毒素シンポジウム
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第65回トキシンシンポジウム若手奨励演題

Y-1  記憶喪失性貝毒ドウモイ酸の新規生合成中間体の同定と生合成経路の解明

○前野 優香理1、小瀧 裕一2、寺田 竜太3、長 由扶子1、此木 敬一1、山下 まり1
1東北大院農、2福島学院大学、3鹿児島大院連合農

【背景・目的】
 記憶喪失性貝毒ドウモイ酸 (Domoic acid, DA) は、神経細胞のイオンチャネル型グルタミン酸受容体に結合し、受容体を過度に活性化することで、ヒトに記憶喪失の症状を引き起こす。DAやその類縁体イソドウモイ酸A、Bの生産生物としては数種の珪藻が報告されており、1)その生合成はゲラニル二リン酸とL-グルタミン酸の二成分が起源であることが提唱されてきた。2)しかし、これまでDA生合成中間体は見つかっておらず、詳細な経路は未解明であった。そこで我々は、DAを高濃度に含有する紅藻Chondria armataから6種の新規DA関連化合物を単離、構造解析し、これらがDA生合成中間体であると推定した。3)さらに推定再合成経路を確かめるべくDA生産珪藻への取り込み実験を行った。3)
【方法】
 C. armataの抽出物をLC-MS/MSにより精査し、DA関連化合物を探索した。関連物と思われる6種の化合物は各種カラムクロマトグラフィーで単離し、HR-ESI-MS、各種NMR、化学合成により構造解析した。取り込み実験では、推定生合成中間体のうち1種を安定同位体標識して化学合成し、DA生産珪藻Pseudonitzschia multiseriesの培地に添加後、DAの生産時期に培養液をLC-MS分析した
【結果】
 6種の微量の新規DA関連化合物を単離し、各種NMRと化学合成により構造を決定した。これらは新規のDA生合成中間体と考えられ、新たな生合成経路が推定された。また、取り込み実験においては添加した生合成中間体が変換されたことを示す、標識化されたDAが検出された。これらの結果は推定したDA生合成経路を支持するものであった。
1) Kotaki, Y. et al., Toxicon 2005, 46, 946?953.
2) Douglas, D. J. et al., J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1992, 9, 714?716.
3) Maeno, Y. and Yotsu-Yamashita, M. et al., Sci. Rep. 2018, 8, 356.

Y-2  アイゴ類とカサゴ類のもつ魚類刺毒の共通点と類似点

○桐明 絢、石崎 松一郎、長島 裕二、塩見 一雄
東京海洋大学

 魚類の中でも、エイ類、ナマズ類、カサゴ類、アイゴ類は背びれに刺毒をもつことが知られている。日本沿岸で刺毒をもつ魚類による刺傷事故は頻発しているが効果的な治療法はなく、刺毒の性状や構造などの治療法開発に資する基礎的データの蓄積は急務である。これまでに、演者らの研究によりカサゴ類の刺毒は、カサゴ類の一種であるオニダルマオコゼの毒成分 neoverrucotoxin(neoVTX)に類似したタンパク毒(neoVTX様毒)であることが明らかとなっている。しかしながら、カサゴ類以外の刺毒に関する情報は乏しく、性状および構造に関する報告はほとんどない。そこで演者らは、アイゴ類に刺された際の症状がカサゴ類と類似していることに着目し、アイゴ類の刺毒もneoVTX様毒であるという仮説を立てた。これを証明するため、カサゴ類刺毒の一次構造で類似した領域からプライマーを作製し、アイゴ類4種の刺毒の一次構造をcDNAクローニングによって明らかにし、アイゴ類の刺毒にもneoVTX様毒が存在することを突き止めた。また、高次構造予測によって、カサゴ類とアイゴ類の刺毒は共通してMembrane Attack Complex-Perforin/Cholesterol-Dependent Cytolysin (MACPF/CDC) pore-forming domainをもつことが明らかとなり、どちらの刺毒も赤血球膜上にporeを形成し、溶血を起こしていることが示唆された。しかし、毒活性部位と予測されているアミノ酸が、カサゴ類とアイゴ類で変化している箇所も見受けられ、これが活性に影響を及ぼしていることも推測された。本研究により、初めてアイゴ類の刺毒の性状および構造を解明し、neoVTX様毒がカサゴ類だけでなく、アイゴ類にも分布していることを明らかにした。また、neoVTX様毒が魚類の持つ刺毒の中で一つのファミリーを形成していることが示唆された。。

