毒素シンポジウム
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第65回トキシンシンポジウム指名講演

O-1  哺乳類由来の神経毒の化学生物学研究

◯北 将樹
名大院生命農・JSTさきがけ

 新規神経毒の化学的解明は,薬理学,神経科学,精神医学など,広範な生命科学の発展に寄与する。自然界からは様々な生物から有毒物質が見いだされているが,毒を持つ哺乳類は非常に稀であり,食虫目トガリネズミやソレノドン,単孔目カモノハシなどしか知られていない。またこれらの毒は稀少かつ不安定であり,活性物質は長らく未解明であった。トガリネズミは唾液に毒を持ち,ミミズなど獲物を麻痺させる小動物である。北米に棲息するブラリナトガリネズミは特に強い毒を持ち,カエルやネズミなど脊椎動物も餌としてしまう。これまでに,この種の顎下腺から致死性プロテアーゼ毒ブラリナトキシンを発見した。さらに最近,ミールワームに対する麻痺活性を指標に分子量約 5 kDa の神経毒ペプチド2種を単離し,そのアミノ酸配列を決定した。本講演ではこの新規神経毒の構造解析と電気生理学的解析について発表する。

O-2  海洋生物由来新規キヌレニン産生抑制物質の探索

○大野 修、佐々木 智未、浅井 章良、滝川 修、松野 研司
工学院大学先進工学部生命化学科

 がん細胞はindoleamine 2,3-dioxygenase(IDO)等によるtryptophan代謝によりkynurenine(Kyn)を産生し、免疫細胞を不活性化することで宿主の免疫反応を回避している(免疫寛容)。したがってKyn産生を阻害する化合物は、免疫寛容の解除に基づく新規がん免疫療法剤として期待される。そこで我々は、多彩な生物活性物質を包含する海洋生物のMeOH抽出物からKyn産生阻害物質を探索した。また、見出した活性化合物の化学構造および作用機序を解析した。
 IFN-γで刺激したA431細胞(ヒト扁平上皮がん細胞株)のKyn産生量および生細胞数(MTT assay)を評価し、215種類の海洋生物のMeOH抽出物から細胞毒性を伴わないKyn産生阻害物質を探索した。その結果、海洋シアノバクテリアOkeania sp.(沖縄県石垣島産)のMeOH抽出物にKyn産生阻害物質を見出した。同MeOH抽出物をODSカラムクロマトグラフィーおよびHPLCにより精製し、活性物質KNP-1を単離した(IC50 = 0.5 μg/mL)。各種NMRスペクトル(1H-NMR, 13C-NMR, DEPT, COSY, HMQC, HMBC)およびHRESI-MSスペクトルの解析より、KNP-1は新規環状ペプチド化合物であることが示唆された。またKNP-1の作用機序を解析した結果、IDO活性の阻害ではなく、その発現阻害によりKyn産生を阻害していることが示唆された(Western blotting)。本発表では、KNP-1の単離・構造決定に加え、IDO発現阻害に関する作用機序を報告する。

O-5  Subtilase cytotoxin(SubAB)による宿主の自然免疫抑制機構の解析

○津々木 博康1、張 田力1、八尋 錦之助2、小野 勝彦1、伊豫田 淳3、勢戸 和子4、大西 真3、赤池 孝章5、野田 公俊1、澤 智裕1
1熊本大院・医・生命科学・微生物、2千葉大院・医・病原細菌制御学、3国立感染研・細菌第一、4大阪府公衛研・細菌、5東北大・院医・環境保健医学

【目的】
 腸管出血性大腸菌(EHEC) O113から同定された毒素Subtilase cytotoxin(SubAB)は、小胞体シャペロン蛋白質BiPを切断することで宿主細胞に小胞体ストレス誘導性の細胞毒性を示すことが知られている。しかしながらEHEC感染病態におけるSubABの機能については未だ不明な点が多い。我々は、SubABの毒性発現機構を明らかにするなかで、毒素としての機能以外にSubABが宿主の自然免疫機構を抑制することを見出した。本研究では、サイトカインの一種であるIL-1βの産生に及ぼすSubABの影響を明らかにするとともに、マウス腸管病原性大腸菌感染モデルを用いたSubABの機能解明を目的とした。
【方法】
 マウスマクロファージ様細胞株J774.1細胞にO113またはSubAB欠損O113を感染させ、IL-1βの産生およびその成熟に必須であるインフラマソームの活性化経路を解析した。マウス病原性大腸菌モデルCitrobacter rodentiumにSubABあるいは不活性型変異体SubAB (mSubAB)発現ベクターを形質転換し、SubAB産生菌とmSubAB産生菌を作製した。これらの菌をマウスに経口投与し、マウスの体重変化、糞便中の生菌数(CFU)を解析した。
【結果と考察】
 SubABを産生するO113を感染させたJ774.1細胞ではSubAB欠損O113を感染させた細胞に比べて、IL-1βの放出が有意に抑制された。また、SubABによってインフラマソームの活性化が阻害された。マウス感染実験の結果、SubAB産生菌投与マウス群は感染15日目で体重が25%減少した。一方、非投与、mSubAB産生菌投与マウス群では体重の減少は見られなかった。SubAB産生菌投与群では他の群と比べ、糞便中のCFUが有意に高かった。本研究の結果、SubABがO113感染においてもIL-1?の産生、インフラマソームの活性化など宿主の自然免疫を抑制することで菌の定着を亢進し、感染病態を増悪化させることが示唆された。

