毒素シンポジウム
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第66回トキシンシンポジウム若手奨励演題

Y-1  新規Small Serum Protein(SSP)をコードする遺伝子の同定と
    SSP遺伝子アレイの形成過程の考察

○稲丸 賢人1、千々岩 崇仁1、竹内 亜美1、前田 真理恵1、柴田 弘紀2、服部 正策3、大野 素徳1
1崇城大学大学院 工学研究科 応用生命科学専攻、2九大 生医研、3東大 医科研

 日本南西諸島には、猛毒を有するクサリヘビ科マムシ亜科ハブ属のホンハブ(Protobothrops flavoviridis, Pf)が棲息している。ハブ血清中には毒活性中因子が含まれており、誤って互いを咬んでしまっても重症化しない。近年、ハブ血清中から低分子(〜10 kDa)の毒活性中和因子であるSmall Serum Protein(SSP)が5つ(PfSSP-1〜PfSSP-5)単離され、これら5つのPfSSPsは異なる親和性でハブ毒タンパク質と結合することが明らかになっている。また、これら5つのPfSSPsをコードする遺伝子(PfSSPs)も単離・解読されており、1)同じ染色体上にPfSSP-4PfSSP-4PfSSP-1PfSSP-2PfSSP-3、の順に並んで遺伝子アレイを形成すること、2)数理解析の結果からPfSSP-1PfSSP-2PfSSP-3PfSSP-4の間は加速進化でその多様性を獲得してきたこと、が明らかになっている。さらに、2018年には新規のSSP:PfSSP-6をコードするcDNA及び遺伝子が同定され、PfSSP-6がSSP遺伝子アレイの5’上流約13.4 kbp上流に存在することも見出されている。本発表では、1)PfSSP-6PfSSP-4の遺伝子間領域の完全塩基配列解読及び解析から抽出された新規SSP:SSP-7及びSSP-8をコードしていたと考えられる偽遺伝子:PfSSP-7(ψ)PfSSP-8(ψ)、2)PfSSP-6PfSSP-3が形成する遺伝子アレイの形成過程の考察、について報告したい。

Y-3  ヤエヤマサソリ毒液に存在する毒素由来部分ペプチドの活性評価

○堺 祥一、岡部 諒太、宮下 正弘、中川 好秋、宮川 恒
京都大学大学院 農学研究科

 サソリ毒液には多くの生理活性ペプチドが含まれている。毒液中には、これらが酵素消化されて生成したと考えられる部分ペプチドも多数存在することが報告されているが、その生理的意義については不明である。ヤエヤマサソリ(Liocheles australasiae)毒液中においてもこのような部分ペプチドが確認されている。例えば、殺虫性ペプチドであるLaIT3は、αヘリックスを形成するN末端領域とジスルフィド結合で架橋されたC末端領域をもつが、毒液中にはそれぞれの領域だけからなる部分ペプチドが含まれている。また、抗菌性ペプチドであるLaCT1についても、全長ペプチドだけでなくN末端およびC末端配列を欠損した部分ペプチドが毒液中に複数含まれていることが分かっている。本研究ではサソリ毒液中でのペプチドの断片化の生理的意義についての知見を得ることを目的として、これらの部分ペプチドを合成し、その生理活性を評価した。その結果、断片化によって毒素の生理活性を多様化させていることが示唆された。