Y-3  ヘビ毒ADAMであるVAP1の新たな標的の探索

○新井 悠太1、塩井 成留美2、瀬尾 忠彦1、澤田 均1、荒木 聡彦1
名古屋大学大学院理学研究科生命科学専攻1、福岡大学理学部化学科2

 ニシダイヤガラガラヘビ(Crotalus atrox)が持つ出血毒成分の一つであり、ADAMファミリーの一員であるVAP1を細胞に作用させると、仮足形成、細胞断片化、細胞間接着の解離などの現象が見られ、また、VAP1を表面にコーティングした大ビーズに対して細胞は食作用を示す。これらの細胞作用の中で、細胞間接着の解離現象を引き起こす切断標的候補タンパク質としてLRP5、LRP6があがっている。しかし、LRP6切断阻害抗体は、細胞間接着の解離を有意に阻害したが、他の細胞作用への関与は報告されていない。従って、VAP1の標的はLRP5、LRP6だけでは十分ではない可能性がある。また、VAP1の研究により他の内因性ADAMの作用機構の理解を深められる可能性がある。そのため、VAP1が他にも標的タンパク質を持つかどうかを調べることを目的として研究を行った。 本研究では、LRP5、LRP6と同じくLRPファミリーに属しているLRP10、LRP12とVAP1の相互作用を解析した。
 表面プラズモン共鳴を用いた結合解析実験では、LRP10、LRP12とVAP1との結合が示唆された。一方で、LRP10、LRP12と類似するドメインを持つ他のタンパク質とVAP1間では結合が観察されなかったことから、LRP10、LRP12とVAP1は特異的に結合することが示唆された。また、LRP10、LRP12とVAP1の結合の解離定数は、多くの既知のリガンド-受容体間の結合の解離定数と同程度であり、比較的強く結合することが示唆された。 LRP10、LRP12のVAP1による切断実験では、VAP1が細胞作用を引き起こす100倍の濃度である100 μg/mlまで、LRP10、LRP12の切断は観察されなかった。このため、LRP10、LRP12はVAP1の切断標的ではなく、結合標的であることが示唆された。 VAP1細胞作用に抗LRP10抗体が及ぼす影響を観察する実験では、VAP1によるActin-rich仮足の形成、細胞死の誘導を抗LRP10抗体が抑制する傾向が観察された。
 これらの結果から、VAP1に切断されずに結合する初めての標的としてLRP10、LRP12が候補に挙がり、また、LRP10はVAP1の細胞作用に関わっている可能性が示唆された。

Y-4  北アフリカ棲息種サソリButhacus leptochelysの毒液に含まれる新規殺虫性ペプチドの構造決定

○義本 裕介1、Mohammed Abdel-Wahab2、Moustafa Sarhan2、宮下 正弘1、中川 好秋1、宮川 恒1
1京都大学大学院 農学研究科、2Az-Azhar大学