O-6  Cholixによる細胞致死機構における新規結合タンパク質の同定と機能解析

〇八尋 錦之助、小倉 康平、寺ア 泰弘、佐藤 守、山崎 栄樹
千葉大学医学研究院病原細菌制御学

 コレラ菌由来Cholix toxin (Cholix)は、緑膿菌の exotoxin A (PEA)と高い相同性を示すADP-リボシル化毒素であり、宿主細胞のeEF2をADP リボシル化することでタンパク質合成を阻害する。Cholixのマウスへの腹腔内投与は、肝臓組織の広汎な出血を伴う致死性細胞障害を引き起こす。これまでに、この致死メカニズムの解析をヒト肝癌由来細胞株 (HepG2細胞) を用いて解析し、CholixとTNF-α(TNF-α/Cholix) の共添加は、致死活性ならびにアポトーシスシグナルを劇的に亢進することを報告している。
 Cholixの宿主受容体は、LDL受容体LRP1であることが、マウス由来の線維芽細胞を用いた研究から明らかにされている。そこで、本研究では、ヒト肝臓細胞における致死機構発現に関与する受容体(結合タンパク質)を明らかにし、その機能を解析することを目的とした。細胞表面をビオチン標識したHepG2細胞の可溶化溶液を用い Cholix,抗Cholix抗体 による免疫沈降を行った。この免疫複合体のプロテオミクス解析を行い、新たにCholix結合タンパク質(X,Y)を同定した。現在、この同定したタンパク質の致死機構における役割を解析している。

O-7  複合筋活動電位を用いたボツリヌス毒素の活性測定法

鳥居 恭司1、高橋 元秀2、小崎 俊司3、梶 龍兒4、銀永 明弘5
1東京農業大、2PMDA、3大阪府立大、4徳島大、5化血研

  ボツリヌス毒素は神経筋接合部に作用し、アセチルコリンの放出を抑制することで筋弛緩を引き起こす。この作用を利用して眼瞼痙攣、斜頸、ジストニアなどの治療に応用されている。ボツリヌス毒素の生物活性の定量にはマウス腹腔内投与LD50試験法が標準法として用いられている。この方法はマウスの致死が評価基準であることから、マウスの系統差、個体差など様々な影響を受けやすく、また非常に多くのマウスが必要になる。ボツリヌス毒素が治療薬として用いられるようになり、生物活性の定量法について高い感度および精度を求められるようになっている。このため、マウス腹腔内投与によるLD50測定法に変わる代替法として、様々な方法が提案されている。
 今回、毒素の持つ神経筋伝達抑制効果を直接測定できる試験系として、臨床現場で各種神経疾患の診断に使用されている複合筋活動電位(CMAP)に着目し、毒素の生物活性測定に応用出来るか検討した。その結果、CMAP法の検出限界はマウス腹腔内投与LD50試験法より10倍感度が高く、分析法として定められたパラメーターを全て満たした。この方法は、現在行われているマウス腹腔内投与LD50試験法の代替法として使用することができ、治療薬の定量法としての条件を満たすことが示された。

