした。これらほとんどは新規ペプチドで、既存のペプチドとの相同性を示さない。

【考察】
LC-MSを用いることにより、ごく微量でカリバチ毒成分の網羅的解析ができることが確立できた。現在、得られた新規ペプチドの合成および生物活性を検討している。