【目的】
 サソリは獲物の捕食や天敵からの防衛のために毒を用いる。そのためサソリ毒液には殺虫、溶血、抗菌など様々な生理活性を示す成分が含まれており、そのほとんどがペプチドである。また、これらのペプチドの中には標的分子に対する高い特異性を持つものがあることから、医薬・農薬への応用が期待されている。しかし、2000 種を超えるサソリの毒液に含まれる成分は全種合わせると20万種以上にも及ぶと推定されているものの、現在までに同定されたサソリ毒由来の生理活性ペプチドは全体の1 %にも満たない。本研究では新規生理活性ペプチドの探索を目的として、これまでに研究例のない北アフリカ棲息種サソリButhacus leptochelysの毒液に含まれる殺虫性ペプチドの単離・構造決定を行った。
【方法】
 エジプト西部にて採集したB. leptochelysから毒液を採取し、実験に用いた。毒液成分の精製は逆相HPLC(C4およびC18カラム)を用いて精製した。また、殺虫活性の評価はヨーロッパイエコオロギ(Acheta domestica)に対する致死活性を指標とし、50 ± 5 mgの個体の腹部へ注射してから2日後に活性を判定した。精製した殺虫性ペプチドの一次構造は、エドマン分解法ならびに質量分析計を用いたde novo sequencing法により決定した
【結果および考察】
 B. leptochelysの粗毒液を水に溶解して殺虫試験に供したところ、LD50=30 μg/g体重の活性を示した。このことから毒液中に殺虫成分が含まれていることが確認できた。殺虫成分を特定するためC4カラムを用いて主要成分ごとに分画し、それぞれ殺虫試験に供したところ、3つの画分に顕著な活性が観察された。最も顕著な活性を示した画分について、C18カラムによる精製と殺虫活性評価を繰り返し行うことにより、殺虫性ペプチドBl-1を単離することができた。続いてBl-1の構造決定を行った。まず、Bl-1をエドマン分解法に供しN末端20残基の配列を決定した。さらに酵素消化して得られたペプチド断片を、エドマン分解法およびde novo sequencing法に供し、その他の部分配列を決定した。これらの結果を総合することで、Bl-1は67 残基のアミノ酸よりなるペプチドであると結論付けた。最後にBl-1の配列をデータベース検索したところ、Bl-1は既知のサソリ毒由来殺虫性ペプチドと高い類似性を示した。

Y-5  ホンハブの新規SSP:SSP-6をコードする遺伝子の発見

◯稲丸 賢人1、千々岩 崇仁1、竹内 亜美1、前田 真理恵1、柴田 弘紀2、服部 正策3、大野 素徳1
崇城大・院・工学研究科・応用生命科学専攻・生命環境科学講座、2九大・生体防御医学研究所、3東大・医科研

 日本南西諸島にはクサリヘビ科マムシ亜科に属する毒蛇であるホンハブ(Protobothrops flavoviridis, Pf)が棲息している。ハブ咬傷の際に見られる臨床的な知見は様々であり、生理活性を担う毒タンパク質としてPhospholipase A2(PLA2)などが挙げられる。一方、ハブ同士は互いを咬んでも重篤な症状を引き起こさないことから、その血液中に毒活性を中和する因子が含まれていることがわかっている。代表的な中和因子として、毒PLA2の阻害タンパク質PLA2 inhibitor(PLI)やSSP(Small serum protein)などが挙げられる。近年、当研究室の宗等によって、ハブ血清SSPが筋毒性PLA2の一つであるBPIIに特異的に結合することが見出された。SSPは、これまでに5種類のPfSSP:PfSSP-1〜5をコードする転写産物が肝臓から見出されている。さらに、PfSSP-1、PfSSP-2をコードする遺伝子(PfSSP-1, PfSSP-2)が並んで1つのゲノム断片として単離され、この2つのSSP遺伝子がタンデムに並んでいることが明らかにされていた。近年、当研究室の竹内・前田等によってi)PfSSP-3、PfSSP-4、PfSSP-5をコードする遺伝子(PfSSP-3、PfSSP-4、PfSSP-5)、ii)PfSSP-4とPfSSP-5の遺伝子間領域、PfSSP-5とPfSSP-1の遺伝子間領域、PfSSP-3とPfSSP-2の遺伝子間領域、の完全塩基配列が解読されPfSSPsをコードする遺伝子がハブゲノム上でPfSSP-4、PfSSP-5、PfSSP-1、PfSSP-2、PfSSP-3の順で並んで遺伝子アレイを形成していることが明らかにされた。今回、共同研究を行っている九州大学のハブドラフトゲノムデータを解析して、SSP遺伝子アレイのPfSSP-4のさらに外縁領域にガーターヘビのSSPの転写産物と相同性を示す塩基配列があることを見出した。詳細な解析を行い、この塩基配列はエクソン1~4の適切な構造を備え、19残基のシグナルペプチドと続く92残基の成熟タンパク質をコードしていること、そのアミノ酸配列は既知の5つのホンハブのSSPのアミノ酸配列と41〜61%の相同性を示すことを見出し、これがホンハブの新規SSP:PfSSP-6をコードする遺伝子:PfSSP-6であることを明らかにしたので報告したい。