O-8  変異型A型ボツリヌス神経毒素重鎖の機能解析

○幸田 知子、小崎 俊司、向本 雅郁
大阪府立大学 生命環境科学研究科 獣医感染症学教室

 ボツリヌス神経毒素(BoNT)は、プロテアーゼ活性を持つ軽鎖と重鎖がジスルフィド結合し構成される。重鎖にはN末端側の細胞内移行ドメイン(HN)とC末端側の受容体結合ドメイン(HC)が含まれる。A型毒素は、BoNTのアミノ酸配列や抗原性の違いから食餌性ボツリヌス症由来毒素A1サブタイプ(BoNT/A1)と乳児ボツリヌス症由来変異型毒素A2サブタイプ (BoNT/A2)に分類される。BoNT/A2は、BoNT/A1と同等のマウス致死活性を示すが、神経細胞内への侵入性が高いことが報告されている。神経細胞に分化したマウス胚性腫瘍由来P19細胞にBoNT/A1およびBoNT/A2を作用させたところBoNT/A2はBoNT/A1よりも神経細胞内標的蛋白であるSANP-25の切断活性が高く、この差は、HNの機能が関与する結果を得た。本研究では、重鎖を構成するHNおよびHCの機能を詳細に解析し、BoNT/A2の特徴を明らかにすることを目的とした。リコンビナントHN(rHN)存在下で、蛍光色素を含むリポソームをpHが異なる緩衝液に反応させ、溶液の濁度とリポソームから放出された蛍光強度を測定した。rHN/A2はrHN/A1よりも酸性条件で高い吸光度と蛍光強度を示した。またガングリオシド欠損P19細胞に対し、高濃度のBoNT/A2のみでSNAP-25の切断が観察され、同細胞にガングリオシドGT1bを添加するとBoNT/A1、BoNT/A2ともにSNAP-25の切断が観察された。以上のことから、BoNT/A2は、BoNT/A1と比較して、酸性条件下でのHNチャネル形成能が高く、ガングリオシドとの結合様式が異なることが示唆された。

O-9 百日咳起因菌が産生する低分子量物質

○渡邉 峰雄
北里大学 北里生命科学研究所 医療微生物学研究室

 百日咳起因菌の病原因子として、タンパク毒素が古くから調べられている。しかし病原性に関与する低分子量物質の研究はほとんど行われていない。本演題では、弊室で分離同定した3種類の低分子量物質の生理的機能について報告する。

O-10  本邦最初のPaeniclostridium sordelliiによる毒素性ショック症例

○菊池 賢、水島 遼、鎌田 啓祐、板倉 泰朋、井口 成一、鵜澤 豊、吉田 敦
東京女子医科大学 感染症科

 Paeniclostridium sordellii は以前、Clostridium sordelliiと呼ばれていた芽胞形成性の偏性嫌気性グラム陽性桿菌である。動物の腸管に広く棲息しており、古くからヒツジ、ウシなどに壊死性腸炎を起こすことが知られている。ヒトでは腸管の0.5%に検出されるが、稀に死亡率が70%に達する毒素性ショックを引き起こす。症例は境界型糖尿病、高血圧で治療中の60歳男性。結腸過形成ポリープフォローのため、大腸内視鏡検査を受け、上行結腸の粘膜下腫瘍生検が行われた。2日後から、腹部膨満、右下腹部痛、3日後より38.8℃の発熱、下痢が出現、強い炎症所見と腹部超音波で腹水貯留と上行結腸壁の肥厚を認め、当院へ救急搬送された。CTにて上行結腸肥厚、周囲腸間膜脂肪織混濁、腹水を認め、フロモキセフ投与され経過をみていたが、呼吸不全、ショック、腎不全となり、緊急手術となった。手術では大腸生検部位を中心に上行結腸の強い浮腫性変化、多量の腹水を認め、抗菌薬をピペラシリン・タゾバクタムに変更され、人工呼吸器、血漿交換、PCPSを行うも改善なく死亡された。血液や腹水、便から有意の菌は検出されなかった。死亡後に当科に原因究明のコンサルトがあった。生検組織、手術検体FFPE DNAで16S rDNA PCRを行ったところ、得られた334 bpの配列はP. sordellii JCM 3814Tと一致していた。このため、P. sordellii特異primerによるPCRにより、得られた16S rDNA全長から同定が確定し、更にP. sordellii toxic shock syndromeの毒素遺伝子tcsLの特異PCRも陽性となった。FFPEをP. sordellii特異抗体で免疫染色すると、炎症部位に多数のP. sordellii菌体が描出された。TcsLはClostridium difficle toxin B (TcdB) とアミノ酸配列で76%の相同性を示し、 組織に強い浮腫を引き起こす。TcsLは本菌による毒素性ショックの主病原因子と考えられており、その毒性はTcdBの10倍以上とされる。本症例は日本初の本菌による毒素性ショック例で、原因不明の腸炎に伴う多臓器不全、ショックでは本菌の感染症を考慮する必要がある。
(非会員共同研究者:東京女子医科大学成人医学センター 三坂亮一、宇治原典子、土谷まり子、東京女子医科大学消化器外科 瀬下明良、山本雅一、病理診断科 山本智子、長嶋洋治)