Y-4  黄色ブドウ球菌2成分性βバレル膜孔形成毒素におけるβバレル構築に関わる
    分子スイッチの探索

○武田 慶胤1、田中 良和2、阿部 直樹1、金子 淳1
1東北大学大学院 農学研究科、2東北大学大学院 生命科学研究科

 黄色ブドウ球菌が産生する2成分性βバレル膜孔形成毒素(β-PFT)のうち、赤血球崩壊活性を持つγ-hemolysin (γ-HL)は、S成分のHlg2とF成分のLukFが交互に配置して8量体βバレル膜孔を形成する。βバレルを構築するstem domainは、1成分性α-hemolysinの可溶性モノマー内においては、cap domainのD44とstem上のY118間の水素結合(D-Y)によりprestemとしてコンパクトに折り畳まれ、膜孔形成時にはN末端部位のAmino-latchがprestem伸長のスイッチとなることが結晶構造と生化学的解析から見出されている。一方γ-HLにおいては当該D-Y各残基は各成分で保存されているものの、Amino-latchによらない異なるprestem伸長機構が予測された。そこで本研究では、γ-HLにおけるprestem伸長の分子スイッチを担う残基を立体構造情報から推定し、それらの変異体を構築して溶血活性・膜結合性を評価した。その結果、オリゴマー形成時にHlg2のcapとLukFのprestem間で起こる静電的相互作用がF成分のprestem伸長に関与することが示唆された。また、膜孔形成に寄与するS成分残基のさらなる解析結果についても報告する予定である。

Y-5  ハブ毒液中のエキソソームは,毒の加速進化に関わっているのか?

○弓削多 春貴1、中村 仁美2、上田 直子2、柴田 弘紀1、田中 良和1、小川 智久1
1東北大学大学院 生命科学研究科、2崇城大学 薬学部、3九州大学 生体防御医学研究所

 多様な毒ペプチド・タンパク質は,特異性の高い機能を有するが、加速進化により多様性を獲得していることが知られている。加速進化はイントロンに比べてエキソンに多くの変異を蓄積する特徴を示すが、どのような機構で加速進化するのかわかっていない。一方、蛇毒液中のエクソソームの役割が注目されている。今回ハブ毒中のエキソソームの役割を探る目的で、単離したエキソソームの内包するタンパク質をプロテオーム解析により同定した。その結果,5‘-ヌクレオチダーゼ、ホスホジエステラーゼ、Protein lin-7やMSX2結合タンパク質などのほか、逆転写酵素が含まれることが判明した。この逆転写酵素は、Westernblot法でも存在を確認した。毒液エキソソーム中にレトロトランスポゾン様逆転写酵素やヌクレアーゼなどが含まれていることが判明し,ハブ毒液エキソソームの加速進化への関与が示唆された。本演題では,毒液エキソソームが加速進化に関与するという仮説について議論したい。

Y-6  高速原子間力顕微鏡によるハブ毒液由来ホスホリパーゼA2の脂質膜分解動態の
    観察

◯角野 歩1,2、神谷 孫斗3、上田 直子4
金沢大学 ナノ生命科学研究所、2金沢大学 新学術創成研究機構、3金沢大学 自然科学研究科、4崇城大学 薬学部

 ホスホリパーゼA2(PLA2)は、細胞膜を構成するグリセロリン脂質の2位のホスホジエステル結合を加水分解する酵素で、生物の各組織、細胞にユビキタスに存在する。ハブ毒液にもPLA2が多数含まれており、代表的なものとしてPLA2とBPUが挙げられる。PLA2は49位AspがCa2+と結合することで高いホスホリパーゼ活性を有する分泌型PLA2であり、一方BPUは、Ca2+結合部位の49位AspがLysに置換した塩基性(pI10.2)のPLA2で、蛇毒に特異的に存在する。これまでに、BPUはPLA2と比較してレシチン分解活性をほとんど示さないことが明らかになっているが、PLA2よりも顕著な細胞死を誘導することや、細胞分裂を抑制した細胞にはほとんど毒性を示さないことが示されつつあり興味深い。本研究では、PLA2およびBPUの膜認識機構を明らかにするために、構成成分を制限した人工膜に対してPLA2およびBPUを作用させ、脂質膜が分解される様子を高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)によって動態観察した。結果として、PLA2と比較してBPUはほとんど膜分解せず、BPUの細胞毒性は脂質膜分解活性以外の特性によって発現されているのではないかと示唆された。分解が観察されたPLA2について詳細に解析すると、脂質膜の平面部よりも辺縁部のほうが圧倒的に分解速度が速いことや、PE分子が存在していると膜分解活性が高くなることが明らかになり、PLA2の膜分解動態に及ぼす膜構造の影響について新たな知見を得た。