Y-6  ボルデテラ壊死毒(DNT)の細胞受容体同定

○照屋 志帆乃、中村 佳司、石垣 佳祐、新澤 直明、堀口 安彦
大阪大学 微生物病研究所 分子細菌学分野

 百日咳菌をはじめとするボルデテラ属細菌は壊死毒素(dermonecrotic toxin: DNT)を産生する。DNTは1464アミノ酸からなる一本鎖タンパク質で、N末側領域で標的細胞に結合し、C末側領域でRhoを脱アミド化もしくはポリアミン化することで活性化する作用を示す。DNTに感受性を持つ細胞種はごく一部に限られているが、その組織特異性の根拠となる標的細胞の受容体は未だ同定されていない。しかし、DNTと受容体の結合親和性が低いことや、Rhoの活性化を指標に感受性の細胞を効率よく検出する手段がないことがDNT受容体の探索を困難にしている。
 本研究では、DNT受容体の同定を目指し、DNT感受性の細胞を高効率に検出する系を確立して受容体遺伝子のスクリーニングを行った。この目的のために、DNTの受容体結合領域とジフテリア毒素の活性領域(diphtheria toxin fragment A: DTA)を融合させ、DNT受容体を発現する細胞を選択的に死滅させるタンパク質(DNT-DTA)を作製した。DNT-DTAはDNTに感受性を持つ細胞に対して濃度依存的な細胞死を引き起こし、非感受性細胞には作用しなかった。次に、CRISPR-Cas9システムを用いてDNT感受性のMC3T3-E1細胞へ網羅的に変異を導入したライブラリーを作製した。作製したライブラリーにDNT-DTAを作用させたところ、非感受性となる細胞が得られたため、次世代シークエンサーを利用して変異が導入されていた遺伝子を同定した。これら遺伝子のうち、膜タンパク質をコードする遺伝子xを欠損したMC3T3-E1細胞ではDNTに対する感受性が失われることが明らかになった。遺伝子x欠損MC3T3-E1細胞もしくはDNT非感受性細胞に遺伝子xを強制発現させるとDNT感受性を獲得することから、遺伝子xはDNTの毒素作用に必須の遺伝子であることが示唆された。

Y-8  Piperine drastically suppress cholera toxin production and virulence expression in Vibrio cholerae O1 El Tor variant strain

○Goutham Belagula Manjunath1、Sharda Prasad Awasthi1、M. Shamim Hasan Zahid1、Hoang Hoai Phuong1、Masahiro Asakura1、Noritoshi Hatanaka1、Emiko Iwaoka2、Shunji Aoki2、Atsushi Hinenoya1、Shinji Yamasaki1
1Graduate School of Life and Environmental Sciences, Osaka Prefecture University, Osaka Japan. 1Faculty of Pharmacy, Hyogo University of Health Sciences

 Cholera toxin (CT) encoded by ctxA and ctxB genes is the major virulence factor in Vibrio cholerae O1 (El Tor and classical biotypes) and O139 causing cholera. Recently emerged multi-drug resistant O1 El Tor variant strains caused devastating cholera outbreak by causing severe diarrhea in the world. Use of natural compounds as anti-virulence drugs could be an alternative therapeutic approach to treat V. cholerae infections, particularly in view of growing resistance to antimicrobials. In this study we examined the effect of piperine (major component of white pepper) on CT production and its regulated genes expression in V. cholerae O1 El tor variant strain. Piperine drastically suppresses in vitro expression of CT and toxin coregulated pilus (TCP) in a toxT-dependent but toxR/toxS-independent manner and through repression of tcpP/tcpH. This is the first report on the role of piperine in suppression of CT production and could be a potential anti-virulence drug candidate against V. cholerae, a causative agent of cholera.